2.がーる(ぼーい)みーつぼーい
いつものように、中庭で一人過ごしているとスマートフォンの通知音が鳴った。
メッセージを開くと、丁寧な挨拶の後に一言。
『今日か明日、スケジュール空いていますか?』
中学の時、一度だけ雑誌の読者モデルをやったことがある。その時に「高校生になったらバイトに来てよ」と誘われていたんだった。
「今日は早く帰るように言われているので、明日なら大丈夫です」
そう返信すると、すぐに快諾のスタンプが届いた。学校帰りにスタジオに寄ることになりそうだ。
バイトができれば、洸也への誕生日プレゼントも奮発できるかな。いや、あまり甘やかすのも良くないか。
……まぁ、バイトならボッチで暇な私にはちょうどいい。
そもそも、なぜ私が読モなんてやっているのか。それはちょっとした偶然だった。
お父さんの取引先に忘れ物を届けた時、偶然モデルの子が欠席してしまい、「代わりにお願い!」と頼み込まれたのだ。
ウィッグにフルメイク、おまけに写真の加工。出来上がった誌面はもはや別人。おかげで学校にバレることはなかったけれど、あの時に現場では褒められて悪い気はしなかった。
それはさておき、今日は洸也の誕生日だ。
欲しがっていた『Dモンカード』はどこに売っているんだろう。おもちゃ屋か、それとも量産店か。
放課後、家電量販店のおもちゃコーナーへ足を運んだ。
制服姿の女子高生が一人で歩くには少し場違いな気もしたが、可愛い弟のためだ。そんな視線は気にしない。
(……あれ?)
ふと、隣の棚が目に入った。ガムプラだ。
前世の子供時代、夢中で作った懐かしのロボットアニメ。最近は転売ヤーの影響で品薄だと聞いていたけれど……。
私は吸い寄せられるように、一つの箱を手に取った。
「あー、これこれ。ザフだよ」
やられ役の量産機。でも、この無骨なフォルムがたまらなく好きだった。
女子高生がプラモの箱を穴が開くほど見つめる。冷静に考えればシュールな光景だが、おじさんマインドに火がついた私には関係ない。
(あ、赤いザフだ。しかもラス1……!)
ライバルのシア少佐専用機。私の推しだ。
思わず手を伸ばすと、同じタイミングで別の手が伸びてきた。
「「ごめんなさい」」
声が重なった。慌てて手を引くと、相手は同じ高校の制服を着た男の子だった。
しまった、同じ学校の生徒か。明日、学校で何を言われるか……。
いや、どうせ私はボッチだ。今更何を言われてもいいか。
「福原さん……?」
なぜか、彼が私の名前を呼んだ。
キョトンとしている私に、彼は気まずそうに付け加える。
「同じクラスの……藤井です」
あ、隣の席の大人しそうな子だ。
「えっと、藤井くんだっけ?」
流石に隣の席の名前は覚えている。よく見ると結構な男前なんだよな、彼。
「福原さん、シア専……あ、どうぞ。俺はいいから」
譲ってくれるというのか。いやいや、買わない、買えないんだ。
せっかく「娘が女の子らしくなってきた」と喜んでいる両親の前で、ロボットのプラモなんて広げられるわけがない。
女の子らしく、ねぇ。
髪を伸ばしてポニーテールにして、スカートを履いている。それだけでも、元・男の私からすれば相当な重労働なのだ。
お化粧、私服、ましてや下着。超えるべきハードルはまだまだ高い。
でもね頑張ってるんだよ。
だってもう足広げて歩いたり座ったり、大声出したり、人前でゲップとか屁とかも、しないもんね!




