19.春巻きは特製
「おはよう。……はい、これ。」
「ありがと。あ、じゃあ待ち合わせ場所あっちだから……。」
「うん。じゃあねって……私もあっちだわ。ははっ。」
一緒に歩く、思わず笑顔になってしまう。
駅の待ち合わせ場所。家族しかいなかった私の連絡先には、いつの間にかクラスの美少女たちの名前が並んでいる。なんだか嬉しいような、気恥ずかしいような。
「あ、瑛里ー! こっちこっち!」
西野美佳さんが元気に手を振っている。
「あ、西野さん。おはよう」
「あー、もう、美佳って呼んでよ!」
……いや、いくらなんでも女子高生を名前で呼び捨てにするなんて、おじさんにはハードルが高いんだよ。
「あ、じゃあ……美佳……さん」
「さんもいらないって。まぁ、そのうちだね!」
隣には、久野くん率いる男子Aグループ。
「お、藤井も来たか。これで全員か」
「たけちゃん、こっちも揃ったよ。じゃあ行こうか!」
……え、ちょっと待って。
「「「…………」」」
全員、同じことを思ったはずだ。
「え、だって皆で行ったほうが楽しいじゃん?」
美佳さんが可愛らしく首を傾げる。そうなると、誰も反対できない。
結局、男女Aグループ混合の十人という、とんでもない大移動が始まってしまった。
男子Aグループは、サッカー部の久野くんを筆頭に、
・背が高くて男前なヤツ
・アイドル顔の可愛いヤツ
・強そうなゴツいヤツ
……そして、私のふじ…、じゃなくて、藤井くんの五人。
電車の中は、さながら合コン会場だな。
「福原さん、普段何してるの?」
背の高いイケメンに話しかけられたけれど、上手い返答ができるならボッチにはなっていない。会話が続かず、適当に相槌を打つ。
ふと見ると、平田ゆかりさんと藤井くんが親しげに話していた。
「藤井くんって、よく見るとカッコいいかもね!」
「いや、そんなことないと思う……。」
……なんだろう。藤井くん、心なしか満更でもなさそうな顔をしていないか?
藤井くんに彼女ができても、それはそれでいいはずなのに。
(……モヤっとする)
目的地は、由緒ある大きな神社。レポートのためにメモを取り、あとは昼食を食べて帰るだけ。休憩所で、十人並んでお弁当を広げる。
私と藤井くんの間に、ゆかりさんが座った。
「福原さん、元気ないけど大丈夫?」
「……大丈夫。」
ゆかりさんは気配りができる良い子だ。けれど、私のお弁当を見た瞬間、彼女の表情がハッとしたものに変わった。何かあったのかな?
「春巻、美味しそうだね。……これ、手作り?」
春巻好きだったのかな?
「うん。」
「瑛里が作ったの?」
「……うん。今日は、私が作った。」
ゆかりさんは何かを察したように、小声で囁いてきた。
「あ、なんだー。言ってよ。……でも、内緒にしてるなら、黙っておくね!」
?……なんのことだろう。
「藤井くん、席変わってくれる?」
「あ、ああ。いいけど」
ゆかりさんに促され、隣に藤井くんが座った。
「……よ。お弁当、美味いな」
不器用に、けれど真っ直ぐにそう言ってくれる。
(……。……。ああ、晴れた)
さっきまでのモヤモヤが、彼のその一言だけで消えていく。
校外学習のタスクが終了し、誰かが言い出した。
「この後、カラオケ行っちゃう?」
「お、いいね!」
盛り上がる一行。けれど、私にとってこのメンバーでのカラオケはハードルが高すぎる。それに、プラモの「白いポチ」を消す方法も早く教わりたい。
藤井くんが行くなら、大人しく一人で帰るしかないか……。
「あ、私は……」
「俺……」
私と藤井くんの声が被った。
「あ、瑛里は用事があるんだよね?」
ゆかりさんが助け舟を出してくれた。あれ良い人?
「うん、ごめんね。」
「藤井くんもだよね。用事あるって言ってたし」
……。
……え?
藤井くん、ゆかりさんに「用事がある」なんて言ってたんだ。
もしかして、ゆかりさんとどこかに行くとか……?
(モヤっ…。再発…。)
けれど、帰り道の電車に乗ったのは、私と藤井くんの二人だけだった。




