17.まだだ、まだ終わらんよ!
デート(仮)から明けた、月曜日。
二人分のお弁当を持って学校へ行く。駅に着くと、偶然を装った藤井くんがいて、当たり前のように鞄を持ってくれる。並んで歩く時間は、やっぱり、なんだか楽しい。
お昼休みも、二人で中庭へ。昨日の映画の話の続き。
今日は昨日みたいに早口で暴走せずに済んだ。
……変な子って思われたかな、と少し不安だったけれど、彼の優しい口調と笑顔は、トゲトゲした心をスッと落ち着かせてくれて、私も自然と笑顔になる。
やっぱり、楽しい。お弁当作りの苦労が報われる。
放課後は、いつものように作業場へ。
正直に言うと、今日中に完成させることもできた。けれど……。
「……続きは、明日でいいか」
無意識にそう思って、手を止めていた。その時は深く考えていなかったけれど、私はまだ、この「完成」を先延ばしにしたかったんだと思う。
次の日も、同じような一日。
午後に体育があったせいで少し身体が火照っていたけれど、二人でお弁当を食べた。
ふと、隣に座る藤井くんから、微かに汗の匂いがした。
普通なら「男子の汗なんて……」と顔を背けるところだろうに、なぜか嫌じゃない。むしろ、もっと近くでその匂いを感じていたい、なんて……。
(……変だな、私。おっさん脳なら、なおさら他の男の汗なんて不快なだけのはずなのに。)
深く考えると、今の自分を見失いそうだったので、あえて思考に蓋をした。
そして放課後。ついにその時が来た。
私の、赤いザフが完成したのだ。斧を持たせてポーズを決める。
「……おぉ。カッコいい。カッコいいわ。やっぱ赤だよね!」
「お? 完成だね。上手くできてるじゃん。」
藤井くんに褒められ、胸が少し高鳴る。
「藤井くんのは?」
「俺の? まだ塗ってないけど、これ。」
藤井くんが持ってきたのは、ノーマルの緑のザフ。
赤と緑、二体の機体を並べると……うん、絵になる。
けれど、並んだ二体を見ているうちに、ズンと胸が重くなった。
完成したということは、もう、ここに来る理由がなくなってしまう。
「藤井くん、ありがとね。楽しかったよ」
「ああ、俺も楽しかった。……」
お互い、しんみりとした空気が流れる。
「このザフ、ここに置いておいて、たまに見に来てもいい?」
「うん、ぜひ来てくれよ。俺、プラモ作り再開したから、毎日ここに居るし」
やった。これで来る理由ができた……けれど、完成品を見るだけじゃ、そう頻繁には来られない。
未練がましく、並んだ二体をもう一度見比べる。
「……ねぇ、何か違わない?」
私のザフと、藤井くんのザフ。色やツノの有無じゃない。何かが決定的に違う。
「そりゃ、ノーマルと指揮官機は違うけど……」
「そうじゃなくてさ!」
もう一度、穴が開くほど見比べる。藤井くんのザフにあって、私のに無いもの。……いや、逆だ。私のにあって、藤井くんのに無いもの。
「この、ポチッとした白い跡とか。パーツを合わせたところの線とか……」
藤井くんのザフには、ニッパーの切り跡(白化)も、パーツ同士の継ぎ目も、存在しないのだ。
「あ、それか。やっぱり気になる?」
「うん。それって何かやったの? どうやるの?」
もし、それを教えてもらえるなら。……明日も、ここに来ていいよね。
「ヤスリで削ったりするんだ。やってみる?」
藤井くんの声が、心なしか明るくなった気がした。
「うん! ……でも、今日はもう帰らなきゃだから、明日また来てもいい?」
「おう。もちろん」
二人の声が、目に見えて弾んだ。
「まだだ、まだ終わらんよ!」
かつてあの赤い人が放った名セリフが、脳内でリピートされる。
帰り道。いつもより足取りが軽くて、フワフワして、良い気分だった。
プラモ作りが続けられるのが、そんなに嬉しいんだな、私――。
この時の私は、まだそんな風に、自分を誤魔化していた。
今日、夜更新できないかもしれないので、気分を変えて昼間投稿します。
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