15.脚があるんです…。あんなモノは飾りです。
『それはほぼ100%、デートと呼ばれますよ』
私が藤井くんと日曜日にランチと映画を観に行くのはデートなのかどうか。AIのジェミー君に聞いてみたら、即答された。
やっぱりデートなのか。向こうもその気なんだろうか?
念のため詳しく聞くと、「可能性は高いが、無難なコースでありお礼の意味も含まれるため断定はできない」とのこと。……なんじゃそりゃ。そこはズバリ教えてよ。
「それは、100%気があるわよ!」
結局、ついお母さんにも相談してしまった。エスパー母さんの事だから、鋭く勘ぐられちゃうけど。
「……でも、お礼だって言ってたし。映画だって私が興味あるからって……」
「ふーん。でもロボットアニメに興味があるなんて……まぁ、あなたは昔からそうだし、そこは良いのだけど。……それより瑛里。」
「……はい」
風呂上がり、色気の欠片もない中学時代のジャージ姿の私を見て、母が鋭い視線を向ける。
「どの格好で行くつもり? まさか、いつもの『コニワロ』上下で行くつもりじゃないわよね?」
コニワロ。シンプルなデザインのファストファッションだ。メンズを着ても違和感がないので愛用しているのだが、私がそう思っているだけなのだろうか。
「コニワロの何が悪いの?」
「悪くないわよ。でも、もっと……そうね、お母さんがコーディネートしてあげるわ!」
母のセンスに任せると、高確率でロリファッションになる。
幼少期、私が女の子らしい服を悉く拒否し続けたせいで、娘を着飾らせたい母の欲望が変な方向に煮詰まってしまったのだ。今でも放っておくと、フリフリのパジャマを着せられそうになるので油断できない。
「お母さんの趣味は絶対にイヤ!」
そんな格好でクラスの男子と歩くなんて、社会的な死を意味する。
納得しない母に、
「明日、プリズムの人に聞いてみるから」
と約束して、
「まぁ、プロの意見なら…。」
なんとかその場を収めた。
土曜日。
バイトで雑誌『プリズム』のスタジオへ。
そこで「明日、男の子と遊びに行く服」を相談したところ――地獄の着せ替えショーが始まってしまった。撮影も同時にこなすので、本当にしんどい。
「……あの、スカート、短すぎませんか?」
「そうかな? 瑛里ちゃん、脚きれいなんだから武器に使わないと」
「脚、ですか……?」
脚、かぁ。
あの大佐に、技術者が言い放った名セリフが脳裏をよぎる。
――あんなの飾りです。
そうだよ飾りだよ。武器になんてなるかよ、と思う半面、私も元は「見る側」の人間だった。脚というパーツが持つ、飾り以上の価値は嫌というほど理解している。
「とにかく、ズボンか、せめてもう少し長いのが……」
「えー、可愛いのに。私ならキュン死しちゃうわよ。」
相談に乗ってくれているのは、編集部の担当さん。
桜川曜一朗さんという男性だが、心は乙女。すごくお洒落で話しやすく、私を200%増しで可愛くしてくれるプロだ。サクラさんって呼ばれて、皆に親しまれている。
「あ、これくらいでいいです」
「まぁ、可愛いけどね。……それじゃあ、仕留めきれんと思うよ!」
仕留めきれんって。……少佐、武器が違います、とか言えばいいのか?
結局、膝下まであるロング丈のスカートに、白いブラウス。その上にジーンズ調のジャケットを羽織るスタイルに落ち着いた。
鏡を見ると……うん。これならいけるはずだ。
その後、アンケート集計や原稿整理といった編集作業を手伝った。前世で培ったPCスキルは、十六年前より遥かに進化した今の機材でも十分に通用する。
「瑛里ちゃん。今日は助かったわ。この服、撮影で使ったやつだけど、そのまま持って帰っていいわよ」
「えっ、いいんですか? これで母に文句言われずに済みます!」
ほっと胸をなでおろし、自前のジーパンとトレーナーに着替えたら、サクラさんに呼び止められた。
「瑛里ちゃん、いつもそんな格好なの? そりゃお母様も心配するわよ!」
「そ、そんなにダメですか?」
「服自体が悪いわけじゃないの。ほら、そのジャケットを羽織って、髪をこう上げて。靴もこれに履き替えてみて」
……あ、あれ?
いつの間にか、鏡の中に「お洒落女子」がいた。これ、私のジーパンとトレーナーだよね?
「勉強になります! 凄いです……」
「瑛里ちゃんもウチのモデルなんだから、自覚を持ってね。普段着から気をつけるのよ!」
「は、はいぃ……」
「素は良いんだからね。自信持って!」
頑張らないと、だね。
女子高生のハードルは、想像以上に高い。




