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11.女って、道に迷いやすいの?


『福原』って、呼び捨てしちゃったな。

お弁当、めっちゃ美味かったよな。

俺のニッパー使ってくれたよな。

髪をかき上げる仕草、良かったな。


……指先、触れたよな。


「……あ、また。」

なんだろうな、これ。最近、明らかにティッシュペーパーの使用量が増えている。ゴミ箱の残骸を見て、ちょっと、自己嫌悪と言うか。


落ち着け。俺はそんな下心だけの人間じゃないはずだ。


困ってそうだったから手伝った。喜んでくれたから、俺も嬉しかった。それだけのはず。


『明日も、来ていい?』

……あぁ、もう! 思い出すだけで心臓に悪い。いや、嬉しいのか?


手を洗いながら考える。あ、そういえば彼女、駅までの道わかるかな。

晩飯と、明日の朝飯。それから……ティッシュも買いに行かないとな。



ーーーーーーーーーー


藤井くんの作業場を出て、数分――いや、もう少し経っただろうか。


……迷った。駅はどっちだ?


瑛里になってから、どうにも方向感覚がおかしい。

前世では一度見た地図は忘れない自信があったのに、今はグルグルマップを見ても、まるで謎解きゲームをさせられている気分になる。解けないゲームで意地悪されているようにさえ感じる。


(……一度、戻ろう)

引き返すと、見覚えのある道に出た。あまり曲がったりしなくて良かった。


「福原っ!」


声のする方を見ると、藤井くんが自転車で追いかけてきた。助かった。

なんだか、さっきより表情がスッキリしている気がするが……まぁ、それはどうでもいいか。


「送っていくよ。まだこんなところにいたんだ。」

「うん、ちょっと迷っちゃって。」

「あー、そっか。わかりづらいよな。案内するよ。」


本当に優しい、いいヤツ。

「ありがと。買い物に行くんだっけ?」

「ああ。晩飯と、明日の朝食。母さんは仕事が忙しくて家事に手が回らないから、基本は買い食いなんだ。去年までは、じいちゃんがいたんだけどな……」


そういえば、去年亡くなったって言ってたっけ。

かける言葉が見つからず、黙って彼の隣を歩く。明るく開けた場所に出ると、駅が見えた。


「あ、そこのスーパー行くから。」

藤井くん、食事大変そうだな。育ち盛りだしね。

「あのさ……こんどまたって言ったけど、明日も、お弁当作ってこようか?」

「えっ? あ、でも悪いよ」

「大丈夫。一個作るのも二個作るのも、手間は変わらないから。……じゃあ、また明日ね!」

返事は聞かずに、逃げるように別れた。嫌だって言われたら立ち直れない。

手間が変わらないなんてのも嘘だけどね。明日も頑張ろう。


ー夜ー


「ただいまー」

家に着くと、もう八時前。

「おかえり。遅かったわねぇ」

出迎えた母が、あからさまにニヤついている。

「……着替えてくる」

慣れないスカートを脱ぎ捨て、中学時代のジャージに着替えてリビングへ戻る。

「瑛里、春が来たっていうのに、その格好……」

「いいでしょ。別に家だし…。」

「もう!で、お弁当渡せた? どうだった?」

「美味しいって。だから明日も作ろうかなって……」

「ふふふ、良かったじゃない。明日も、ね」

母のニヤつきが止まらない。

「そんなんじゃないから! 隣の席で、いろいろ教えてもらってるお礼だから。でも、まぁ、よく見たら……って、何言わせるのよ! さ、ご飯たべよ!」

「安心したわ。アンタもちゃんと女の子だったのね。あ、でも、お父さんが帰る八時までには戻ってきなさいよ。」

食後は、弟の洸也に捕まった。

「ねーちゃん、スモブラやろーぜ!」

小学五年生のゲーマーにはなかなか勝てない。元男のプライドで挑むが、三回に一回勝てるかどうかだ。これも地図と同じで、脳が女子化して「ゲームが下手」になっている気がする。


「ねーちゃんとやると面白いんだよなー。航介のねーちゃんなんか、全然できなくてつまんないし」

近所の航介くんのお姉ちゃんは、確か「ザ・女の子」という感じの可愛い子だったはず。


私は、何とか戦えてるもんね!



次の日。私は早起きしてお弁当を作った。

地図が読めなくなった代わりに。ゲームが下手になった代わりに。お弁当作りは、前より上手くなった気がする。

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