101.新学期そして⋯
初詣は、あのまま瑛祐くんと楓さんと三人で行った。
「瑛里ちゃん。今度、和装の着物、試作してるから着てね」
晴れやかに着物を着ている女性たちを見て、楓さんが言った。
若い女性に大人気のKaedeブランドの着物か……。浴衣は、最初売れなかったそうだけれど、あの花火大会のイベント以降、売れ行きは好調で完売したらしい。
着物かぁ……ちょっと面倒だよね。
でも、Kaedeブランドの浴衣は着やすくて動きやすかった。なら今回も大丈夫かな。
「ぜひ、着てみたいです」
「お願いね。なんか瑛里ちゃんが着ると、売り上げが上がるらしいから」
えっ、そうなのかな? 人気が出てきたとは聞いていたけれど……。そこまでじゃないよね。大人の社交辞令でしょう。
「瑛祐くんは、何をお願いしたの?」
「俺? まあ、これからも瑛里と仲良くしたいってことかな。瑛里は?」
「私も一緒かな……」
2人で目を合わせて、笑顔になる。
冬休みは短い。あっという間に三学期が始まる。
お弁当作りから始まる、いつもの日常。
クラス分けの希望調査票を提出した。
志望校は、地元の国立大学の文学部。
瑛祐くんは、国立理系でロボット作るらしい。
瑛祐くんは理系クラス。私は文系。
国立進学クラスに入れれば、別クラスでも授業が一緒になることもあるらしいけれど。
「これで、良かったんだよね」
二年生からは、クラスが別になる。私の心は、不安でいっぱいで⋯。
「そうだね。正直、クラスが離れるのは嫌だけど。……一緒にいたいからっていう理由で将来を決めるのは、違うと思う」
お互いに夢⋯じゃないな将来の目標があるから。
でも、こういう所をちゃんとしているのが、彼の好きなところ。
アキラさんにそんな教育ができたとは思えないけれどね……。
――人は変わるものよ。
た、確かに。エイジは女子高生になってしまっている。変わりすぎだね。
「クラスが離れても、お弁当は作ってくるからね」
「……いいのか? 嬉しいな」
「卒業するまでは、ずっと二人でお昼は食べるからね」
「おぉ、当然だ。約束だからな」
「登下校も一緒だからね」
「あぁ。駅まで迎えに行くし、帰りは駅まで送るよ」
「プラモ作りも、教えてね」
「うん。もちろん、ずっと一緒に作ろう」
ちょっと泣きそうになるけれど、別れるわけでも、離れ離れになるわけでもない。
「これからも、一緒だね」
と言い合って笑った。
……最近、というか年が明けてから、瑛祐くんが眠そうにしていることが増えた気がする。
放課後、私が帰るまでは塗装のやり方を教えてくれて、それから自分の作業をしているっぽい。
「瑛祐くん。作業があるならやっていいよ。分からなくなったら聞くから」
「いや、瑛里といる時は一緒に作業したいからな」
それは嬉しいんだけど⋯。
「でも……なんだか最近、眠そうだし」
「そっか……。あ、でも、昨日で作業が一段落したから大丈夫だよ」
「ところで、何作ってるの?」
大作を作っているにしては、作りかけのキットやランナーが見当たらない。
「うん。まあ、イロイロとな。……あ、もう帰る時間じゃねぇ?」
「あ、ホントだ。着替えてくるね」
「おぅ。駅まで送るから、待ってるよ」
塗装をするようになって、制服が汚れないように放課後の作業は着替えてやるようにしている。まあ、ジャケットを脱いで中学の時のジャージを着るだけなんですが。
その場で着替えようとすると、
「瑛里……流石にそこで着替えるのは……。あっちの部屋を使ってくれ」
「えっ、あ、そうだよね」
と、仏壇の部屋で着替えさせてもらっている。
よく飲み潰れて、ここで寝たなぁ。前世の時の話だけど。
初老に差し掛かった私の知らないアキラさんの写真が、遺影として仏壇に飾られている。
⋯年食ったね。でも益々カッコよくなっちゃって⋯
アキラさんが今の私の着替えを覗くのは、犯罪だよ!
でも、まあ、いいか。写真だし⋯。
駅まで一緒に歩き、改札で瑛祐くんの手と私の手を合わせて、
「じゃあね。また明日」
って離れようとしたら、彼が呼び指を絡めて、止めてきた。
なんか、うん。と納得したような表情の後
「あ、明日……十五日だよな」
と聞いてきた。
「うん、そうだね」
「明日、バイトとか無いよな?」
「えっと、そうだね。入れてないかな」
「じゃあさ。明日も、来るよな?」
「まあ、そうなるかな。行けると思うよ」
「おけ。じゃあ、明日だな」
「うん。明日ね」
と別れて、電車の中で気づいた。
明日、明日って。バイトが無かったら、放課後は普通にアトリエに行くじゃんね。なんであんなに「明日」にこだわってたんだろ。
……って、一月十五日って、私の誕生日だった。
……。
なんだろ? 何かくれるのかな……。
クリスマスの時に明日が誕生日って言ったから、忘れてないと思うけど⋯。
特に何もしないで良いとは、言ったものの⋯
とりあえず明日は、一番お気に入りの下着をつけてこっと。念のため⋯ね。
もしかして何かあげるのは、私のほうかもしれない⋯
人は変わっていくのね⋯。
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