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100.お正月


「やだ、なにこれ、使いやすい……」


瑛祐くんがくれたクリスマスプレゼントを、さっそく実戦投入してみる。

ニッパー、金属ヤスリ、デザインナイフ、ピンセット。


アキラさん直伝の瑛祐くんから借りていた道具だって使いにくかったわけじゃないけれど……これは別格だ。私の手に馴染む。

瑛里専用ツールセットだね。赤く塗ろっかな⋯。


道具によるグレードアップを果たした私は、ついに『ゲルブブ』の素組みを完成させた。


期末テストのせいで遅々として進まなかったけれど、本番はこれからだよ。


ハードゲイ……じゃなくて、ハイグレード(HG)のプラモは、基本的には色分けされていて、塗装しなくてもある程度は満足できる。


ただ、このキットは割と古いせいか、成形色(専門用語、覚えたよ!)がどうも自然じゃない。なんか……ね。つや消しを吹いたら、少しは良くなるかな?


「お、組み上がってるね」

「うん……」

「やっぱり、物足りない感じ?」

「だから、このキットで塗装しようって、瑛祐くん言ったんだね」

「お、わかってくれた。流石は瑛里」

何が流石なのかは分からないけれど。

「もうちょっと、くすんだ色にしたいかな。あと、この盾の裏……黒くしないと」

「そうだね。わかってるじゃん。一回バラして、サフ吹くか」

「サフ?」

また新しい言葉だ。

「サーフェイサーのこと。塗装の下地を作るんだよ」


エアブラシの使い方は、一通り教えてもらっている。

でも、まだまだ知らないことが多すぎて、どっぷりと「沼」にハマってしまっているなぁ……。


思えば、最初にシア専用ザフを組んで満足していたら、こんなことにはなっていなかったかもしれない。

あの時取ったヤスリが、この沼に足を踏み入れる「きっかけ」だったよ。


ふと顔を上げると、私のために色々と試行錯誤してくれる男の子がいる。


この沼も、深いよな。

もう、どっぷりどころか、私自身の全身が「沼化」してきているよ。

……ちょっと自分で考えていて意味が分からないけれど。


見つめていると、瑛祐くんがふと顔を上げた。


「ん、どうした?」

「ううん、何も……」

って、見つめ合っちゃうと、キスしたくなっちゃうじゃん。


「瑛里……キ、キスしようか?」

「うん」


瑛祐くんから、言ってくれた。同じ気持ちなんだって分かって、めっちゃ嬉しいな。

ゲルブブは、サフによって一度全部単色になって、これから「私の色」に塗り直される。

私だってまだ真っ白だから、瑛祐くんが好きに塗っていいんだよ……。


って、何いってるんだろうね。

     




お正月は、大晦日にテレビを観て、朝にお雑煮とおせちを食べた。


「おせち料理」というほど立派なものじゃないけれど、お母さん私で作ったのをお重を詰めたのでみんなで食べる。


お年玉も、瑛里はまだ十五歳だから、当然もらっちゃう。


「お父さん、いつもありがとう」

そう言って肩もみなどのスキンシップをすると、お父さんもご機嫌。


ただ――。


「瑛里、これ楓さんにも渡してね」

朝、詰め直した小さなお重。瑛祐くん用のいつものお弁当箱に詰めていると、お母さんが「いつも世話になってるんだから」と、藤井家へのお裾分け用に二段のお重を完成させてしまった。


「正月から、行くのか……?」

低い声が聞こえる、お父さんの機嫌は急降下。けれど、

「気にせんでいいから、いってらっしゃい」

とお母さんに送り出されて、家を出た。

     


瑛祐くんのアトリエに着くと、楓さんもいた。

「あけましておめでとうございます」

「あ、瑛里ちゃん。来たのね、あけましておめでとう」

瑛祐くんもいる。

「あけましておめでとう、瑛里」

「あ、それが福原家のおせち料理?」

楓さんが、私の持ってきた包みをじっと見て聞いてきた。


お母さんネットワークか。持っていくって、あらかじめ知らせていたんだな。

でも、その食いつき……息子エイスケさんそっくりですよ。


お昼に、三人でおせちをつつく。

……。

やっぱりこの親子、私の両隣に座って、私を挟み撃ちにするよね。

……バーズアクスにおける「マブ戦法」ってやつですか。現代戦は3人一組が基本ですよ。


あ、でもこの隊形だと、私が小隊長⋯。


それは、無いか。


「これ美味いな、瑛里」

「うん。あ、それ私が作ったやつ」

「やっぱり。美味いよ。これ好き」

「じゃあ、普段のお弁当にも採用しよっかな」

「おぉ、頼む」


「瑛里ちゃん、どれも美味しいわ」

「あ、ありがとうございます」

「⋯瑛祐のこと、捨てないでね」

……捨てない捨てない。


「まあ、瑛祐くんに嫌われない限り、大丈夫ですよ」

「じゃあ大丈夫か。来年も再来年も、このおせち料理が食べられるのね」

「はい。気に入ってもらえて良かったです」


私が笑顔になると、それが楓さんに突き刺さったようで。


「もう、瑛祐! 絶対に離しちゃダメよ!」

「何言ってんだよ。言われなくても離さねえよ」

恥ずかしいから、私を挟んでそんなこと言い合わないでください……。


「もたもたしてたら、私が瑛里ちゃんを嫁に貰うからね」

「もたもたってなんだよ。瑛里は俺の彼女だぞ」


あの、私を挟んで親子で取り合わないで……。


でも瑛祐くん、楓さんに対する少しキツめの口調も、なんだか可愛くて好きだよ。


「もたもたなんて、しねえよ」


小さな呟きが聞こえた。

なんだか、キリッとした決意の表情……。

……。


これ、近々、私、抱かれちゃうのかな?


この3人だと、瑛里がお母さんだね。


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