10.コイツ…切れるぞ。
さあ、腹ごしらえも終わった。
「腹が減っては戦はできぬ」とも言う。
私が食べたわけじゃないし、これから戦うわけでもないけれど。
空になったお弁当箱が、なんだかさっきより愛おしく感じる。
……カバンに入っている時は、あんなに重かったのに。
「さて、本題だね。」
目の前にはプラモデルの箱。赤いロボット、**『シア専ザフ』**のイラストが躍る。
敵を蹴り飛ばすポージング。格闘が得意なシア様ならではの構図だ。
(……兵器ロボットで格闘戦って、冷静に考えるとツッコミどころ満載だよなぁ)
デザインに「カワイイ」の欠片もない。完全に男の子、もとい、おじさんホイホイだ。
でも、今の私にはこれでいい。これがいい。
箱を開けると、ビニールに包まれたプラスチックのパーツたちが現れた。
「ほう……色分けされているのか。」
私の記憶にあるプラモは、もっと単色で、形も不格好だった気がする。こんなに綺麗じゃなかった。
前世では塗装なんて高度な技術は持っていなかったし、どの塗料を買えばいいかさえ分からなかったっけ。
説明書の完成図を眺める。コレが出来るのか。良いなぁ。
「よし、これを作ろう!」
…。
「あれ? どこからやるのかな……。あ、ここか」
ランナーは小さいものを含めて七枚。それにポリキャップというゴムパーツ。あとはシール。
今のプラモは、随分と複雑になっているらしい。
えっと、それからと。戸惑っていると
「次のページの①から始めるんだよ」
不意に横から声がして心臓が跳ねる。ちょっと、おちつこ、私。でも、優しくて心地よい声。
「うん。えっと、まずはボディからなんだね?」
「そう。順番にやれば簡単だから」
説明書によると、Aの⑤とC1の㉑を組み合わせるらしい。
「Aはこれ……⑤は、あった」
これだけ見ても何のパーツかさっぱりだけど、とりあえず指で押し出そうとした。ハサミが必要だった気もするけど、手でいけそうだ。
「あ、ちょっと待って。無理に取らないほうがいい」
藤井くん――もとい、師匠から待ったがかかった。
「え? あ、ごめん。どうすればいい?」
藤井くんは机の引き出しから、刃先が短くて太いペンチのようなものを取り出した。
「これ使っていいよ」
「これは?」
「ニッパーだよ。……ちょっと貸してみ」
彼は器用にニッパーの刃を当てると、パチン、パチンと心地よい音を立ててパーツを切り出した。
器用切り出していく、なんだか指先の動きがキレイ。
「こうやって少し離して切ってから、残った部分を平らに落とすんだ」
「へぇー……すごい。綺麗に取れるんだね」
「そんな事で……。福原もやってみ」
……あれ。今、さらっと呼び捨てにされた?
全然いい。むしろ歓迎。うん、なんかよい。
私は言われた通り、もう一つのパーツにニッパーを入れる。驚くほどサクッと切れた。
コイツ、切れるぞ。
「おー、上手い上手い。」
「やった」
褒められちゃった。……でも人間、本当に思っていることは二回言わないって、昨日のテレビで誰かが言ってたっけ。
でも「大事なことは二回言う」っていう意見もある。
気を取り直して、切り出した二つのパーツをはめ合わせる。
パチッ。
意外と力がいる。か弱い女の子(自称)の指先だと、ちょっと手強いところもあるみたいだ。
次は筒状のパーツをはめ込む工程。ん、ムズい。
「これ、どうやるの……?」
戸惑っていると、彼が横から手を伸ばして手伝ってくれた。
「それはこう」
「あ、ありがと。できたね」
ちょっと手が触れちゃったけど、気にしない。彼は教えてくれる師匠なんだから。
…気にしない。
気に…、なって顔に血がのぼってくるけど、気のせい。だよ。
それから、どれくらい時間が経っただろう。
「いっこ、できた……!」
まだ全体のほんの一部だけど、ロボットの胴体が形になった。
中には動力パイプのようなディテールまで再現されている。
「すごいな……接着剤なしでここまでできるなんて」
コーン、コーン……。
奥の部屋から、時計の鐘の音が聞こえてきた。
「あ、もう七時……!?」
時間が経つのが早すぎる。早く帰らないと、流石に家で心配される。
「あ、じいちゃんが七時に飯食ってたから、その合図」
「私、もう帰らなきゃ。……まだ全然途中だけど」
「いいよ。置いておくから、また来ればいい」
「……じゃあ、明日も、来ていい?」
「うん。明日ね!」
藤井くんの家から駅まで、歩いて行く。
門限が気になるけれど、不思議と足取りは軽かった。
明日も、また約束しちゃったな。
肩は少し凝ったけれど、心はふわふわと弾んでいた。
ようやくプラモ作り始めました。
今日は、残業しなかったので、早めに投稿してみました。よろしく。




