きんたま姫と教育係 〜異世界の姫様に言葉を教えるゲームを配信してアホな言葉を教えた結果〜
「今日から君はきんたまだ!」
ゲーム実況配信者のタクミはキーボードを叩きながら笑っていた。
現在、15年前に流行った携帯ゲーム機の【異世界のお姫さまの教育係になって言葉を教えるゲーム】を配信している。
みんなが流行最先端のゲームを発売日当日に配信する中、タクミだけは逆張りをしていた。
今のゲームは規制が多く、ゴミだのカスだのという言葉を教えようとするとシステムに弾かれてしまう。
しかしこのゲームは平成の、まだ規制が緩かった頃に製作されている。
猥談でも何でも入力し放題だ。
しかもこの系統のゲームにはほぼストーリーがなく、エンディングもないから永遠に続けられる。
『あなたの名前をおしえてください』
教育係の名前を入れる項目が出た。
『世界一かっこいいタクミ様』
悪ふざけで入力したが、姫は律儀に「世界一かっこいいタクミ様」と呼んでくる。
トークロイド読み上げの抑揚のない声が更に笑いを加速する。
視聴者コメントが次々と入る。
─きんたまちゃん、呼ぶのかよwww
─ひでぇwww
─いともたやすく行われるえげつない行為
タクミは腹筋を抑えながらタッチペンで操作を続ける。
『世界一かっこいいタクミ様の世界で、会ったときのあいさつを教えてください』
『たのもー!』
『たのもー! ですね。わかりました。たのもー!』
きんたま姫5歳が、道場破りみたいなあいさつを連呼する。
『たのもー! 世界一かっこいいタクミ様。今は何がはやっていますか?』
『おなら大会』
『まぁ。おなら大会。わたしも参加したいです』
─もうやめたげてよぉwww
─やな教育係だなぁ、おい
「やー。レトロゲー最高! お姫さまにめちゃくちゃな言葉を教えるの楽しい! 今時のゲームじゃこうはいかないもんな!」
コメント欄は笑いの嵐。
タクミは調子に乗ってさらに馬鹿げた言葉を教え続けた。
「ありがとう」の代わりに「礼はいらねーぜ」や、「さようなら」を「アバよ」など、次から次へときんたま姫に教え込む。
その結果、きんたま姫はゲーム内で立派な(?)アホに育った。
2時間の配信を終えたタクミはベッドに転がり込み、急に強烈な眠気に襲われた。
気づけば、目の前には見慣れない、高くて豪華な天井と、輝くシャンデリア。
「ここ、どこだ……?」
夢にしては、床の冷たい感触が嫌にリアルだ。
床。
ベッドに寝ていたはずなのに。
あたりを見回すと、目の前には青いドレスを着た美しい少女が立っていた。
ストレートの長い黒髪がさらさらと揺れる。
少女はタクミを見るなり満面の笑みを浮かべた。
「たのもー! 世界一かっこいいタクミ様! ずっと会いたかったですぜ! 私はきんたまです! あなたにいろんなことを教えてもらったきんたま!」
タクミは絶句した。
目の前にいるのは、成長したきんたま姫。
しかも、ゲーム内で教えた馬鹿な言葉をそのまま使っている。
タクミは頭を抱えた。
最近流行りのゲーム世界召喚。
あの教育ゲームの世界に召喚されてしまったのか。
しかもアホに育てたきんたま姫の世界に。
「世界一かっこいいタクミ様! うちの最高位の魔術師たちが力を結集して世界一かっこいいタクミ様を召喚したんだぜ! あなたに用があったから!」
「……待って、意味がわからない」
タクミは混乱していた。
「世界一かっこいいタクミ様、結婚してくれだぜ! あんたの男気にフォーリンラブなんだぜ!」
「はぁ?!」
タクミは思わず声を上げた。
まさか、ゲームの姫にアホな教育を施して求婚されることになるとは夢にも思っていなかった。
いや、夢であってくれ。
見た目は誰もが振り向く美少女なのに、発する言葉のすべてが残念すぎる。
こんなにしたのはタクミである。
「いや、待て待て待て待て、待ってくださいすみませんお願いします。冗談はよしこさん!」
「冗談はよしこさんじゃありませんですぜ! 何度でも言うぜ、フォーリンラブでラブズっキュン!」
きんたま姫はさらに一歩前に進み、タクミの手をぎゅっと握った。
「なんでこうなるんだよ……!」
日本に帰る方法は見つからず、というか魔術師たちが帰す魔法を研究する気ゼロで帰れない。
こうして、タクミは異世界できんたま姫の夫となり、国を支えていくことになった。
END