表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
面影橋  作者: 橋本 健史
5/25

第五話

全二十五回連載の五回目です。

 夢から覚めたらどうしたって現実という厄介なやつと向き合わなくてはならないのが世の常ですが、どうにもうまく折り合いをつけることができず、日々の現実に適応できないもどかしさと気疲れに、心がずっしりと重くなります。世に言う五月病というやつでしょう。講義についていけなくてしんどいとか、友人ができなくて寂しいとか、そんなことならある程度覚悟の上での上京で、そういうのには強い方だと思うのですが、自分でも意外だったのは、北海道が無性になつかしくなったことです。あの無辺の空と清爽な風が。

 私は札幌と旭川の真ん中くらい、石狩川と空知川が交わる辺り、昔は炭鉱で栄えたけれど今ではこれといった産業もない平凡な地方都市で生まれ育ちましたが、自然だけは豊富にありました。大学は札幌で過ごしましたが、大自然のミニチュアのような広大で緑豊かなキャンパスはそのポプラ並木が観光名所にもなっており、日本一恵まれた環境で学べたことに感謝しています。ただ私は自然児ではさらさらなく、生粋の文科系インドア派です。そんな私ですら、またしても月並みですけれど、東京には空がないというのはなるほどこういうことかと実感しました。本気で空気が薄いと感じました。気のせいではなく息苦しかったです。札幌というのは考えてみたら不思議なところで、私にしたら大都市には違いないのですが、でもどこか巨大な田舎のようなおおらかさがありました。郷愁が病的なほど嵩じて、ホームシックの元となったheimwehという言葉の意味が身に染みて分かりました。神田川の流れをいくらながめたところで、空知川と違って慰められることなどありません。東京で暮らす北海道出身者はたくさんいると思いますが、みんなどうしているのでしょう。言葉にするのもおぞましいですが、Gから始まる名前の害虫に生まれて初めて遭遇しました。本気で心臓が止まるかと思いました。この話をすると周りはいぶかしがるのですが、私と同じように実物は見たことがないという北海道の人は多いと思います。部屋中に薬を撒きましたが、しばらくはアパートに帰るのが怖かったです。それに東京にはセコマがありません。そもそもセコマと言っても誰にも通じません。正式にはセイコーマートという北海道ローカルのコンビニチェーンのことなんですが、コンビニでありながら個性的すぎるあの品ぞろえを説明するのも難しいです。道産食材に異様にこだわったあの格安総菜なしで、怠惰な単身者がどう暮らしていけというのでしょう。その他もろもろ、東京に生息する道産子たちは本当にどう適応しているのかと思っていたら、どうやら悩んでいたのは私だけではなかったようでした。

本作とも密接な(?)関連のある作品「カオルとカオリ」をセルフ出版(ペーパーバック、電子書籍)しています。こちらの舞台は北海道で、ティーンエイジャーである3人の少年少女が織りなす四つの物語から成る連作形式の青春小説です。第一部の「林檎の味」は小説家になろうでも公開しています。

⇒ https://ncode.syosetu.com/n8436il/


ご興味をお持ちいただけましたら、購入をご検討いただけますと幸いです。

ペーパーバック版 ⇒ https://www.amazon.co.jp/dp/B0CJXHQW1G

電子書籍版 ⇒ https://www.amazon.co.jp/dp/B0CJXLHMTB

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ