第二話
全二十五回連載の二回目です。
と、ここまで書いておいて何なんですが、私、実のところ桜ってあんまり好きじゃなかったみたいで、すぐにうんざりしてきて、浮かれ気分もすっかりしぼんでしまいました。何て言ったらいいんでしょう、これ見よがしのわざとらしさに壮士気取りの俗っぽさ、甲高いアジテーションまで聞こえてきそうな感じで、私の性分に合うはずもなく、見ていて気恥ずかしくなってきました。何事も浴びるほど見るもんじゃありません。
もっともこんな気分の急降下を一方的に花のせいにするのはフェアでなく、私自身の問題でもありました。新しい生活に強い不安を感じていたのです。研究室の顔合わせがあったのですが、大学の学部の時とは違って人間関係は既にあらかたでき上がっているようで、その輪の中に入って行くという、私にとって一番苦手なシチュエーションでした。それに周りはみんな頭脳明晰オーラを出していて、私のようないかにも地方出というぼおっとしたタイプは見当たりません。もちろん地方出身の学生だっているんでしょうが、東京の風に4年も当たっていれば、どんな山出しの子だって見かけだけは賢そうになるものでしょう。マウントできそうな相手を探している自分のさもしさに嫌な気がしました。講義や演習もぼちぼち始まりましたが、レベルは総じて高く、ついていけるやらどうやら。そんな気がかりを覚えながら、晴れやかに咲き誇る桜に当てられていると、ますます気後れするばかりです。
それと月並みですけれども、昔から色々な人が言っているように、桜って確かに死を連想させるものがあるような気がします。デモーニッシュとでも言うのか、見ていてふっと憑かれて深淵にでも引き込まれそうな、そんな感じです。で、ちょっと不思議なことがありました。まあ、不思議ってほどのことでもないかもしれませんが。
本作とも密接な(?)関連のある作品「カオルとカオリ」をセルフ出版(ペーパーバック、電子書籍)しています。こちらの舞台は北海道で、ティーンエイジャーである3人の少年少女が織りなす四つの物語から成る連作形式の青春小説です。第一部の「林檎の味」は小説家になろうでも公開しています。
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