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7. ユリアンナの協力者

「なんかよく分からないけど、とにかく詳しく説明してよ。魔法を教えるかどうかはそれから考える」


 オズワルドはユリアンナの話を聞く気になったのか、真っ直ぐにユリアンナを見据える。


「分かりました。少し長くなりますが、取り敢えずわたくしの話を全部聞いてくださいますか?」


 ユリアンナはオズワルドに、その身にこれから起こること、つまり《イケパー》の内容を全て話すことにした。

 〝稀代の悪女〟のままではオズワルドにユリアンナのお願いを聞いてもらえない可能性が高いからである。


「………………というわけで、わたくしは学園卒業後に犯罪者として断罪されてしまうのです」


 ユリアンナがゲームの内容をかい摘んで説明すると、オズワルドは何とも言えない不可解な表情をしてしばらく押し黙った後、困惑したように口を開く。


「……ちょっと待って。今の話をどう信じろと?俺や……アレックスが学園で出会った男爵令嬢に心を奪われる?それで……アンタはギロチン処刑か国外追放?現実味がなさすぎるだろ」


「それが真実かどうかは今はさほど重要ではございません。どうせ学園に入れば自ずと分かることですし」


「いやいや、アンタの空想話に付き合う義理は俺にはないよ」


「……それでは、調べてみては如何でしょうか?ミリカ・ローウェンという男爵令嬢が本当に存在するかどうか」


 このイビアータ王国には4つの公爵家、36の侯爵家、192の伯爵家と、子爵・男爵家は合わせて600家以上存在しており、全ての貴族を把握するのは王族でも難しい。

 しかもヒロインの生家であるローウェン家は片田舎の伯爵領主に仕える使用人の一族で、領地も持たない弱小貴族である。

 そんなほぼ貴族とも言えない出身の者がゴールドローズ学園に入ることなど、通常は考えられない。


「………確かにそのローウェンとかいう令嬢がゴールドローズ学園に本当に入学するのならば、アンタの話の信憑性は高まるだろうね。いずれにせよ、一年後にはアンタの話が本当かどうかは分かるわけだ」


 オズワルドは腕組みをして頷いたが、すぐにユリアンナに厳しい視線を向ける。


「……だがそれが本当だとして、俺がアンタに協力する理由にはならないだろ?」


 オズワルドの言うことは尤もである。

 この時点でユリアンナとオズワルドは初対面、2人の間には何の貸し借りもない。

 それどころか、オズワルドの唯一の友人であるアレックスはユリアンナを疎んでいるのだから、どちらかといえばオズワルドの中のユリアンナの印象は悪いだろう。


「………わたくしが貴方に協力を仰いだのは、()()()()()()()()()()()()からです」


 ユリアンナはそうポツりと呟くと、その長い睫毛を寂しげに伏せる。


「オズワルド様は先ほどのわたくしの話を聞いて、おかしいと思いませんでしたか?罪を犯したとはいえ、シルベスカ公爵家の力をもってすればわたくしへの処罰を軽くすることはできるはず」


 そこまで話を聞いたところで、オズワルドは何かに気づいたようにハッと表情を変える。


「………わたくしは父にとって、王家と繋がるための〝駒〟でしかありません。そして、アレックス殿下から捨てられたわたくしは()()()()()()だということです」


 ユリアンナは自分で自分の話をしながら、何だか泣きたくなってきた。

 前世でも、琴子は両親から捨てられ家族に疎まれていた。

 それでも腐らず人に迷惑をかけず懸命に生きていたはずだ。

 それなのに何の因果か、転生してもなお人から疎まれる人生だとは。


「貴方もご存知の通り、わたくしは〝稀代の悪女〟ですから他に協力してくれる人などおりません。しかし同じ痛みを知る貴方ならば、もしやわたくしのような者にも偏見なく接していただけるかと、最後の希望を持って訪ねた次第です」


 ユリアンナがオズワルドに協力依頼を仰ぐと決めたのは、オズワルドならばユリアンナに同情してくれるかもしれないと考えたからだ。

 オズワルドはユリアンナから語られたことにしばし混乱する表情を見せた後、再び口を開く。


「いやいや、ちょっと待て。そもそもアンタがローウェンとかいう人に嫌がらせしなければ断罪されないんじゃないの?」


 オズワルドの考えることは至極真っ当だ。

 それを説明するには、まずはユリアンナが転生者であることを理解してもらわねばならないが、今はまだその時ではないだろう。

 

「すでにわたくしの評価は地に落ちていますから、遠からず殿下との婚約は解消されるでしょう。そうなれば、どちらにしろわたくしは公爵家を追い出されます。だって、役に立たない〝駒〟は必要ないのだから」


 シルベスカ公爵家はすでに貴族の中で一番力を持っているため、政略結婚で他の貴族家と繋がる必要がない。

 王家に嫁がないのであればユリアンナの〝駒〟としての価値は然程ないどころか、醜聞まみれのユリアンナはお荷物にしかならないのである。


「正直に言いまして、市井で暮らすことに忌避感はないのです。ただわたくしはこのように無駄に派手な容姿をしておりますから、無力のまま市井に出ればどのような目に遭うか、貴方にも想像はできるでしょう?」


「………それで、身を守るために魔法を学びたいと?」


「仰る通りでございます」


 会話を終えしばらく逡巡した後、オズワルドは気まずそうに頭を掻きながらボソボソと呟く。


「……そもそも、アンタ、俺の容姿が怖くないの?」


「怖い?……何故でしょう?」


 ユリアンナが反射的にそう答えると、オズワルドは驚いたように目を丸くする。

 その時、ユリアンナは漸くオズワルドの設定を思い出す。


(……そういえば、黒髪黒眼はこの国で忌み嫌われているのだったわね)


「わたくしは、その黒い髪も黒い瞳も、とても素敵だと思います。……何だか親近感も湧きますし」


(前世は日本人だったからね)


「親近感?………アンタ、変な人だな。………いいよ。魔法、教えてあげるよ」


 オズワルドは照れを隠すようにそう言うと、ぶっきらぼうに右手を差し出してきた。

 ユリアンナは差し出された手をしっかりと握り、握手を交わした。

 協力者ができたことに心から安堵し、ユリアンナは微笑んだ。




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