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番外 攻略対象者たちのその後 〜アレックス編

本日から番外編スタートです。

登場人物たちの番外編が5話+ユリアンナとオズワルドの番外編が11話になります。


 執務に一区切りをつけ、アレックスは持っていたペンを置く。

 執務室の窓に目を向けると、澄み渡るような青い空がどこまでも広がっている。

 こんな空を見ていると、アレックスは決まってあの日のことを思い出す。

 ユリアンナとオズワルドが旅立った日のことを。


 あの日、ユリアンナは晴れ晴れとした表情で王城を後にした。

 聞けば学園に入学する1年前から、国外に出ることを考えて準備していたのだという。

 つまり、ユリアンナはその頃からアレックスの妃となる道を捨てていたのだ。

 その事実に、アレックスの胸は酷く痛んだ。


 アレックスがユリアンナとの関係を改善しようと歩み寄り、ユリアンナとの未来が何となく想像できるようになった時も。

 ユリアンナは自分との未来など少しも描いていなかったのだと知り、非常に落胆した。


 しかしそのことでユリアンナを責める権利はアレックスにはない。

 先にユリアンナの手を離したのは、他でもないアレックス自身なのだから。


 ユリアンナの公爵家での扱いを知ると、アレックスは罪悪感に苛まれた。

 幼い頃から婚約者であった自分なら、ユリアンナが置かれた状況に気づいてあげられることができたのではないか?

 まさかあのシルベスカ公爵家で、ユリアンナがまるで邪魔者のように疎まれ蔑まれていたなど思いもしなかった。


 アレックスにユリアンナの隣に並び立つ資格はなかった。

 ユリアンナを信じて最後まで支えたのはオズワルドだけだったのだから。


「この国で忌み嫌われた俺と仲良くしてくれて、アレックスには感謝してる。でも俺はユリと出会って初めて、本当の意味で自由になれたんだ。俺はユリと行くよ。今までありがとう」


 オズワルドはそう言って笑うと、ユリアンナの後を追いかけていった。

 彼はもうその漆黒の瞳を前髪で隠していなかった。

 そうさせたのは他でもない、ユリアンナなのだろう。


 ユリアンナたちが旅立ってもうすぐ1年。

 アレックスの婚約者の席は未だ空席のままだ。

 婚約破棄の後、学園でのアレックスとミリカの噂を知っていた者たちは口々に「アレックスの次の婚約者はミリカだろう」と言ったが、その予想は当たらなかった。


 何故なら、学園を卒業するとミリカ・ローウェンはすぐに故郷の僻地へと帰って行き、そこで伯爵領主の息子と結婚したからだ。

 ミリカがたとえ王子妃にならずとも王宮文官になれるほどの聡明さを持っていたにも関わらず、さっさと領地に帰って結婚してしまったため、人々は大層驚いた。


 学園では様々な令息と懇意にしていたように見えたが、実はずっと田舎領主の息子と恋仲だったに違いないと、ミリカの〝純愛〟を人々は称えた。

 しかし流行の移り変わりが激しい社交界のこと。

 1年も経てばミリカのことなど誰も話題に出さなくなった。


 作り上げられた〝ミリカ〟という偶像に恋をしたサイラスとジャックは、ミリカの本性を知り、憤るとともに酷く落胆した。

 サイラスにしてもジャックにしても、同年代の者の中でも才覚に優れ、自分を過信していた。

 そんな自分たちが見初めたのが偽りの存在だったことに、大きく衝撃を受けたのである。


 サイラスは学園卒業後、王宮に入り父である宰相が束ねる部署の下っ端文官として経験を積んでいる。

 アレックス同様、未だに婚約者を据えていないが、文官としてある程度地位を確立するまでは結婚は保留にするようである。


 ただ、名門公爵家の嫡男ともなれば貴族令嬢にとっては理想の嫁ぎ先。

 夜会の度に数多の令嬢から秋波を送られているが、自分の見る目にすっかり自信をなくしてしまったサイラスは女性不信気味になっており、令嬢たちを冷たくあしらって泣かせているそうだ。


 ジャックは学園卒業後は王立騎士団ではなく辺境騎士団入りを希望した。

 辺境騎士団はイビアータ王国南部の隣国と近接する辺境伯領が所有する騎士団で、たびたび隣国との小競り合いが発生する危険地帯を守っている。


 ミリカに一番心酔していたと言っても過言ではなかったジャックは、一連の騒動に激怒した王立騎士団長である父から廃嫡を言い渡された。

 ドナルド侯爵家の家督はジャックの弟に継がせるという。


 あくまでも廃嫡であり、籍はドナルド家に残してあるため、今は年頃の合う辺境伯の二女との婚約話が進んでいるらしい。

 辺境伯の二女はジャックの2つ下だが、まだまだ子供のようで相当なお転婆じゃじゃ馬娘なのだとジャックからの手紙に書いてあった。


 しかしジャックの手紙の文章からは端々に好意的な感情が滲み出ており、この婚約はきっと上手くいくだろうとアレックスは思っている。


 そしてアレックスはというと、最近東の隣国ニレシュ王国の第一王女シルビアとの婚姻話が持ち上がっている。

 ニレシュ王国には王女しかいないため、シルビアが女王として立ち、アレックスが婿に入って王配となるのはどうかという打診だ。

 ニレシュ王国とは最近農産物や加工食品の輸出入で交易が活発化しており、この婚姻が成れば両国間の絆をさらに深める一助となるであろう。


 アレックス自身はシルビアとは何度か会ったことはあるが、非常に聡明で、良い意味で現実的な人だという印象を受けた。

 もしこの縁談が整えば、さほど悪くない結婚生活が送れるのではないかと思っている。


 アレックスは執務机に重ねられた新聞を一部手に取り、おもむろに広げる。

 東の隣国の、さらに東にあるハンミョウ王国という国の料理が最近王都でブームになっているらしい。

 このブームの仕掛け人である『アイゼン商会』の若き後継者、ヘンリクス・アイゼンのインタビューが載っている。


(そうか……彼らはハンミョウ王国にいるのだな)


 アレックスは新聞を置くとひとつ背伸びをして、再び執務机に山積みの事務書類に向き合う。


 空はどこまでも澄み渡っていた。




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