エピローグ
ユリアンナは外套のフードを深く被ると、意気揚々と王宮を出た。
この後の計画は、既に決めてある。
ひとまず王都の中心にある『アイゼン商会』に寄り、ヘンリクスに準備を頼んでいた旅の荷物を受け取る予定だ。
それから以前話していた特別な種類の麦を見せてもらい、念願の〝お米〟を探すつもりだ。
計画は最後に大きく狂ってしまったが、ユリアンナは何とか目的を達することができた。
まさかミリカに裏切られるとは思っていなかったし、オズワルドが助けてくれるとは思わなかった。
王宮を出る前にオズワルドにきちんとお礼を言えなかったのが心残りだが、国外に出て落ち着いたら、手紙に土産をつけて感謝の気持ちを伝えようと思う。
「ああ……お米料理を食べさせてあげるって言ってたけど、叶わなかったな」
都心に向かって歩きながらポツリと独りごちる。
「食わせてくれないのか?」
その時、突然背後から声がしてユリアンナは振り返る。
ユリアンナの後ろには、ユリアンナが着ているものと同じような外套を身に纏ったオズワルドが立っている。
「は………オズ!?何でここに?」
「ユリが出発するまでに全部処理したかったんだけど、思ったより時間取られて遅れた」
オズワルドはそう言うと、当然のようにユリアンナの隣を歩き始める。
「わざわざ見送りに来てくれたの?忙しいのにごめんね」
「見送り?」
「違うの?」
ユリアンナが首を傾げると、オズワルドは不機嫌そうに眉間に皺を寄せる。
「………ユリは俺を置いてくつもりなのか?」
「えっ?………ええええ?」
(いや、むしろ付いてくるつもり!?)
そう考えて、いやそんな訳がないと思い直す。
「いやいやいや、どういうこと?」
「どういうことって……ユリをたった1人では行かせられない。だって君はすぐ人に騙されるし」
「オズも一緒に行くってこと!?」
「そうだよ。俺は最初からそのつもりだったけど」
私はそんなつもりじゃなかった!とは言い出せないユリアンナ。
オズワルドは四男だから生家を継ぐわけではないが、間違いなく未来の国防を担うことになる天才魔剣士だ。
王家だってそんな将来を嘱望された人材を簡単に国外に出す訳がない。
「いやー、それは無理じゃない?オズは国の宝だし、陛下が許可しないと思うけど」
「許可ならもう貰ってるよ。ちなみに、もうウォーム家から籍も抜いてる。だから今の俺はイビアータ王国の貴族じゃなくて、ユリアンナと同じただの平民だ」
「嘘っ!」
ユリアンナは驚きすぎて口をあんぐり開けている。
そんなユリアンナの顔を見て、オズワルドはクスリと笑う。
「俺もユリと一緒だ。この見た目で生まれた時点でこの国に愛着なんてないんだ。それでも以前はモーガン師長とかアレックスとか、俺に良くしてくれた人のために生きていくのだと思ってたけど。ユリに出会って考えが変わった。俺は別にここで生きなきゃいけないわけではないから」
オズワルドは少し身を屈めてユリアンナの顔を覗き込む。
そのどこまでも純粋な漆黒の瞳に、情けなくあんぐり口を開けたユリアンナの顔が映り込む。
「だからユリアンナ。俺は君と一緒に行く。君を1人にすると危なっかしいし………何より君と一緒に広い世界を見てみたいから」
一拍置いて、ユリアンナの白い頰が一気に赤く染まる。
その様子を見て、オズワルドは満足そうに目を細める。
(……少しは意識してくれたか?)
オズワルドは、そのままガチガチに固まってしまったユリアンナの手を取って再び歩き始める。
ユリアンナは何も言わず、しかし繋がれた手を離すことなくオズワルドの後をついてくる。
自分のことを考えてくれているであろうユリアンナの反応に、酷く満足げなオズワルド。
しかし、オズワルドは今ユリアンナがどんなことを考えているか、本当の意味では分かっていない。
(もしかして……殿下たちを騙したことより、この国からオズを連れ出したことの方が罪が重いんじゃないの!?)
上機嫌なオズワルドと冷や汗をかいているユリアンナの楽しい旅は、今始まったばかり。
~ fin 〜
【あとがき】
これにて本編は完結です!
最後までお付き合いいただいた皆様、誠にありがとうございました。
「登場人物たちのその後が気になる~!」
とお思いの方もいらっしゃるでしょう。
安心してください!
この後、番外編を続々追加します。
そちらも併せてお楽しみいただけますと幸いです。
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hama
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短編投稿しました!
『神様は一体どのような結末をお望みなのでしょうね?』
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