52. ミリカの前世①
ミリカの前世は飯塚桃奈という名前の、とある裕福な家庭の一人娘だった。
大企業に勤める父と母は仕事が忙しく、ほぼシッターに育てられたようなものだったが、欲しいものは何でも与えられ、やりたいことは何でもさせてもらえる生活だったので不満はなかった。
有名大学の附属幼稚園から附属小学校に上がり、エスカレーター式に進んでいく自分の未来に対して不安も全くない。
成績も良い方で友達も多く、美人な母に似て容姿も良かったので大した悩みもない。
恵まれてはいるが大きな山も谷もない、次第にそんな生活に物足りなさを覚えるようになった。
小学校高学年になったある日、桃奈は衝撃の光景を目の当たりにする。
よく通っていた文具のセレクトショップで、学校の同級生が万引きをしていたのを目撃してしまったのだ。
その瞬間、全身にビリリッと電流が走った気がした。
(私が求めていた刺激は、これだわ!)
次の日、桃奈はその同級生を校舎裏に呼び出した。
「ねぇ……あなた昨日、万引きしてたでしょ?」
一瞬にして同級生の顔が青くなった。
桃奈は楽しくてしょうがなかった。
結局、万引きを黙っている代わりに、その同級生は桃奈の下僕となった。
それからの桃奈はやりたい放題だった。
目に付いた生徒を脅し、下僕を増やしていく。
ゲーム感覚で、下僕に万引きや窃盗などの犯罪をさせる。
その桃奈の〝遊び〟は、中学に上がるとますますエスカレートした。
中学生になり、桃奈は恋愛に興味を持つようになった。
スマホアプリの《イケパー》にハマったのもその頃からだ。
《イケパー》は課金すると少しエッチな追加エピソードが読める。
桃奈が性に興味を持ったのも必然だった。
ある時、下僕を使って人気ブランドの限定品の財布を手に入れた桃奈は、それをクラスメイトに自慢していた。
しかしひょんなことから、クラスの中でも地味で目立たない女子が同じ財布を持っていることに気が付いた。
桃奈は猛烈に腹を立てた。
自分が手に入れたレア物を他の人が持っているのが気に入らないし、地味でつまらない女と被っていることも気に入らない。
だから、桃奈は下僕に命じてその女子を襲わせた。
そして、恥ずかしい写真を撮ってネットに拡散するぞと脅した。
女の下僕ができるのも楽しそうだと思ったのだが、その女子は学校を辞めて転校してしまった。
そのまま内部進学で高校に上がると、桃奈は初めて恋に落ちた。
相手は有馬秋という名の男子。
サッカー推薦で入学してきた生徒で、U-17日本代表候補に挙げられるほどの実力の持ち主だという。
16歳にして身長は180cmあり、加えてアイドルも顔負けのイケメンだ。
完璧な自分の隣に並び立つのに相応しいと思った。
そこで、桃奈はすぐに秋にアピールを始めた。
だけど秋はなかなか靡いてくれない。
そんなガードが固いところも素敵だと思った。
しかし2年に上がった頃、秋に彼女ができたという噂が立つ。
相手は学年一位の才女である鈴木葵だった。
葵は外部の中学から入学してきた外部生で、文武両道かつモデル並みの美貌とスタイルの持ち主だと話題の女子であった。
桃奈は葵が大嫌いだった。
何でも自分が一番でないと気が済まないのに、葵がいると一番になれないから。
それに、私の秋まで奪おうとするなんて、もう許せない。
それから桃奈は葵に嫌がらせを始めた。
他の女子なら嫌がらせを1~2週間もすればグズグズに泣いて心が折れるのに、葵はいつまで経っても凛として全く折れなかった。
葵の心を折って秋から手を引かせようと思ったけど、相手は案外図太い性格のようだ。
桃奈は作戦を変えて、秋の心を葵から離すことにした。
それは下僕に葵を襲わせて、情事の様子を秋に目撃させるというもの。
決行の日、桃奈の下僕が空き教室に葵を連れ込んだ後、桃奈が秋を上手く空き教室まで誘導した。
教室の扉を開けた瞬間目に飛び込んできたのは、下僕に馬乗りにされている葵の姿。
桃奈は笑い出しそうになる衝動を抑えながら秋に声をかけようとしたが、かけられなかった。
なぜならば、秋が教室に飛び込んでいって葵に跨る下僕を殴り飛ばしたから。
あんな勢いの秋を、桃奈は今まで見たことがなかった。
秋は葵を支えながら、桃奈を睨みつけて教室を出て行った。
その後、なぜかタイミングが合わずになかなか秋と話す時間も取れないうちに、秋と葵が別れたと噂されるようになった。
桃奈はほくそ笑んだ。
全て上手く行った。
あとは、秋を手に入れるだけ。
卒業を迎え、風の噂で葵は日本最高峰のT大学の法学部に受かったと聞いた。
一方、秋は内部進学で大学に上がると聞いていたので、桃奈も内部進学を選んだ。
そしていよいよ大学生活がスタート。
秋はサッカー部に所属し、相変わらずサッカーを頑張っているようだ。
学部が違うため秋にはなかなか会えないけれど、桃奈は接触できる機会を窺っていた。
サッカー部のマネージャーになればいつでも会えると思ったが、経験者しか受け付けていないと言われた。
ある日、練習終わりの秋を捕まえようと大学の正門で待ち伏せしていた。
奥から歩いてくる秋の姿を見つけ、笑顔で走り寄ろうとした時。
───ドンッ
背中に鈍い衝撃があり、痛みが走る。
(何これ、痛い、痛い!)
思わず振り返ると、背後に見知らぬ女が立っている。
その手には血まみれのナイフが握られており、桃奈は自分が刺されたのだと分かった瞬間………意識を失った。
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