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51. 計画の終焉

 王城の地下、夏でも常に肌寒さを覚える地下牢。

 ここに複数人の人物がいるにも関わらず、その場は静まり返り、どこからか垂れている水音しかしない。


「……ミリカ。なぁ、説明してくれ。俺を……俺たちを騙したのか?」


 ジャックに切実に訴えかけられ、ミリカはさめざめと泣き続けながら必死でこの場を切り抜ける言い訳を考える。


「騙すなんて………どうしてそんなことを仰るのですか?」


 うるうると潤んだ水色の瞳でジャックを見上げれば、僅かな動揺が見て取れる。


(あ、これまだ大丈夫だわ。挽回できる)


 ミリカはそう確信を得て、取り敢えずジャックが何を考えているのか聞き出す作戦に出る。


「……ミリカは初めから俺たちのことを手玉に取るつもりで……近づいたのか?」


 悲しげに紺色の瞳を揺らすジャックを見ながら、ミリカは思わず上がりそうになる口角を必死に抑え、負けじと悲しげな表情を作る。


(な~んだ、焦って損した!ジャックってば何にも知らないんじゃない!)


「そんなっ……!誰がそんな酷いことを……?私なんかがジャック様のような立派な方に近づくなんて恐れ多いですから、そんなことを考えるはずもありません!」


 ミリカは怯えたような表情を作ってユリアンナを見遣る。


「もしかしてっ……ユリアンナ様が……?」


 ユリアンナは若干呆れたような眼差しでミリカに視線を返す。


(ある意味では逞しいわね)


 この状況でもまだ勝機があると粘っているミリカを見て、感心に近い感情が浮かぶ。

 …………が。

 そろそろ現実を突きつけなければならない。

 〝ゲームのシナリオ〟はもう、終わったのだと。


 ユリアンナがチラリとオズワルドに視線を移すと、オズワルドは困ったように眉尻を下げる。


「………ごめん、ユリ。計画は失敗だ」


「いいのよ。オズのせいじゃないわ」


 2人の会話を聞いてミリカが恐ろしい速さで顔をオズワルドの方に向け、再びユリアンナを見る。


「な、何……アンタたち。私に隠れて繋がってたわけ……!?」


 先ほどまでさめざめと泣いていたのが嘘のように、ミリカの顔が般若の形相に変わる。


「えっ……どういうこと?もしかして、私がオズワルドと出会えなかったのって……ユリアンナのせいなの!?」


 鉄格子を勢いよく掴み、ミリカがユリアンナを詰る。


「ユリは俺に君と出会って恋愛しても良いよって言ったんだ。でも俺が拒否した。………だって君、性格悪いだろ」


 オズワルドがそう言い放つと、ミリカは今度は怒りの矛先をオズワルドに向ける。


「……はぁ?私が性格悪いわけないじゃん!残念だったね?私が相手してあげてたらあなたのコンプレックスもなくなって幸せになれたのにさ!」


 ミリカはそこまで一息に言ってからオズワルドの方を向いて、ハッとする。

 肩を竦めて立つオズワルドの後ろには、他の攻略対象者たちが眉を顰めて立っている。


「君は……僕たちの『相手をしてあげてる』つもりだったんだね」


 そう呟いたのはアレックスだ。

 ミリカはサァッと顔を青くする。


「ち、違っ………私、そんなつもりじゃなくて……!」


「じゃあどんなつもりだった?私にもアレックス殿下にもジャックにもアーベル殿にも気を持たせるようなことをして………皆んなの愛をいっぺんに手に入れるつもりだった?」


 悲しげに尋ねたのはサイラスだ。

 サイラスは本当にミリカが好きだったのだろう。

 その榛の瞳は悲痛に揺れている。


「わ、私はそんなつもりは全然なくて!皆様に良くしていただいたのは感謝してますが………私が想う方は一人なんです!」


 この期に及んで純粋な女を演じているミリカに、オズワルドは半ば呆れ気味に尋ねる。


「……それで、君の想う人って誰?」


「それは……」


 ミリカは頰を紅潮させて、チラチラと上目遣いでその相手を見つめた後、恥ずかしそうに口を開く。


「私が想う人は………アレックス様です」


 その言葉に、アレックスの片眉が上がる。


「………君がさっき『王子妃になる』と言っていたのは、そういうことか」


 ミリカはアレックスたちがかなり前からユリアンナとミリカの会話を聞いていたという事実にも気付かずに、淑やかにこくりと頷く。


「なぜそんな勘違いをしたか分からないが……僕は君を妃に迎えるつもりはないよ」


 次の瞬間にアレックスから放たれたセリフに、ミリカは目を見開いて固まる。


「君は男爵令嬢だから身分が釣り合わないし、何より……サイラスとジャックが君を好いているみたいだったから。それを押し除けてまで君を娶りたいという欲求は、僕にはないよ」


「えっ?………どうしてですか?」


 ミリカが困惑したようにそう尋ねると、アレックスも戸惑ったように答える。


「どうして……というか。僕は君に好感は持っていたけど、好いているわけじゃないから」


 何という衝撃の事実だろうか。

 暗殺未遂事件を経てもなお、ミリカはアレックスを攻略できていなかったのだ。


「そんなわけ………え?」


「それで、ミリカ嬢。君は僕の妃になりたいがために()()()()()()()()()()()()()()したのかい?」



 ───ああ、これ詰んだわ。



 ミリカは計画の全てがアレックスたちに知られてしまったことを漸く理解した。




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