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50. 裏に隠された真実②

「……以上が録画した映像の全てです。何か反論はございますか?」


 映像が途切れると、オズワルドがそう尋ねる。

 さすがのサイラスでも、もうこれらの映像が捏造だと主張できなくなっていた。

 なぜならば、ユリアンナとミリカの会話の中で、サイラスがミリカにしか話していない秘密や、サイラスとミリカしか知り得ない思い出が語られていたからである。


 例えこの映像が捏造であったとしても、ミリカが協力していないと到底作ることができない内容だ。

 それならば、この映像は本物であると断定するのが妥当である。


「しかし……どうしてオズワルドがこんな映像を撮ったんだ?君はユリアンナともミリカ嬢とも接点がないだろ?」


 顔面蒼白になったアレックスが弱々しく尋ねる。


「アレックス。俺は嘘をついていた。……俺とユリアンナ………ユリは友達なんだ」


 オズワルドの言葉に、アレックスは目を見開く。


「出会いは学園に入学する一年ほど前。彼女は俺に『魔法を教えて欲しい』と言ったんだ。………断罪された後に、国外で一人で生きていくために」


 今の話で思い当たることがあったのか、俯いていたアーベルが勢いよく顔を上げる。


「っ……!確か、ユリアンナがオズワルド殿の住む古屋敷を訪ねたと報告が上がっていたが……。しかし、訪ねたのはほんの2、3回ほどで、すぐに通うのを止めていたはずだ!」


「……それは、あなた方の目を欺くためにユリが〝幻影〟と〝認識阻害〟で秘密裏に外出していたからですよ」


「そっ………!」


 ───そんな馬鹿なっ!


 ユリアンナにそんな高度なことができるはずがないのだ。

 だってあの女は、〝無能で愚か〟な役立たずなのだから!


「言っておきますが、ユリは〝無能で愚か〟などではない。少なくとも魔法の腕は一流の魔術師になれるくらいの才があります」


 アーベルの心境を推し量るように、オズワルドが言葉を付け加える。


「それに……学習能力も高いものを持っている」


「それはさすがにないだろう。ユリアンナ嬢の成績はいつも下から数えたほうが早いのだから」


 サイラスが見下したようにフンと鼻を鳴らす。


「……ユリが一度も赤点を取ったことがないのは知っているか?」


 ゴールドローズ学園の定期試験は赤点が設定されており、赤点を下回る点数を取ってしまうと追試や補講などの課題が課されることになる。

 ちなみに赤点の点数は一定のため、試験の難易度により赤点者が増えたり減ったりする。


「通常、下の方の成績者ならば殆どが赤点を経験しているはずだ。しかし、ユリはそれがない。何故か分かるか?」


「………わざと赤点ギリギリの点数を維持していたというのか?」


「そうだ。試験の難易度によらず、一定の点数をいつでも維持することができる。そんなことは問題が殆ど解けている者にしかできない芸当だ」


 オズワルドの言葉に反論は思い浮かばないが、どこか納得のいかない表情を浮かべる面々。


「………分かりました。それではもう一人証言者を呼びましょう」


 そう言って、オズワルドはパチンと指を鳴らす。

 通常、魔法を使うときは詠唱を必要とするのだが、魔力量の多いオズワルドは詠唱により魔力を練る必要がないため、無詠唱で魔法を使うことが可能なのだ。


 ブワッと風のようなものが起き、オズワルドの隣に急に人影が現れる。


「う、うわぁっ!!何事だぁっ!?」


 現れた人影をすぐさまモーガンが掴み、不審者チェックをする。


「……武器や怪しい魔法は使っておりませんな」


 チェックを終え解放された人物は、オロオロと慌てふためきながら室内を見回している。


「彼はヘンリクス・アイゼン子爵令息。ユリと同じクラスだった者です」


「お、オズワルド様!?どうして僕は急にここに飛ばされたのでしょうか……?」


 さすがに国王や王太子の顔は知っているであろうヘンリクスは、獅子を前にした子猫のようにガタガタと震えている。


「ヘンリクス。君にはユリの優秀さを証言してもらいたい」


「ユリアンナ様ですか……?」


 ユリアンナの名前が出たからか、ヘンリクスは丸めていた背をピンと伸ばし、凛々しく前を向いた。


「ユリアンナ様は本当に優秀でいらっしゃいます!ユリアンナ様からの依頼で5ヶ国分の外国語をお教えしたのですが、たった9ヶ月で読み書き会話をマスターなされました!」


「ご……5ヶ国語だと……?」


 外交官などの仕事をしていない限り、そこまで多数の言語を習得している者は珍しい。

 学年首席のサイラスですら、読み書き会話ができる外国語は3ヶ国語に留まる。


「それに!!これだけは絶対に言わせていただきたいのですが、ユリアンナ様は噂のような〝悪女〟ではありません!いつも穏やかで、優しくて……とても美しい方です!」


 ヘンリクスが胸を張ってそう言い切ると、室内には沈黙が流れる。


「ユリアンナが優秀だと……?そんなわけがない」


 ポツリと呟いたのはアーベルだ。

 「ユリアンナは無能」というのは、シルベスカ公爵家では当然の事実なのだ。


「……ユリアンナ嬢が無能だと、一番初めに言ったのは誰であったか?」


 話の行方を黙って見守っていたモーガンが、口を挟む。


「それは、父上が………いや、違うな。家庭教師の………」


 アーベルはそこまで呟いて口を噤む。

 ユリアンナを繰り返し貶していたのは、幼少期教育を担当していたマーゼリー伯爵夫人だ。

 アーベル自身がユリアンナの学習状況を確認したことはない。

 恐らく、父も同じであろう。


「………私は………私たちは………とんでもない過ちを犯していたのか……?」


 アーベルの懺悔のような呟きがその場にいた全員の心を刺した。




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