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44. そして断罪が始まる②

「そんなこと存じませんわ!そこの令嬢方がわたくしに罪をなすり付けようとされてるのでしょう。……それに、たかだかドレス一枚が破損したところで、何だと言いますの?こんな大袈裟に騒ぐことではないでしょう」


 ユリアンナが言い放った言葉に、ジャックが怒りのあまり思わず前に体を乗り出したが、その手をミリカが引いてどうにか堪えさせた。


「……そのドレスはミリカ嬢にとっては何よりも大切なものだったんだよ。……うん、ユリアンナの考えは分かった。残念だけど、彼女たちが君の指示で動いたということは裏付けが取れているんだ」


 アレックスがそう言うなり、ユリアンナは紅色の瞳を吊り上げて悔しげに肩を震わせ、実行犯の令嬢たちを睨み付ける。


「君の罪は他にもあるね。日常的にミリカ嬢の持ち物を汚したり破損させたりしていた。……実行犯は彼らだ」


 アレックスが壇上に上げられた生徒たちを指差すと、生徒たちは気まずそうに俯いた。


「それから、魔獣の森合宿では森の中でわざとミリカ嬢を置き去りにして迷わせたね。それも全て、当初ミリカ嬢とグループを組んでいた令嬢たちにミリカ嬢を虐めるように君が指示していたんだ」


「そんなことはしておりませんっ!信じてくださらないのですか!?アレク様っ!」


 先ほどまでの不遜な態度が嘘のように、急に動揺を見せたユリアンナは縋るようにアレックスに言い募る。


「信用などできるか!殿下も先ほど仰っただろう!全て裏付けが取れていると!」


 遂に我慢の限界を迎えたジャックが吠えるようにユリアンナを糾弾する。


「……我々の調査力を舐めないでいただきたい。あなたが彼女たちに犯行を指示した手紙を押収していますし、口頭で指示した様子はすでに〝復元〟魔法で再現済みです」


 サイラスが冷静に、しかし奥底では怒りを湛えたような声で静かに語る。


「っ………!で、でも!そんなことは瑣末なことでしょう?その女がわたくしの婚約者であるアレク様に手を出そうとするのが悪いのです!!身の程を弁えない女狐にお灸を据えただけのこと!こんな風に糾弾される謂れはありませんわ!!」


 ユリアンナは取り乱しながらヒステリックに叫ぶ。

 壇上の者に限らず、それを聞いていた殆どの者がまるで醜いものを見るかのようにユリアンナに侮蔑の視線を送る。


「ユリアンナ……それは君の勘違いだ。勘違いで人に嫌がらせをするのは良くないことだと何故理解できない?」


「勘違いではございませんっ!その女はっ………!」


「君はっ!!」


 それまで悲しげにユリアンナを見つめていたアレックスが、堪えきれなくなったように怒声を上げる。


「君はその勘違いで………取り返しのつかない罪を犯した!!」


「なっ……一体何のことだか………」


 ユリアンナは憔悴し、視線を彷徨わせている。

 その態度は、明らかに心当たりがあると言っているようなものだ。


「ユリアンナ様っ!お願いです、罪を認めてください……!あなたが認めて反省さえしてくれたら、私はっ………!」


 ミリカが涙声で悲しげに訴えかける。

 その華奢な背中をジャックが優しく撫で続けている。


「うるさいっ!貴女みたいな阿婆擦れがわたくしに気軽に声をかけるんじゃないっ!」


「ユリアンナ……!」


 遂にアレックスがユリアンナに怒りの籠った視線を向ける。


「この事件は調査のために公表を控えていたのだが、実は昨年の初冬の大夜会の帰りにミリカ嬢が乗った馬車が襲撃されるという事件が起こった!」


 アレックスが明かした衝撃的な事実に、会場は一気にどよめく。


「後の調査により、この件にはとある暗殺ギルドが関わっているということが判明した。その暗殺ギルドにミリカ嬢の殺害を依頼したのは………ユリアンナ、君だね?」


 ───「暗殺ギルドだと!?」


 ───「貴族の殺害を企てるのは重罪じゃないか!」


 ───「まさに〝稀代の悪女〟だな。……見ろよ、あの醜悪な顔を」


 会場の人々の責めるような視線が一気にユリアンナに向けられる。


「わたくしではありませんっ!!そ、そうよ……証拠!証拠はないはずです!!」


 ユリアンナはその美しい金髪を振り乱して形振り構わず喚いている。


「……確かに、通常暗殺ギルドに依頼をした場合、依頼者とギルドはお互いの情報を漏らさぬように魔法契約を結ぶのだから、証拠は残らない」


「そうよ!!証拠などどこにも……」


「しかしそれは『通常であれば』の話だ。………ユリアンナ、君は手を出してはいけない者に手を出してしまったんだよ」


 アレックスはしっかりとユリアンナを見据える。

 彼女に引導を渡すために。





 アレックスの執務室に暗殺者ルキエルが現れた時のこと。


「……実はミリカは、俺にとってかけがえのない人なんだ。だからこの依頼が来た時、初めから依頼者に協力するつもりはなかった」


 ルキエルは静かにそう語り出した。


「だから、依頼者とは偽の魔法契約を結んだ。……暗殺依頼の確たる証拠を掴むために」


「確たる証拠……?」


 戸惑いを隠せないアレックスの目の前に、ルキエルは懐から取り出した何かを差し出す。


「これが決定的な証拠だ。これで、ミリカを殺そうとしている奴を捕まえてくれ。俺が始末するのは簡単なことだが………優しいミリカはそれを望まないだろうから」


 アレックスが差し出されたものを受け取ると、ルキエルはまるでシャボン玉が弾けるようにパッと消えた。




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