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40. ミリカ・ローウェン暗殺未遂事件⑤ 〜ミリカside

 ミリカは深みのある紺色に小さな宝石を散りばめた満天の星空のようなドレスをひらりと靡かせながら、ジャックとダンスを踊っていた。

 この独占欲の塊のようなドレスはもちろんジャックからの贈り物だ。

 「家に経済的負担をかけたくないからドレスは用意できない。だから大夜会は参加を見送ろうと思う」と話すと、すぐさま用意してくれた。


 逆ハールートでは最後の大夜会では一番好感度が高いキャラからドレスを贈られるはずで、本当はアレックスから贈って欲しかったのだが、攻略が上手く進んでいないのだからしょうがない。


(このドレスでも十分豪華だし、素敵だわ!)


 ミリカが残念な気持ちを押し込めてジャックを見上げて微笑むと、ジャックの精悍な顔がうっそりと喜びに染まる。

 ジャックとのダンスが終わるとすぐさまサイラスがダンスを申し込みにくる。

 もちろんミリカはそれを喜んで受ける。


 サイラスとダンスホールに向かうとき、チラリとアレックスを横目で見る。

 アレックスはユリアンナと何やら話をしている。


(何を話しているのかしら?あとでユリアンナに確認しないと)


 そう考えているうちにユリアンナはアレックスのもとから立ち去っていった。

 大した内容の会話ではなかったようだ。


 サイラスとのダンスを終えると、アーベルが静かに近づいてきた。

 アーベルとは昨年の大夜会で出会い、この一年急速に仲を深めてきた。

 他の令嬢には氷のように冷たい対応なのに、ミリカにだけ優しい表情を見せるのが堪らない。


 他の令嬢たちから羨望の眼差しをたっぷりと受けながらアーベルとのダンスを終えると、ミリカはアレックスのもとへ足を向ける。

 ここはアレックスからダンスを申し込んで欲しいところだったが、それは卒業パーティーまでお預けだ。

 ()()()()()()()()()()()()()でアレックスの心は完全にユリアンナと決別し、ミリカに向くはずだから問題ない。


「アレックス様。お忙しいですか?」


 ミリカが声をかけると、しばらく呆然と立ち尽くしていたアレックスが弾かれたように振り返る。


「あ………ミリカ嬢。夜会、楽しんでるかな?」


 力なく笑うアレックスに首を傾げながらもミリカは満面の笑みを向ける。


「ええ、楽しいです!アレックス様………あの」


 ミリカはダンスに誘って欲しくてモジモジと上目遣いでアレックスを見上げる。

 しかし運悪くアレックスは侍従に呼ばれ、何処かに行ってしまった。


(一緒にダンスを踊りたかったけど……ま、良いわ。婚約すればいつでも踊れるようになるし)


 ミリカはくるりと踵を返し、他の令息たちと談笑していたジャックを見つけ、合流する。


「ジャック様!私はそろそろお暇させていただきます」


「おう、ミリカ。もうそんな時間か?俺は今から親父と一緒に挨拶回りをしなきゃいけないから寮まで送って行けなくて悪いな。馬車の停留所まで送ろう」


「何から何までありがとうございます、ジャック様。おかげさまで本当に楽しい時間を過ごせました」


 ミリカの言葉にジャックは満足そうに頷くと、エスコートのために手を差し出す。

 そのままジャックのエスコートで停留所まで移動し、ミリカは停車していた馬車に乗り込む。


「じゃあ、また学園で。今宵もいい夢を」


 笑顔で別れの挨拶をすると、馬車は静かに発車する。

 しばらく馬車に揺られていると、夜の王都を緩やかに走っていた馬車が突然停車する。

 馬車の外が俄かに騒がしくなり、男の悲鳴が聞こえた後は静けさが訪れる。


 ミリカはドキドキと胸を高鳴らせていた。

 ユリアンナが立てた計画通りに行くならば、きっと()が来てくれるはずだ。

 胸の前に手を組んだままじっと馬車の外に耳を澄ませていると、扉がガタンと音を立てて開く。


 扉の方に目を向けると、そこには浅葱色の髪を靡かせた深緑(マラカイト)の瞳の男が立っていた。


「っ……!ルキエル……?」


「……シー」


 驚いて声を上げようとしたミリカの口を、ルキエルが優しく片手で塞ぐ。


「ごめんね、ミリカ。後で事情は話すから、取り敢えず俺に捕まってくれる?」


 ルキエルは優しい眼差しでミリカの髪を一撫ですると、壊れ物を抱えるようにそっと抱き抱えて馬車を降りる。


 そのままミリカが連れてこられたのは、暗殺未遂事件の舞台となる荒屋。

 ルキエルは荒屋の中のボロボロのソファの上にミリカを降ろすと、寒くないようにブランケットで包んだ。


「良いかい、ミリカ。君は夜会から帰る途中に悪党に攫われたんだ。そして、今から助けが来る。助けが来たら、馬車で襲われてここに連れて来られたと証言するんだ。俺と会ったことは秘密にしておくんだよ」


「……どうしてそんなことを?」


「ミリカを助けるためなんだ。………貴族の中に、ミリカを殺そうとしてる奴がいる。だから暗殺計画が実行されて、それが失敗したと思わせなきゃならない」


 ルキエルは説明をしながら、縄でミリカの手足を痛くない丁度いい塩梅で縛ってゆく。

 本当は全てを知っているミリカだが、今初めてそのことを知ったかのように顔に驚愕の色を浮かべ、緊張感を醸しながら頷く。


「ミリカを狙う奴は必ず裁きを受けることになる。………だから安心して」


 ミリカを安心させるように髪を撫でると、ルキエルは荒屋から出て行った。


 ルキエルが出てからしばらくして、荒屋の外に複数の足音が響く。

 扉が荒々しく開かれると、飛び込んできたのは血相を変えたジャックだった。

 ジャックに続いて、多数の騎士団員がなだれ込むように荒屋に突入してくる。


「ミリカッ!!大丈夫か!?」


 ジャックはソファの上で縛られているミリカに駆け寄り、その身を抱き締める。


「ジャック………助けに来てくれたの……?」


 ミリカの声は疲れ切ったように弱々しく、ジャックは思わず眉を顰める。


「ああ……!もう、大丈夫だ」


 安心させるように何度もミリカの背を撫でるジャックの腕の中で、ミリカは笑いを噛み殺していた。

 その肩が震えているのをジャックは恐怖による震えだと勘違いし、震えが収まるまでいつまでもその背を撫で続けたのであった。

 



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