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38. ミリカ・ローウェン暗殺未遂事件③

 月が雲に隠れた闇が濃い夜、王都の狭い裏通りを外套を羽織った人物が足早に歩く。

 外套の人物は一軒の寂れた酒場の前で足を止め、扉を開いて中に入る。


 酒場の中には真夜中だというのに数人の破落戸が酒を酌み交わしていた。

 破落戸たちは入店してきた外套の人物にちらりと視線を遣るが、すぐに興味をなくしたように視線を酒に戻す。


 外套の人物は迷うことなく真っ直ぐにカウンターに向かい、中に立つ店の男に声をかける。


「『宵のマラカイト』で一杯やりたいのだが?」


 こんな場所には明らかに不釣り合いな若い女の声がするのに、店の男は驚きも訝しみもせずに答える。


「………銀貨何枚だ?」


「金貨3枚と交換だ」


 外套の人物がそう答えると、店の男は静かにカウンターの天板を上げ、中に入るよう促す。

 店の男の後について外套の人物が店の奥に進むと、寂れた酒場には似つかわしくない真っ赤な扉が姿を現す。


 店の男がその扉を11回叩くと中からくぐもった声で「入れ」と返事があって、扉がゆっくり開かれる。


「……ようこそ、いらっしゃい」


 扉の向こうは広い部屋になっており、貴族の家に負けずとも劣らない豪華な家具が置かれている。

 部屋の最奥には執務室に置かれるような大きな机が置かれており、そこには黒豹の仮面をつけた男が肘をついて座っている。


「『宵のマラカイト』をご所望だそうで?」


 仮面の男が軽い口調で尋ねると、外套の人物は黙って首肯する。


「……随分と相手を恨んでいるようですね。『宵のマラカイト』は高いですが、それもご存知で?」


 続いて仮面の男がそう尋ねると、外套の人物は無言で裾から巾着袋を取り出し、床に放り投げる。

 巾着袋は床にぶつかると無機質な金属音を立てて口が開き、中から大量の金貨が溢れ出てくる。


「……良いでしょう。それでは、ターゲットについて教えていただけますか?」


 外套の人物は無言で裾から一枚の姿絵を取り出すとピンと指ではね、姿絵はそのまま狙ったように仮面の男のちょうど目の前に着地する。

 仮面の男はその姿絵を持ち上げしげしげと眺めると、再び外套の人物に視線を向ける。


「ミリカ・ローウェン………ゴールドローズ学園の3年生。貴族家に仕えるしがない男爵家の令嬢をわざわざ大金を払ってまで暗殺する必要があるのかな……?」


 仮面の男の独り言のような問いかけには、外套の人物は答えない。


「まあ、良いや。ウチは余計な詮索はしない主義なので。……それで、ウチの契約方法はご存知で?」


 仮面の男がそう言うと、外套の人物が裾から短剣を取り出したため、扉の近くで待機していた店の男が剣を抜いて殺気立つ。

 外套の人物はフードの隙間から髪を一房取り出すと、人差し指の長さほどを短剣で切り取り、目の前に翳した。


「……よくご存知ですね。それでは、契約に進みましょう」


 仮面の男がパチンと指を鳴らすと、机上にヒラリと一枚の紙が舞い落ちてくる。

 男は自身の親指をガリッと歯で齧り、その紙の上にポトリと血を一滴落とす。


「……各々の体の一部を契約の証とす。目的を達成した場合にはこの契約は破棄される。目的が未達の場合、契約の継続を望まない場合は契約金を返金の上、契約は破棄される」


 男の言葉に合わせて紙の上を羽ペンがサラサラと動き、紙に契約条項が記されていく。


「何か追加したいことは?」


 男の問いかけに、外套の人物は首を振る。


「……ここに契約は成る」


 男がそう言うと、紙がフワッと舞い上がり眩い光を発した瞬間にその姿を消した。


「左手の小指を見てください」


 外套の人物が裾から左手を出して前に翳すと、小指の根元を囲むように鎖状の紋様が浮かんでいる。


「これは契約者同士にしか見えない契約の証です。これに魔力を流せばいつでも契約内容を確認できます。こちらからの連絡事項がある場合にもこの紋様を通して連絡差し上げます」


 外套の人物は首肯すると、無言で踵を返し扉へ歩いて行く。

 扉近くで待機していた店の男が扉を開けると、外套の人物は振り返ることなく立ち去った。


 遠ざかる足音が完全に遠ざかった頃合いで、仮面の男は小さく溜息をついた。


「……ルキ。いるんだろ?出てこい」


 仮面の男が声をかけると、何処からともなく浅葱色の髪の男が姿を現す。


「『宵のマラカイト』……お前に、彼女を殺して欲しいんだとさ」


 そう言って仮面の男は外套の人物から預かった姿絵をルキエルに手渡す。

 ルキエルはそれに目を落とすと、眉を顰める。


「正直言って、受けなくても良かったんだけど。別の人に頼まれるのも嫌かなと思って」


「……そうですね」


 仮面の男の言葉に、ルキエルは頷く。


「どうするかはお前に任せる。契約のことは心配いらないから好きにすれば良い。だけど、相手は随分と高度な〝認識阻害〟を使っていたから特定するのは容易じゃないぞ」


 そう言われ、ルキエルはその深緑(マラカイト)の瞳を仮面の男に向ける。

 その瞳の奥には、ギラギラとした闘志が漲っていた。




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