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30. 魔樹の森の顛末と2度目の大夜会

「あちゃー、苦戦してるな」


 空に浮かぶ結界の中から地上を見下ろしているオズワルドが呟くと、ユリアンナがそれに首肯する。


「やっぱり、オズがいないからね」


 地上では大型魔獣とアレックス、サイラス、ジャックが対峙している。

 3人はレベル9魔獣に対して奮闘しているが決定的な傷を与えられておらず、段々と体力がなくなり息が上がってしまっている。


 ユリアンナ、オズワルドと共に浮遊する結界の中から戦闘を見下ろしているヘンリクスは、恐怖のあまり顔色を失っている。


「ところで、〝ヒロイン〟はどこにいるんだ?」


「うーん……〝ゲーム〟では一緒に闘っているはずなんだけど」


 ユリアンナとオズワルドが〝ヒロイン〟〝ゲーム〟などと意味の分からない言葉を使って会話しているため、ヘンリクスは余計にオロオロしている。


「あぁ……このままだと殿下たちが怪我してしまうわ。やっぱり助けましょう」


「俺はアイツを助ける気はないよ。やるならユリがやるんだね」


 オズワルドは友人であるアレックスが危険な目に遭っているというのに、他人事のような顔をしている。


「……分かったわ。確か〝風〟魔法で魔獣の足を止めるんだったわよね」


 ユリアンナはひとつ溜息をつくと、両手を前に差し出してブツブツと呪文を詠唱する。


「××××、××××××××………×××!!」


 次の瞬間、ユリアンナの手から物凄い勢いの突風が吹き出し、魔獣の足元にぶつかると周囲の木をも巻き込むほどの旋風を巻き起こす。

 魔獣が旋風に驚きよろめいた瞬間にすかさずジャックが足を目掛けて切り掛かる。


 ほぼ同時にサイラスが魔獣の両目を斬り裂いて視界を奪うと、その場で慌てふためく魔獣の心臓を目掛けてアレックスが宝刀『イマージェン』を突き刺し、魔獣が崩れ落ちる音と共に戦闘は終わった。


「うわぁぁぁん!」


 茂みの中からミリカが飛び出してきたのを見て、オズワルドは眉根を寄せる。


「何だ、アイツ?隠れてたのか?」


「仕方ないわ。誰だって魔獣は怖いでしょう?」


 ユリアンナは泣き喚くミリカを見下ろしながら肩を竦める。


「でも本当は闘わなきゃいけなかったんだろ?」


「そうね……たぶん、闘わないと好感度は上がらなかったはず」


「じゃあ、このイベントは失敗だな」


 ヘンリクスは意味の分からない会話を続ける2人を、あんぐりと口を開けたまま見つめている。


「ヘンリー?どうしたの、大丈夫?」


 ユリアンナに心配そうに声をかけられ、ヘンリクスはハッと我に返る。


「ユリアンナ様の旋風、すごかったです!あんな大きな魔獣を足止めしてしまうなんて!」


 キラキラと目を輝かせるヘンリクスに対し、ユリアンナは若干引き気味に答える。


「……別に大したことないわ。〝風〟魔法なんて誰でも使えるもの」


 確かに〝風〟魔法自体はそんなに難しい魔法ではないが、あんなに大きな旋風を巻き起こすのは容易ではない。

 少なくとも魔力量の少ないヘンリクスには到底真似のできない技だ。


 それを「大したことない」と言ってのけるユリアンナが本気でそう思っているのか、謙遜しているのかはヘンリクスには判断できなかった。


「……あいつらが移動を始めたから、俺らも急いで戻ろう」


 オズワルドの声掛けで、3人は急いで合宿棟へと戻った。



 合宿棟に戻ってしばらくすると慌てたように大人たちが忙しく建物を出入りするようになり、そのうちに生徒たちが広間に集められた。

 そこで教師から告げられたのは、先ほどミリカたちを襲った事件の顛末と合宿の繰り上げ終了だった。


 『魔獣の森合宿』は行程を2日残して終了し、生徒たちは再び魔導馬車に乗って王都へ戻った。





 合宿で起こった事件はそれなりに世間を震撼させ、なぜ3階層の結界に穴が開いていたのか、学園の生徒たちが如何にしてレベル9の魔獣を倒したかなど、しばらくは社交界の話題を独占した。


 そのうちに、結界の穴の原因が結界の管理を担当する魔術師の点検ミスであったことや、魔獣を倒したグループの1人が第二王子であったことが公になると、大衆紙や大衆劇でそのことが取り上げられ、貴族以外の民衆にも知られるところとなった。


 しかし夏休みが終わり、普通の学園生活が始まれば『魔獣の森合宿』の出来事は少しずつ生徒たちの心から薄れていった。

 そして数ヶ月たった頃、再びその事件が脚光を浴びる日がやってくる。


 それは『初冬の大夜会』である。


 2度目の大夜会の日がやって来る。




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