表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

30/81

29. 魔獣化森合宿⑥ 〜ミリカside

 合宿も終盤を迎え、ついに最終課題を残すのみとなった。

 最終課題は『レベル5魔獣の討伐』である。

 魔獣はその凶暴性を評価して10段階にレベリングしてあり、1階層にはレベル1~2、2階層にはレベル3~5、3階層にはレベル6以上の魔獣が生息している。


 この課題では、2階層の最奥、3階層との境界付近にいるレベル5の魔獣をグループで力を合わせて討伐することが求められる。

 レベル5は2階層では一番攻撃性の高い魔獣になるが、魔獣全体で見れば中程度、こちらが仕掛けなければ向こうから攻撃してくることはほとんどないくらいの魔獣であるため、課題としては然程危険なものではない。


 そしてこれはミリカにとっては合宿最後の好感度アップイベントでもある。





 アレックスたちは課題をこなすために2階層の最深部、3階層との境界付近に向かう。

 3階層との境には特殊な結界が張ってあり、3階層に棲む凶悪な魔獣は2階層には入って来られないようになっている。

 また出入りが制限されているのは人も同じで、許可された人間以外は結界を通れないため、普通ならば間違っても生徒たちが3階層に迷い込むことはない。




 ───()()()()()




 アレックスたちが狩場に到着してしばらく経つが、なかなかお目当ての魔獣が見つからない。

 そこで効率的に探すため、4人は手分けして付近を捜索し、魔獣を見つけたら戦場での連絡の際に用いられる〝信号〟魔法を使って他のメンバーに知らせることになった。


 ミリカが1人になることをジャックは酷く心配したが、「私とジャック様は同じ学園の生徒です!守り守られる関係では嫌なのです」とミリカに言われ、自分の傲慢さを恥じると共にミリカの意志の強さに惚れ直した。


 そんなこんなでミリカは1人で魔獣を捜索するわけだが、もちろん普通に物事が進むわけもない。

 ミリカが行った先では、()()()()()()()3階層の結界に穴が空いており、ミリカは吸い込まれるように3階層へと足を踏み入れてしまうのであった。


 3階層に入ってしまったことに気付かず辺りを捜索するミリカ。

 そんなミリカの前に現れたのは、3階層に生息する魔獣の中でも大型の魔獣だった。

 確か、レベルは9。

 攻撃魔法が不得手なミリカには到底太刀打ちできない魔獣である。


 ミリカは初めて目の当たりにする大型の魔獣に腰を抜かしてしまい、座り込んでガタガタと震える。

 本当ならば〝信号〟魔法を放たなければならない。

 だが身体が勝手に震えて言うことを聞いてくれない。




 だって、ミリカは知らなかった。


 ───魔獣がこんなに恐ろしいなんて。




 座り込むミリカに唯一できたこと、それは叫ぶことだった。


「……キ………キャァァァァァ!!!」


 けたたましい叫び声はアレックスたちに十分届いたが、それは魔獣の気を惹くことにも繋がってしまう。

 巨大な体躯に凶悪なツノとキバ。

 〝鬼〟とも形容できそうなソレは狙いをミリカに定め、涎をダラダラと垂れ流しながら迫ってくる。


「い、いやっ!来ないでっ!!」


 すっかり腰を抜かして立てなくなっているミリカは、地面を這いずりながら魔獣から逃れようと後退る。

 その時、隠れるのにちょうど良い小さな茂みが目に入り、咄嗟にそこに隠れる。

 巨大な魔獣からは小さなミリカの動きが見えづらいらしく、茂みに隠れたミリカを見失ったようだ。


 とりあえず、すぐに魔獣に食べられる運命は回避した。

 しかしいつまでもここに隠れていても、あの魔獣や他の魔獣に見つかるのも時間の問題だ。


(早くっ!早く助けに来なさいよっ!!)


 ミリカは体を縮こめ、顔の前で指を組んで助けに来るであろうヒーローたちの登場を必死で祈る。

 数分ののち、バァン!と大きな音がして「大丈夫か、ミリカ!?」と切羽詰まった声がかかる。


(やっと来たっ!遅いのよっ!!)


 ミリカは茂みから這い出ようとするが、ふとこのままヒーローたちに魔獣を倒してもらった方が良いんじゃないかと思いつく。


(私が出て行っても足手纏いになるだけだもの。彼らが魔獣を倒してから、顔を見せる方が良いわよね……?)


 そう考えて、ミリカは戦闘が終わるまで茂みで隠れていることにした。


 それから暫くが経ち、アレックスたちは魔獣の討伐に苦戦していた。

 ゲームでは、ミリカを助けるためにあっという間に魔獣を倒していたのに。

 ここで、ミリカはある重要なことを思い出す。



 ───オズワルドがいない………。



 国内屈指の魔術師であるオズワルドの魔法は、この魔獣の討伐で欠かせないものだった。

 オズワルドが魔獣の足を止め、ジャックとサイラスが魔獣の体力を減らしながら、アレックスがとどめを刺すのだ。

 しかしその足止め役のオズワルドがいなければ、この闘いはどうなってしまうのか?


 ミリカは転生して初めて、この世界は現実でありゲームのように簡単にはいかないことを実感した。

 正しくは、頭ではここが現実であると理解していたが、初めて実感を伴ったのである。

 そして改めて、少しのミスが命取りであることや下手をしたら命を失ってしまう可能性があると理解した。


(アレックスたちが死んじゃったらどうしよう………!)


 目からは止めどなく涙が溢れる。

 身体は勝手にガタガタと震え、己の意思で制御できない。

 ミリカにできることは、茂みの中からアレックスたちの闘いを見守ることだけだった。


 終わりの見えない闘いにアレックスたちの疲れが見え始めた時、突然、大木も揺れるぐらいの突風が起きて魔獣の足を止める。

 その瞬間を見逃すことなく、ジャックが魔物の足を斬り付けて跪かせ、サイラスが目を斬り付けて視界を奪う。


 そして最後に、アレックスが王家に伝わる宝剣『イマージェン』で魔獣の心臓をひと突きすると、魔獣は「グワァァァ」とくぐもった断末魔を上げ、周囲の木を薙ぎ倒しながらその場に倒れた。


「う………うわぁぁぁん!」


 魔獣が倒されたと知って安心したミリカが、茂みの中で大声を上げて泣き出す。


「ミリカ……ここにいたのか。無事で良かった」


 心配そうな表情のジャックが腰が抜けて立ち上がれないミリカを抱き上げる。


「他の魔獣が来る前に、早く2階層に戻ろう!結界の穴の件も報告しなくては」


 アレックスの一声で、その場にいた者たちは急いで3階層を出た。





 ゲームでのミリカは、レベル9の魔獣に怯むことなくアレックスたちと共に立ち向かう。

 闘いを終えた攻略対象者たちは、そのミリカの勇気に非常に感銘を受け、好感度を大きく上げるのだ。


 攻撃魔法は不得手なので、後方から補助魔法でアレックスたちを助ければ良いだけだと簡単に考えていた。

 しかし実際に凶悪な魔獣を目の当たりにすると、ミリカは少しも動けなかった。


 合宿最後のイベントで、ミリカは攻略対象者たちの好感度を上げることができなかった。




★感想、いいね、評価、ブクマ★

いただけると嬉しいです!


毎日3話ずつ更新中(^^)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【お知らせ】

拙作『義姉と間違えて求婚されました』が4/18に小学館ガガガブックスfより書籍化されます!
web版より大幅加筆しておりまして、既読の方も楽しんでいただける内容となっております。
こちらもぜひチェックをお願いします!

i948268
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ