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25. 魔獣の森合宿②

 『魔獣の森』───名前だけ聞くと大変恐ろしい響きだが、その実態は国が魔獣の隔離と生態系保護のために管理している広大な森林である。


 ひとえに『魔獣』と言っても人を襲う凶悪なものばかりではなく、普通の動物と同じように草食や昆虫食、空気中の魔素を栄養素にするものなど、その種類は多岐にわたる。

 また互いに共生し自然環境にも影響を与えているため、「人間に害があるから」との理由で駆逐してしまうと環境破壊を招くことにも繋がる。

 そのため、イビアータ王国では魔獣保護区を作って人里から隔離し、魔獣を管理しているのである。


 ちなみに『魔獣の森』は大きく分けて3階層あり、より人里に近い1階層目には小型の攻撃性の低い魔獣が、それより奥まった2階層目には中型までの攻撃性の低い魔獣が生息している。

 3階層目には大型だったり攻撃性の高い危険な魔獣が生息しており、それぞれの階層の境界には該当魔獣の出入りを制限する特殊な結界が張られている。

 つまり、1階層に生息している魔獣は3階層にも行けるが、3階層にしか棲めない魔獣はそれ以外の階層には移動できないというわけだ。


 『魔獣の森合宿』では当然ながら生徒たちは2階層目までしか出入りしない。

 そもそもが厳重に管理された区画であるから、危険なことなど起こり得ないはずである。


 ───そのはずであったが。





 合宿2日目、ミリカは1階層目の森の中で途方に暮れていた。

 グループを組む際、ミリカは同じクラスの令嬢3人から誘われてグループを組んだのだが、指定された魔草を探す課題の途中で他のメンバーと逸れてしまったのだ。


 森の中での位置情報を知るための魔道具は他のメンバーが持っている。

 記憶を頼りに合宿棟へ向かってみるが、何の目印もないのに辿り着けるわけもない。

 1時間ほど歩き回って疲れたミリカがちょうど良い大きさの切り株を見つけて腰を落ち着けると、不意に前方の茂みがガサリと揺れる。


 一気に緊張感を高めて警戒するミリカ。

 ミリカは魔法は使えるが下位貴族のため魔力量に恵まれておらず、回復などの補助魔法を得意とするため攻撃魔法はほとんど使えない。


(ここは1階層だから凶暴な魔獣は出ないと思うけど………)


 そう考えながらも身を固くするミリカの目の前に現れたのは、なんとアレックス、サイラス、ジャック、オズワルドの4人であった。






 ───というのはゲームの話。


 実際のミリカはこうなることが予め分かっているわけだから、わざわざ森の中を1時間も歩いたりしない。

 事前に見つけて目印をつけておいた切り株に早々に辿り着き、腰掛けながらアレックスたちの登場を待つ。


「はぁ~、アレックスが来るまで1時間も待たなきゃいけないの?つまんな~い。こんな時スマホがあればいいのに」


 そんな愚痴を1人で呟きながら、ミリカはつまらなそうに足をブラブラさせている。

 そのうちに、あまりに暇なのでこれからしなきゃいけないことを整理しよう、と思いつく。


「まずは~、上手いことアレックスのグループに入れてもらわなくちゃならないのよね」


 ミリカが他のメンバーに置いて行かれたことを話せば、サイラスとジャックはミリカを可哀想に思ってすぐにグループに加えようとしてくれるだろう。


 しかし、問題はアレックスとオズワルドだ。

 オズワルドはそもそもミリカと出会っていないので、知らない人間に対して警戒心を抱くだろう。

 アレックスはミリカを気にかけてはいるものの、必要以上にミリカを特別扱いすることを自制しているように感じる。


「アレックスってば私のことちょっと好きなはずなのに、どうしてそんなに気持ちを抑えようとするのかな~?」


 ゲームでは『魔獣の森合宿』の頃にはアレックスの好感度もそこそこ貯まっていた筈なのに、現実のアレックスからは好感は感じれど好意とまではいっていないような印象を受ける。

 そんなことを取り止めもなく考えていると、突然前方の茂みがガサリと揺れる。


(やっと来たわっ!)


 ミリカは期待に高鳴る胸を抑えつつ、警戒するような表情を作って前方を見つめる。


「魔草はこの辺にありそうですよ………って、ミリカ嬢?」


 茂みから出てきたサイラスがミリカに困惑の表情を向ける。

 続いてアレックス、ジャックが茂みの奥から現れる。

 なぜかゲームではいるはずのオズワルドがここにいない。

 ミリカは「私が攻略していないからグループに入らなかったのね」と自分に都合よく解釈した。


「サイラス様、アレックス様、ジャック様!はぁ~、助かりましたぁ」


 うるうると水色の瞳を潤ませて3人を見上げれば、3人は心配そうな表情でミリカに近づいてきた。

 ミリカは必死で涙を堪えて心細さを隠すような演技をしながら、どういう風に話すのが一番効果的だろうかと頭を働かせた。




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