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1. 悪役令嬢としての目覚め

 柔らかな陽射しの下、薔薇の咲き誇る庭園にあるガゼボで一人優雅に紅茶を飲む少女。

 この国でも高貴な証である金糸のように煌めく髪に真っ白で滑らかな肌、見るものを絡めとるような魅惑的な紅の瞳。


 14歳という年頃にも関わらず、見る者全てを魅了するほどの美貌を持つ少女ユリアンナ・シルベスカは、このイビアータ王国の王族を除く貴族の中で最も高貴な公爵家の令嬢だ。


「はぁ………」


 ユリアンナは物憂げにその金色の長い睫毛を伏せ、今日15度目の溜息をつく。

 こうやって朝からぼんやりと溜息をついて過ごす主を、侍女や護衛たちが遠巻きに眺めている。 


「どうして悪役令嬢なのかしら……」


 ポツリと呟いたユリアンナの声は、侍女たちが待機している場所までは届かない。

 ユリアンナの目下の悩みは、()()()()()()()()()してしまったこと。

 そう、踏切事故で命を失った押上琴子は、この世界でユリアンナ・シルベスカとして転生してしまったのだ。


 ユリアンナ・シルベスカ───それは前世で琴子が息抜きに楽しんでいたスマホアプリの恋愛ゲーム『ドキドキ♡イケメンパーティー!』(通称イケパー)に出てくる〝悪役令嬢〟の名前である。


 ユリアンナの父であるシルベスカ公爵は別名《氷の公爵》と呼ばれるこの国の筆頭公爵家の当主で、完全利益追求主義の男だ。

 目的を達成するためには人の感情を無視し、邪魔者を徹底的に排除する冷徹な人間として国内外に知られている。


 そして母である公爵夫人は元々は隣国の王女であったが、政治的な思惑のためにこの国のシルベスカ公爵に嫁いできた。

 非常に大人しく従順な性格で、夫のやる事なす事に口を出すことは全くない。


 ユリアンナの4歳上の兄アーベルは次期公爵として申し分ない美貌と能力を持ち合わせているが、その性格は父に似て非常に冷淡である。


 公爵家の令嬢として生まれたユリアンナは幼い頃から王家に嫁ぐために厳しい教育を施された。

 本当は王妃にしたかったが5歳上の王太子には既に婚約者が決まっていたため、ユリアンナの父であるシルベスカ公爵は同い年の第二王子とユリアンナを婚約させることにした。


 一方で両親は優秀な兄と比べ不出来なユリアンナを早くに見限り、ユリアンナが第二王子と婚約してからは必要最低限の会話しかしなくなった。

 ただ、シルベスカ公爵家と王家を繋ぐための駒。

 家族の中でのユリアンナの扱いはそういうものだった。


 そんな環境で育ったユリアンナだが、一歩外に出れば公爵家の恩恵に預かりたい者がこぞってその足元に傅くのだから、家族に愛されない不満を抱えたユリアンナが外では傲慢に振る舞うようになったのも当然のことのように思える。


 琴子がユリアンナに転生したのを自覚したのは今朝のこと。

 よくある転生ものの小説のように頭を打つなど何かきっかけがあったわけでもなく、朝目覚めたら唐突に琴子としての記憶があった。


 忘れていた前世の記憶を思い出したのか、今日急に魂が入れ替わったのかは定かではないが、琴子の記憶と一緒にユリアンナとしてのそれまでの人生の記憶も頭には残っていた。


 さて、ここが《イケパー》の世界であり、自分が悪役令嬢に転生したことを自覚したものの、この時すでにユリアンナは14歳。

 ゲームの舞台であり、ユリアンナの命運を左右する学園生活が始まるまで、あと1年ほど。


 ゲームでは婚約者の第二王子やその他の高位貴族の令息に近づくヒロインの男爵令嬢、ミリカ・ローウェンに嫉妬してありとあらゆる嫌がらせや脅迫、遂には暴力行為を計画し、最終的には断罪されてしまうユリアンナ。


 そこでこの14年間のユリアンナの記憶を辿ってみると。


 何でも天才の兄と比べて嫌味を言ってくる家庭教師に苛ついて癇癪を起こし、クビにする。

 参加した複数の茶会で他の令嬢と口論になり、大暴れして出禁になる。

 王宮主催の茶会で第二王子に付き纏い、嫌な顔をされる。


 社交場に出るたびに問題を起こすユリアンナに、家族はますます冷たく当たり、その寂しさや苛立ちを使用人や他の人に暴力や暴言という形で向ける悪循環。

 今日までに、見事に悪役令嬢としての素地が出来上がってしまっている。

 急に今から「心を入れ替えました」とユリアンナが言っても、誰も信用しないだろう。


 断罪を回避しようにも既に〝詰み〟のこの状況に、ユリアンナは頭を抱えた。





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