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17. 茶番劇の開始 〜オズワルドside

 学園に入学する直前、オズワルドはユリアンナから〝ヒロイン〟と協力するという計画を聞かされた。

 ユリアンナが言うには、恐らく〝ヒロイン〟も転生者なのだという。


 入学式当日、正門近くでたくさんの視線を浴びながらも呆然と立ち尽くすユリアンナを見つけて、オズワルドは声をかける。

 どうやら、視線の先に〝ヒロイン〟ミリカ・ローウェンの姿を見つけたらしい。


 ゲームのシナリオ通りならこの時間、学園にミリカはいないのだが、なぜかミリカはここにいる。

 オズワルドは内心、やはりここはゲームと違う世界なのだと思った。

 しかし、ユリアンナの反応は違った。


「……やっぱり、彼女も転生者なのかもしれないわ」


 予測と違うミリカの動きに、ユリアンナはミリカが転生者であることを確信したようだ。


「私、確かめてみる」


「え?どうやって?」


「彼女がアレックス殿下との出会いイベントを望むなら、入学式に遅れてきたように装うはず。今からここに隠れて見張ってみて、もし彼女が後から現れたら声をかけてみるわ」


 なるほど、今すでに学園にいるミリカが遅刻を装うということは、アレックスとの出会いイベントがあることを知っているということだ。

 しかしオズワルドは、ユリアンナが無防備に〝ヒロイン〟と接触しようとすることに不安を覚えた。


「じゃあ、俺も一緒にいるよ」


 オズワルドがユリアンナに付き添うことを提案すると、ユリアンナは驚いたようにその勝気な紅色の瞳を丸くする。


「え!?いえ、その必要はないわ!話をするだけだし、私1人で十分よ」


「相手がどんな奴なのか分からないんだぞ?頭のおかしな奴だったらどうするんだ?」


「うーん。あのね、前世私が暮らしていたところはとても平和な国だったの。だからヒロインがもし転生者なら、話し合えばきっと理解してもらえると思うのよね」


 ユリアンナが転生する前に生きていた日本という国は、ほとんど争い事のない平和な国だったらしい。

 だからユリアンナがお人好しなのか、とオズワルドは思った。


「……話し合いの邪魔はしないよ。ユリが話しているのを、隠れて見とくだけだ」


 オズワルドがそう言うと、ユリアンナは渋々頷いた。


 2人はオズワルドが高度な〝認識阻害〟魔法をかけてから物陰に身を隠した。

 入学式が始まって少し経った頃、正門前に一台の馬車が停まり、アレックスが降りてくる。


(本当に遅れてきたな)


 ユリアンナの予言通りに遅刻してきたアレックスの姿を認めた後、すぐに正門からピンクブロンドの髪を2つに結った小柄な女子生徒が駆け込んでくる。


「………来たわ」


「来たね」


 ユリアンナとオズワルドは小さく囁き合う。

 早くから学園に来ていたくせに、遅刻しそうだから慌てて走ってきた風を装うミリカは、やはりユリアンナが言うように〝転生者〟なのだろう。


 アレックスはミリカと二言三言やりとりした後、入学式の会場である講堂へ足早に向かった。

 十分に距離が離れたのを見計らって、ユリアンナはミリカに話しかけた。

 取引を持ち掛けるために。





 結果的に、ユリアンナが予想していたことが当たった。

 ミリカはやはり転生者だった。

 それと同時に、この世界がユリアンナの言う〝ゲームの世界〟であり、決められたシナリオが存在するのだと言うことをオズワルドは知らしめられた。

 なぜならば、ミリカは行く先々で〝攻略対象者〟との出会いを果たしたからだ。


 まずは正門前で、アレックスと邂逅。

 入学式が終わった後に教室に向かう途中、講堂と校舎を繋ぐ渡り廊下で再びアレックスとバッタリ会い、隣を歩くサイラスを紹介される。

 教室に入る時に入り口で躓いたミリカを、たまたま近くにいたジャックが支える。

 全て事前にユリアンナに聞いていた通りだった。


 どうしてオズワルドがそんなことを知っているかと言うと、〝観察者の眼〟という魔法を使ってミリカの行動を監視していたからだ。

 〝観察者の眼〟は、自分の魔力の小塊を観察対象にくっつけておくことで対象者をいつでも覗き見ることが可能になる魔法だ。


 本来ならば休み時間に裏庭でオズワルドとミリカが出会うイベントがあるはずなのだが、オズワルドは初めからそこへ行く気はなかった。

 ミリカの行動を追ってみると、やはりミリカは休み時間に裏庭にやってきてオズワルドが来るのを待っていたようだが、しばらく周囲をキョロキョロした後、諦めたように帰って行った。





 その後も事あるごとにミリカの行動を監視していたが、オズワルド以外の攻略対象者とは順調に仲を深めているようだ。

 入学して半年を過ぎる頃には、アレックスやサイラス、ジャックと学園内で普通に会話するミリカがよく見られるようになり、周囲の生徒たちも次第にミリカについて噂をするようになってきた。


 婚約者のいない令嬢の立場にしてみれば、アレックス、サイラス、ジャックは理想の婚姻相手なわけで、彼らから目をかけてもらえるミリカを羨ましく思って当然だ。

 しかもミリカはしがない男爵令嬢だ。

 その羨望の眼差しが嫉妬と憎悪を含むものに変わるのも時間の問題だった。


 ミリカは一部の令嬢から嫌がらせを受け始めた。

 そしてそれは、ユリアンナが悪役令嬢として動き始める合図でもある。


 その日もオズワルドは〝観察者の眼〟を使って注意深くミリカの動向を追っていた。




 ───バーンッ!!


 ミリカのいる教室の扉が荒々しく開き、入り口から勝気な紅色の瞳を吊り上げたユリアンナが勢いよく入ってくる。


「ミリカ・ローウェンという女はこちらの教室にいるのかしらっ!?」


 いつもは柔らかく心地の良い声を奏でる薄桃色の唇から、よく通る刺々しい声が発せられる。

 その手には閉じられた扇子が握られており、ギリギリと音を立てて今にも折れそうだ。


 突然現れた〝稀代の悪女〟に教室にいた生徒たちは一瞬ざわめき、すぐに静まり返る。

 恐怖からか興味からか、ピタリと動きを止める生徒たちの合間を縫って、1人の女子生徒がおずおずと前に出てくる。


「あ、あの………。私が、ミリカ・ローウェンですが………」


 ミリカはその小柄な身体をさらに縮こまらせ、その水色の瞳にはうっすら涙を湛え、脚をぷるぷると震わせている。

 見る者の庇護欲を唆るその姿は、到底この出来事を事前に知っている人間とは思えない。


(……随分演技が上手いな)


 普段のミリカとは全く違う振る舞いに、オズワルドはある意味感心する。


「貴女ね?わたくしの婚約者を惑わす女狐はっ!良いこと?金輪際アレク様には近寄らないで!!」


 ユリアンナは扇子の先をビシッとミリカに突きつけ、声高に糾弾する。


「惑わすなんて、そんなっ………。アレックス殿下はいつも私が困っている時に助けてくださるだけで、特別なことは何もありません……!」


「あぁ、そうなの。それが貴女のやり方なのね……?困っているフリをしてアレク様の気を引こうとするなんて、随分端ないのね!とにかく、わたくしは忠告したわ!次にアレク様に近づいた時はどうなるか………覚悟しておくことね!」


 ユリアンナはそう言い捨てるとくるりと踵を返して教室を出て行った。

 教室には顔色を失ったミリカと唖然とした生徒たちが残された。


「……ユリの演技もなかなかだな」


 オズワルドはそう呟くと、〝観察者の眼〟を閉じた。




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