13. 学園入学とゲームスタート
柔らかな日差しが降り注ぐ朝、ゴールドローズ学園の制服に身を包んだユリアンナは学園に向かう馬車に乗り込んだ。
今日は学園の入学式の日。
ついに《イケパー》ゲームのオープニングを迎える。
日本のゲームだからか、学園の入学は春の季節で、制服は紫色の日本の高校生のようなブレザーであるものの、リボンの代わりにシルバーの華やかなクラヴァットがついており、下のスカートはくるぶしまで長さがあり脚を晒すことはない。
脚を晒すのはこの世界の貴族令嬢にとってはとても端ないことなのだ。
ゲームを始めると、ヒロインのミリカが馬車に乗っているところからスタートする。
学園に入学するために片田舎から王都にやって来たミリカは、本来は入学式の前日までに寮に入っている予定だったが、途中で落石事故に巻き込まれて到着が遅れ、入学式の開始に間に合わなかった。
そして学園の門を潜ると、これまた突然の公務で入学式に間に合わなかったアレックスと鉢合わせる。
アレックスはミリカが大急ぎで来たために汗をかいているのを見て、ミリカにハンカチを差し出し、まさかそれが王子様だとは思っていないミリカは笑顔でそれを受け取り、お礼を言う。
そして途中で式に参加したミリカは、新入生代表挨拶で登壇したアレックスを見て、アレックスが第二王子であることを知る───という、何とまあベタなオープニングである。
ユリアンナを乗せた馬車は学園の正門前で停車する。
通学のための馬車の停車場はいくつかあり、ユリアンナは公爵家であるため一番正門に近い停車場を利用することができる。
ユリアンナが馬車を降り正門を潜ると、たくさんの好奇の視線が降り注ぐ。
前世の記憶を思い出して以降、ユリアンナはお茶会などの社交場に一切顔を出していなかった。
とはいえ、多くのお茶会で問題を起こしていたユリアンナは複数の家から出禁を食らっていた。
なのでこの一年、顔を見せなくなったユリアンナについては「問題を起こしすぎて招待が来なくなったのではないか」「ついにキレた公爵から謹慎を言い渡されたのではないか」といった噂が立っていた。
実際のところは前世を思い出して以降、社交に一切興味がなくなっただけなのだが。
久しぶりにユリアンナの顔を見た令息令嬢たちは、その容貌の変化に息を呑んだ。
以前のユリアンナはギラギラに着飾って誰よりも目立つことばかり考えていたが、今のユリアンナは目立つことは好きではなく、メイクも最低限、髪型も美しい金髪をゆるりと巻き、シンプルにハーフアップして紅色の細いリボンでくくっただけという出立で現れたからだ。
以前の着飾った姿でも相当な美少女だったが、今のシンプルな装いはユリアンナの素材の良さを存分に引き出している。
目尻の上がった勝気な瞳は変わらずだが、どこか清らかさや高潔さを感じさせるその姿に、ギャラリーたちは不覚にも見惚れていた。
一方でユリアンナはそんなギャラリーたちの視線には気付くことなく、ある一点を凝視していた。
(………な、なんで………)
いきなりの予想外の展開に、ユリアンナの思考は空転を続ける。
(………な、なんでここに………)
「ユリ、おはよう。……ユリ?どうした?」
いつの間にか正門を潜ってユリアンナの側まで来ていたオズワルドが呆然と立ち尽くしているユリアンナに気付いて声をかけるが、ユリアンナはそれに答えない。
オズワルドは怪訝な表情でユリアンナの視線の先を追うと、そこにはウサギの耳ように可愛らしくピンクブロンドを2つに結った小柄な女子生徒が立っていた。
(………ミリカ・ローウェン………〝ヒロイン〟か)
「ユリ?大丈夫か?」
オズワルドがユリアンナの肩を軽く揺らすと、ハッと顔を上げオズワルドの存在を認識する。
「あ……オズ。おはよう」
「ボーッとしてたけど、どうした?何かあった?」
「いえ……何も」
「あれ、ヒロインだろ?今ユリが見てたの」
ユリアンナはミリカを見ていたことがバレたのを気まずく思ったのか、バツが悪そうに眉尻を下げて苦笑いする。
「ああ……うん。そうなんだけど……おかしいのよ」
「おかしいって、何が?」
「ゲームでは、ヒロインは入学式に遅れてくるはずなの。そこで、同じく遅れて来たアレックス殿下と出会うのだから」
そう言われてオズワルドは視線をユリアンナからミリカに移すが、既にミリカの姿はなくなっていた。
「………やっぱり、ゲームのシナリオ通りには進まないってことじゃないの?」
オズワルドはユリアンナを落ち着かせるようにそう言うが、ユリアンナは硬い表情を崩さない。
「……もしくは……やっぱり、彼女も転生者なんじゃないかしら」
ユリアンナの呟きに、オズワルドは目を細める。
確かに、そう考えればヒロインがシナリオと違う動きをするのにも説明がつく。
しかし………やはりあまりに荒唐無稽な話で、オズワルドは未だ半信半疑だ。
しかしユリアンナの勘は確信であることを告げていた。
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