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12. 半信半疑 〜オズワルドside

 ウォーム伯爵家の四男、オズワルド・ウォームは孤独な少年だった。

 政略結婚の駒となる女児が欲しかったがためにオズワルドを身籠った母親は、オズワルドが生まれた瞬間に、その黒髪黒眼の禍々しさと身に纏う圧倒的な魔力に悲鳴を上げて失神したという。


 報告を受けた国王はすぐに宮廷魔術師長であるモーガンをウォーム家に派遣した。

 モーガンの見立てでは、オズワルドはモーガンをも凌ぐ膨大な魔力を保持しているらしい。


 膨大な魔力を持つ子供を育てるのは非常に困難なことだ。

 幼い子供は魔力を上手くコントロールできないため、しばしばそれを暴走させる。

 下手をすれば周りを巻き込んで死傷者を出す恐れもある。

 モーガンはウォーム伯爵夫妻にそれを説明し、オズワルドを自分が引き取ることを提案したが、ウォーム伯爵夫妻はそれを断った。


 ウォーム伯爵家は3代前に侯爵家から分岐した分家筋であるが、ウォーム伯爵は非常に凡庸な男であった。

 極小の領地を管理しながら、数多いる宮仕えの文官として働いていた。

 そんなうだつの上がらないウォーム家から偉大な魔術師を出せるかも知れない。

 ウォーム伯爵はそんなチャンスをみすみす手放すほど、謙虚な男ではなかった。


 モーガンの申し出を断ったものの、予想通り凡庸なウォーム伯爵ではオズワルドを持て余した。

 それに、女神信仰が主流のイビアータ王国においても敬虔な方であるウォーム家において、女神の敵となる悪魔の象徴である黒髪黒眼がどうしても受け入れられなかった。


 また、オズワルドの誕生を忌々しく思う者がもう一人いた。

 オズワルドが生まれた時、長男のガレリオは13歳。

 当然の如く、ガレリオはウォーム家の次期当主は自分だと思っていた。

 しかしオズワルドにとんでもない才能があると分かった時、その地位が初めて揺らいだ。


 もしオズワルドが偉大な魔術師になれば、父はウォーム家をオズワルドに継がせようとするかもしれない。

 しかしガレリオは父に似て、どこまでも凡庸な少年であった。

 オズワルドに対抗しようにもその術がないため、追い詰められたガレリオが取った行動は『虐げること』。

 ガレリオはオズワルドを徹底的に虐げ、家族に不和をもたらした。


 故に、きちんと育てると約束したくせに、伯爵はオズワルドを郊外の古屋敷に隔離した。

 この状況を、もちろん国王も把握していた。

 オズワルドは確かに虐げられはしたものの、虐待の原因である兄たちからは隔離され、使用人をつけた屋敷に住み、衣食住に不足はない。


 この状況では、例え国王であっても親の同意もなく子を引き離すことはできない。

 そこで国王は『魔法の訓練を受けさせる』という名目で王命を出し、オズワルドを定期的に登城させることにした。


 オズワルドの指導には、宮廷魔術師長であるモーガンが直々に行った。

 また、国王はオズワルドと同い年の息子である第二王子アレックスを合流させ、魔法の訓練と同時に情操教育も行った。


 ウォーム家の外でも黒髪黒眼が忌み嫌われることには変わりなく、オズワルドが人目を避けるようになったのは必然である。

 14歳になるまでにオズワルドが心を開いたのは、師であるモーガンと友であるアレックスだけ。



 ………そう、いつものように木の上で暇を潰していた時に、とある令嬢に話しかけられるまでは。


 その令嬢はユリアンナ・シルベスカと言ってこの国で最も高い位の公爵家の令嬢だ。

 一目で高貴と分かる金糸のような艶やかな髪に目尻が勝気に上がった紅色の大きな瞳。

 徹底的に社交場を避けていたオズワルドでも、その存在を知っているほどの有名人。



 ───〝無能で愚かな稀代の悪女〟。



 人々は彼女をそう評する。

 彼女はオズワルドの友であるアレックスの婚約者でもあるが、あの優しいアレックスですら婚約者の話になると表情を曇らせ口籠もる。

 はっきり言って、良い印象は皆無だった。


 しかし実際にユリアンナと少し話してみると、当初抱いていたものとは異なる印象を受けた。

 まずオズワルドが失礼な態度をとっても気分を害する様子がない。

 それどころかオズワルドの出方を窺って、上手く自分の話を聞いてもらえるよう誘導する賢さがある。


 しかし、次にユリアンナの口から出た言葉はオズワルドの理解の範疇を超えるものだった。

 ユリアンナは「未来を知っている」という。

 オズワルドは自分を利用するための嘘かもしれないと疑い揺さぶりをかけたが、ユリアンナは動じることなく「1年後には正しいかどうか分かることだ」と返した。


 噂とは当てにならないものだ、とオズワルドは思った。

 そもそもオズワルド自身も人から口さがない噂を立てられることが多いため、ユリアンナに同情心が芽生えたのかもしれない。

 オズワルドはユリアンナの望み通り、魔法を教えてやることにした。


 実際に魔法の訓練を始めると、ユリアンナは実に優秀な生徒であった。

 魔法の適正が元々高かったのだろう。

 さすが公爵家の血筋か、オズワルドほどでないにしろ魔力量も多い方であった。


 訓練を重ねるにつれ、2人は魔法以外のことについて話すようになっていった。

 始めはユリアンナの置かれた境遇。

 それから、オズワルドの境遇。

 そして、ユリアンナの口からまたしても驚くべきことが語られる。


 ユリアンナは異世界に生きた記憶がある〝転生者〟であり、この世界は〝ゲームの世界〟であるという。

 この頃には既にユリアンナを噂のような人物でないと確信していたオズワルドだが、こんな突飛な話にはさすがについていけない。


 しかしユリアンナが言うには、噂の〝稀代の悪女〟は間違いなくユリアンナのことであり、前世の記憶を思い出したことによって人格が変わったらしい。

 そう言われれば、なるほど、と納得できないこともない。

 〝ゲームの世界〟として既にシナリオを知っていたのならば、ユリアンナが未来のことや面識のないオズワルドのことを詳しく知っていたことにも説明がつく。

 

 何より、オズワルドは優秀な魔術師である。

 この世に自分の知らない道理があるということを、彼は案外すんなりと受け入れた。


 ユリアンナの話では、そのゲームのヒロインとやらも転生者の可能性があり、断罪は免れないであろうとのこと。

 実際に悪いことをしないのに本当にユリアンナが断罪されることがあるのか?

 あの正義感に溢れた優しいアレックスがそのような非道なことをするはずがない。


 オズワルドはそう考えたが、最悪の事態を想定してユリアンナが動くことは悪いことではない。

 それに何より、ユリアンナはアレックスの妃となることを望まないらしい。

 生家である公爵家にも愛着がなく、国外追放となることが彼女の望みなら、それを叶えるよう手助けしてあげたいとオズワルドは思った。


「学園に入ったら私に遠慮しないで、オズもヒロインと恋愛して良いんだからね」


 ユリアンナは申し訳なさそうにそう言った。

 ゲームの中では、オズワルド自身も〝攻略対象者〟なのだという。

 残念だが、ゲームの全貌を聞いた今、ヒロインと恋愛したいなどとオズワルドは思えなかった。


 《逆ハールート》なるものでは、ヒロインは複数人と同時進行で恋愛をするらしい。

 その軽い貞操観念はこの国では受け入れ難いものだ。


 本当にそんな尻軽女に籠絡されるのだろうか?

 オズワルドは半信半疑だが、確かにユリアンナと出会う前を思えば、ヒロインが自分の容姿を怖がらずに接してくれるとしたら簡単に恋に落ちたかもしれないとも思う。


 でもユリアンナと出会った今のオズワルドに、ヒロインは必要ない。

 賢くて努力家だが、お人好しでどこか抜けている友人のユリアンナが不幸にならないよう、自分が手助けしてあげようとオズワルドは心に決める。




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― 新着の感想 ―
[気になる点] 「そんなうだつの上がらないウォーム家から偉大な魔術師を輩出できるかも知れない。」 の「輩出」は誤用です。 「輩出する」は「~が多数出る」「~が次々に出てくる」の意味です。
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