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終局

 その頃、にとりに離れているよう言われていた椛は、持ち前の千里眼で部屋の外から対局を観戦していた。

(さすがに勝負ありだ。神子の手駒には角と歩しかなく、さらに、にとりの玉は右辺へと逃げられる。それに対して、にとりの持ち駒には金一枚に銀三枚、桂二枚と歩が四枚あって、さらに神子の王を守る駒は飛車一枚のみ。盤面の龍を4一龍として王手をかければ、持ち駒と合わせて、まず確実に神子の王は詰む。神子にできることはもうないだろう)

 椛は勝負ありだと判断し部屋に入り、にとりの横に立った。丁度そのとき、神子は持ち駒から角を取り、3六に角を打ち王手をかけた。機械はすぐに4七歩打と受ける。4七の歩には4四の龍が効いているで、角単独ではそれ以上攻めることはできない。

(これはもう投了かな)

 椛がそう思っているとき、神子は次の一手を指した。同角不成、角で4七の歩を取り再び王手をかけたのだった。しかしこの手は、同龍と単に角を取られる一手、つまり角をただで相手に渡す一手であり、勝負を投げているようにしか見えない一手だ。にとりは、この一手を見て呆れた様子を見せていた。

(負けを受け入れられないのかな? 最後にかけられるだけ王手をかけるなんて安物の機械じゃないんだからさ。それに角を馬に成らないなんて将棋を知っている奴からしたらありえないよ。馬は角の動きはそのままに、前後左右にも動けるようになる。この局面でそんな手をさすなんて、いかにあんたが将棋をなめているかがわかるよ。これ以上棋譜を汚さないでもらいたいね)

 にとりは神子の方をみた。何故か神子は、ただにとりの方を真っ直ぐ見つめていた。悔しがるような焦るような様子もなく、ただ静かににとりの方を見つめていた。

 にとりがその様子を少し気味悪く思ったとき、ある疑問を抱いた。この局面は同龍の一手なのに、機械はまだその手を表示してこないのだ。にとりは、後ろで機械をもっている河童の方へと振り返る。

 すると、その河童は手に持った機械を見て、青ざめた表情をしていた。

「どうしたんだい? 次の手はもう表示されてるだろう、早く見せてくれよ。」

 その河童は恐る恐ると機械に表示された手をにとりへと見せる。そこに表示されていたのは、王手を防ぎながら角を取る同龍ではなく、神子の王手を放置して相手に王手をかける4一龍であった。

「なっ、なんだって!」

 にとりは機械を奪い取り、近くでまじまじとそれを見つめる。しかい何回見てもそこには4一龍と表示されていた。

「そ、そんなこんなときに故障たのか? いや、そんなはずは……」

 王手を放置するということは、次の相手にの番に玉を取られること意味する。玉を取られるということは即ち負けを意味する。ただし、将棋において玉を取って持ち駒にすることはできないので、王手放置は反則負けとされている。

「勝ってた、本当なら勝ってたのに……」

 にとりは反則負けになるとわかっている手を指さなければならなかった。機械に表示された手は必ず指さなければならないというルールを事前に決めていたからだ。

 にとりは手を震えさえながら龍をもち、4一へと力なくおいた。

 指し終わったのを見た神子は口を開いた。

「王手放置の反則で、私の勝ちだな」

 にとりは、椅子に座ったままうなだれていた。

「以上101手を持ちまして、河城様の反則により、豊郷耳さまの勝ちとなります」

 咲夜によって、勝負の終わりが宣言された。

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