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相対

 そのころ神子は、神霊廟のある一室で椅子に座り、一冊の本を静かに読んでいた。そんなとき、黒い烏帽子を頭に乗せた薄緑色の髪をした人物が部屋に入ってきた。そして、その人物は神子に声をかけた。

「太子様、布都のやつを見かけませんでしたか?」

 神子は本を閉じ顔を上げる。

「屠自古でしたか。布都なら人里に買い物に行きましたよ。もうすぐ帰ってくるとは思うのですが」

 屠自古のフルネームは蘇我屠自古(そがのとじこ)であり、豊聡耳神子に仕える人物である。しかし、彼女は足のない亡霊である。そして神子は、屠自古や話題にも上がっている布都などからは太子様と呼ばれている。

「そうでしたか」

 屠自古は神子の本の方へと目線を下げる。

「太子様、それは何の本を読まれていたのですか?」

「ああ、これは将棋の本ですよ。最近勉強しだしたんですよ」

 神子は本を手に取り、表紙を屠自古に見せた。

「将棋をですか」

 不思議そうに尋ねる屠自古に神子は答える。

「今、人里では賭けが流行するに伴って、将棋も良く指されている。私も流行に乗り遅れないようにとしようと思ってね」

 そうやって話をしているときであった。

「太子様ー、何やら太子様宛の手紙を受け取って参りましたぞ」

 そう言いながら部屋に入ってきた人物は物部布都(もののべのふと)。灰色の髪で烏帽子を被っており、彼女も屠自古と同様、神子に仕えている。彼女は亡霊ではなく、尸解仙を自称する道士である。

 神子は手紙を受け取り、中を確認する。手紙を読んだ神子は微笑を浮かべた後、屠自古と布都に尋ねた。

「近々大きな勝負がある。二人も見に来ませんか?」

 それを聞いた布都と屠自古は顔を見合わせキョトンとしていた。



 三日後、神子は布都と屠自古を連れて紅魔館へと向かった。紅魔館とは吸血鬼レミリア・スカーレットを主とする紅色を基調とした洋風の館である。

 神子たちは事前に知らされているある一室へと向かった。扉の前に立つと、中からは話し声が聞こえてくる。神子は扉を開けた。

 部屋は洋風で、中央にはテーブルが一つと、向かい合うような椅子が二つ用意されている。そして、テーブルの上には将棋盤が置かれている。また、部屋の中には、紅魔館のメイド長である十六夜咲夜を始めとし、河城にとりを始めとする河童が数人、白狼天狗である犬走椛(いぬばしりもみじ)、人間であり魔法使いである霧雨魔理沙、地霊殿の主である古明地さとり、紅魔館の主であるレミリアなど、多くの人妖が集まっていた。

「思ったより多くの見物人が集まっているな」

 神子はそう呟きながら、テーブルの方へと歩いていく。

「遅いよ! こんなに見物人を呼んでおきながら逃げたと思ってたよ」

 にとりも部屋の奥から、神子にそう声をかけながらテーブルへと向かう。

「両者揃いましたね、ではお二方とも席におつきください」

 咲夜がそう告げると、神子とにとりは席についた。

「豊聡耳様と河城様の賭場の運営権を賭けた勝負の立会をさせていただきます、十六夜咲夜です。では、あらかじめお二方によって決められた勝負内容を説明させていただきます」

 咲夜はそう言いながら説明を続けた。

「まず、豊聡耳様が賭けられるものが、前回に得られた人里の賭場の運営権。河城様が賭けられるものが、人里での出店の権利と、人里での今後新たな賭場の運営の権利。それでお間違いないですね」

 両者共に頷いた。つまり、にとりが勝てば人里の賭場の運営権を取り返すことができ、神子が勝てばさらに人里で河童が行なっている出店の権利を得、河童は人里で新たに賭場を開くことが今後できなくなるという内容である。

「それでは、勝負の内容を説明いたします。種目は将棋です。基本的なルールは将棋のルールに準拠いたします。その他に事前に双方によって付け加えられたルールを説明いたします。対局を行うのは豊聡耳様と、河城様が持参された機械です。それに伴い、河城様は機械に表示された手を必ず指す必要があり、機械が故障した場合などは続行不能と見做し失格となります。また、対局途中に機械をメンテナンスすることは認められません。待ち時間は一時間、秒読み一分です。また、豊聡耳様の要望により、対局の場に観客を招き入れています。以上が、この勝負のルールとなっております。双方ともよろしいでしょうか」

 それを聞いた神子は一つ提案した。

「対局中の互いへの攻撃は認められない、それを追加してもらっても良いかな?」

 にとりはそれを聞いて、少し疑問に思いながらも同意した。にとりは、神子が機械に手を出すといった手段を取ってくると考えていたので、自分からそれを禁止したことを不思議に思っていたのだった。

「あんた、将棋はどれくらいやってんだい? この勝負を呑むということは相当自信があるんだろ?」

 にとりがそう話しかけると、神子は指を一本立てて答えた。

「一週間ほどだな。最近はじめたんだ、流行ってるみたいだからな」

 それを聞いて、にとりは呆れた様子を見せた。

「一週間⁉︎ 話にならないね。私が言うのもあれだけど、こんな勝負良く受けようと思ったね」

「やってみなければわからない。それより、観客も待たせている。そろそろ始めようか」

 神子は将棋盤上の歩兵を五枚とった。そさして、両手の中に入れ、シャカシャカと音を立てながら混ぜた後、その手を開いた。神子が行なっているのは、先手後手を決める振り駒である。手から盤に落ちた五枚の歩兵は、二枚が表面の歩、三枚が裏面のとを上側にしていた。との方が多いので、神子は後手番となり、にとりが先手番となった。

「では、対局を始めてください」

 咲夜の声と共に、両者は頭を下げ、対局が始まった。

 

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