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第二章 神子vsにとり(河童の賭場編)

 神子とさとりのポーカー対決が終わり、しばらく経った頃、幻想郷での賭博ブームはまだまだ続いていた。人里では、様々な場所で賭場が開かれているようで、賭けを楽しむ人々で大いに賑わっていた。行われている種目としては、丁半博打のようにサイコロを用いたものや、花札を用いたもの。他には、将棋などのよくあるものから、どのコップに球が入っているかを当てるような単純なものまで多種多様であった。

 そして、この賭場の特徴としては、この賭場を取り仕切っているのが河童たちであるということである。河童はお金儲けになることはすぐに実行しており、以前から小規模ではある物の賭けの機会を作ったり、祭りで店を出すなどといったことをしていた。

 そんな賭場に、一人の客が訪れた。ヘッドホンとマントを身につけ、腰に剣を帯びた人物、豊聡耳神子である。

 神子は少し周りを見渡した後、ふらりとある一角へと近寄る。そこで行われている賭けの内容は、三つのコップのうち一つにボールを入れ、コップをシャッフルしたの後にどこに入っているかを賭けるといったものである。

 既に数人の人間がこのルールの賭けを楽しんでいるようだ。

 神子は河童に声をかける。

「私も今から賭けに混ぜてもらおう」

「はいよ、じゃあ今からシャッフルするよ」

 河童はそう言いながら、テーブルの上に下向きに置かれた三つのコップのうち、真ん中のコップの中に小さな球を入れた。

 そして、何やら手の形をした機械を用い、コップの位置をシャッフルし出した。機械を用いているので、シャッフルのスピードは中々に速く、普通の人間がまだ追うのは困難であった。シャッフルを終えると河童が声を上げる。

「さぁさぁ、どこに賭けるんだい?」

 他の客も続々と右や左、或いは真ん中のコップにお金をかける。

 神子はその様子を少し眺めた後、口を開いた。

「そうだな、じゃあ私はこれに賭けようか」

 神子は右のコップを指す。

「いくら賭けるんだい?」

「これを賭けよう」

 そうして、神子は自らの腰に帯びていた剣を前に差し出す。鞘には金の装飾が施されており、いかにも高価そうなものである。

「お客さん、そんなに高そうな物を賭けられても、当たり分をすぐに用意はできないよ」

「そうだな、私が勝てばここの運営権を頂こう」

「運営権⁉︎」

 河童は驚いた様子を見せた後少し悩んだ。

 そして河童は答えた。

「いいよ! それで受けよう」

 河童は神子の提案を快諾した。河童は少し悩んだ様子を見せている間に球の位置を変えていたのである。じつはテーブルも機械仕掛けとなっており、シャッフルを終えた後でも、コップを動かさずにこっそりと球の位置を変えることが可能である。そして、球の位置も河童にはわかるようになっており、神子が指定した右のコップに入っていた球を左のコップに移したのだった。

 神子は河童が快諾するのを見て、微笑を浮かべた。

「私が一番たくさん賭けたんだ。私がコップを開けても良いかな?」

「どうぞどうぞ!」

 河童は笑顔でそう答える。

「私が賭けたのは右だ。つまり、真ん中と左に入っていなければ当たりだ。まずは真ん中のコップから開けさせてもらうぞ」

 神子がまず真ん中のコップを開けるが、当然そこに球は入っていない。周りの客も固唾を飲んでその様子を見守っている。

「さて、後は左のコップだな」

 そう言って神子は左のコップに手を伸ばす。

 そして、神子はコップを河童側に倒すように、つまり客側に見えるようにコップを開けた。河童はその様子をニヤニヤしながら眺めている。その様子を見ていた周りの客が歓声を上げる。

「入ってないぞ!」

「ということは右にかけたこの人の勝ちだ!」

 河童は客の様子を見て、慌てた様子で、左のコップを勢いよく持ち上げる。河童は確かに左のコップに球を移したはずであった。しかし、そこに球は入ってなかったのである。

「な、なんで……」

 河童は思わずそう呟き、そして右のコップに手を伸ばそうとした。しかし、神子は右のコップを上から押さえつけ、河童に語りかける。

「もう右のコップを開けるまでもなく私の勝ちだな。このコップに球が入ってないということはルール上あり得ないのだからな」

 河童はその言葉を聞いてハッとした。

(こいつ! まさか、コップを開けるときに球をどこかに隠したのか! だけど、右のコップを開ければこの賭けの信用性が失われてしまう。球が全てのコップに入ってないなどという可能性を客に与えてはならないし……)

 神子はそんな河童の様子を見て話し出す。

「さて河童よ、運営権は私がもらうことになるが、すぐに取るわけじゃない。しばらくはいつも通りやってると良い」

 神子はそう言い残してその場を後にした。



 それから数時間後。

「はぁ……お金を出してもらっているとしても、旧地獄には行きたくないんだよなぁ」

 そうため息をつきながら人里を歩く河童がいた。彼女の名前は河城(かわしろ)にとり。数多くいる河童のうちの一人である。

 にとりは賭場の様子を見に人里に立ち寄った。賭場はいつも通り繁盛しているが、他の河童たちの様子が少しおかしい。何か別のことを考えながら賭場を運営している様子であった。

 にとりは、たまたま客がおらず手が空いている河童に声をかけた。

「やぁ、今戻ったよ」

「あ……どうだった?」

「それがねぇ、将棋ソフトの試作版を持ってたのはいいものの、勝てないからってそれを木っ端微塵にしちまってさ。旧地獄の奴らは血の気が多くて困るよ。でも、その分開発費はもっとふんだくってやったよ」

「へぇ……」

 得意げに話すにとりに対し、話かけられた河童は、心ここに在らずといった様子で返事も最低限しかしてこない。

「様子が変だよ、いったいどうしたんだい?」

「それが……」

 にとりの問いかけに対して、その河童はゆっくりと口を開いた。そして、にとりが人里にいなかった間に起きたことを話した。

「ええっ! 人里での賭場の運営権を全部取られたって⁉︎」

 にとりは、目を見開いて驚いた。この河童によると、豊聡耳神子が賭場の運営権を賭けての勝負に勝ち続け、最終的には人里での賭場の運営権の全てを掻っ攫っていったとのことだった。

「そんな賭けなんて反故にすればいいじゃないか」

「それが賭けを成立させるためとして、十六夜咲夜が立会としていやして……。しかも、多くの客人達がそれを見ちまってて、どうしようもできないのさ」

「でも、人里の賭場で得られる利益は莫大だし、手放して良いもんじゃないよ。取り返さないと」

「神子のやつ、こう言い残していったよ。『もし取り戻したければ、それ相応のものを賭けてこい、私はいつでも受けよう』って」

 にとりは腹を立てた。なんて生意気な奴だろうと。しかし、それと同時にある考えが思い浮かんだ。

「そうだ! これを使おう! この将棋ソフトなら、賭場での賭けを取り返すにはピッタリだし、それに絶対に負けることはないさ」

 確かに河童の賭場の中には、機械相手に将棋を指すようなものもあった。そして、将棋は運が絡まず、純粋な実力勝負である。これは、賭場での借りを返すにはうってつけであった。

 河童達は早速集まり作戦会議をはじめた。

 



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