二回戦
そして二回戦が始まり、二人には再びカードが二枚ずつ配られた。
さとりはカードを確認した。
(さて、今回の私のハンドは3♢にJ♠︎ですか。あまり良いハンドとは言えませんね。さて、相手の手は)
さとりは、神子の手を確認しようと神子の方を見た。しかし、神子は配られたカードを見るどころか触れようともしなかった。さとりは少し驚いた表情を見せた後、少々落胆したかのような表情で口を開いた。
「手札を見ないですか……少し残念ですね。あなたはプライドが高い。それ故、そんな思考を停止したような戦法をしてくるとは思っていなかったのですが」
「勘違いしてもらっては困るな、何もずっと見ないわけではない。今見る必要がないというだけのことだ」
(どういうこと、今ではなく後……)
さとりは神子の心を読んだ。
「そうでしたか、そういうことでしたか」
「そう、後攻なのだから相手がベットなりレイズなりするまで自分のハンドを見る必要はないということだ」
したり顔で話す神子は続けて心に思った。
(そんな簡単なことにも気づいていなかったようだな)
少しムッとしたさとりは神子に尋ねた。
「では、何故あなたは一回戦の後攻を私に譲ったのですか?」
「いや、それはたまたまだが。まあ、考えたのはさっきだ。そうでなくてはお前にバレるだろう」
「そうですか……、私はチェックです。あなたはさっさとハンドを見てください」
ちょっとうんざりした様子を見せながら、さとりは神子へと手番を回した。
神子はカードに手を伸ばしながら話し出した。
「ところで、バカラは知っているかな? その楽しみ方にスクイーズ(絞り)というものがある。カードを端から少しずつめくり、どの数字がでるかを楽しむものだ。あれには、独特の緊張感と高揚感があるらしい。それをお前と一緒に味わってみようと思ってな」
そうすると、神子はカードを一枚だけ手に取り、表面を手で隠した。そして、カードの右上の方だけ見えるように少しだけ手をずらした。すると、右上に♠︎が見えてきた。
(なるほど、このマークの位置は、1〜3、J〜K以外のどれかだ)
(そうきましたか。確かにそうすれば私に完全に手札を読まれることはなくなる。しかもあなたには、私の手札を知っているというアドバンテージがあります。考えましたね)
(さて、もう少し絞ろうか)
そうして、神子は手をもう少しずらした。カードの上側に♠が二個みえる。余白的に4から6のどれかのようだ。神子はもう一枚のカードにも手を伸ばし、同じように確認した。このカードも同様に♣の4から6のどれかであるということがわかる。
(つまり、既に手札でペアができている確率は33%、そうであれば私がかなり有利。では、その確率にいくらベットしようか)
少し考えて、神子はさとりのほうを見た。
(さとりは安全に勝ちたいだろうから、私がオールインしたら降りるだろうな)
(ええ、あなたが不利な状況に対し、開き直ってオールインするとなると少々困りますね。例えあなたの勝つ確率が40%だったとしても、運でどうにでもなってしまう。そうなってしまっては興醒めです。)
そうすると、さとりは微笑みながら神子にこう言った。
「でも、あなたは運に頼って辛うじて得られるような勝ちではなく、完璧な勝利を望んでいる。そんな心配は無用ですよね」
通常のポーカーであれば、運も実力としてみて良いかもしれない。しかし、お互いのハンドや心理がわかる二人にとっては、運だけで勝ったところで戦略で負けていれば本当の勝利とはいえなかった。
「そうなんですよねー、私完璧主義者なんで。じゃあ、とりあえず100ベットで」
神子の100ベットで場には参加料含め500のチップが出ていた。
(100ベット……、私はJを持っているし受けても問題はなさそうね)
「コールします」
さとりは、100チップを出した。Jがペアになる、あるいは相手の手がペアにならなけらばJのハイカードで押しきれる、それがさとりの考えであった。
(後は場に出るカード次第)
そして、場にカードが三枚開かれた。開かれたカードは、J♡6♢4♢。
さとりにはJのペアできていた。しかし、さとりにとって気がかりなことがあった。それは、場に出た6と4であった。そして、さとりは考えはじめた。
(神子のハンドは44、55、66、45、56、46のどれか。つまり、神子のハンドは最初の段階で44%の確率でツーペアかスリーカードが完成している。確率的にはわたしの方が有利だけどここは様子を見た方が良さそうね)
「チェックで」
それを見た神子はすかさずチップを全て掴み、前に出した。
「オールイン!」
「オールイン……そうですか私が降りると確信しましたか」
さとりは少し驚いた表情でそう口にした。
「ええ、というよりも100ベットでも降りてくれると思うのだが」
神子はそのまま話し続ける。
「とりあえず状況を整理すると、まず私は既にこの二回戦で300チップ払っている。二回戦終了時点で私の勝ちがなくなるチップの枚数は3800枚、そして私の今のチップの枚数も3800枚だ。つまり、私はここで勝つしかないということ。ならば、オールインで相手にも即負けのリスクを背負ってもらうのが賢明だろう」
「ポーカーというものはオールインで決着がつきますからね。ただ、この勝負においてのオールイン勝負は勝敗が決することと同義ですけど」
さとりは、場のカードへと目を落とす。
(さて、このオールインを受けるか受けないか。さっきは私の方が有利と考えていたけれど、カードがあと二枚場に開かれることを考慮しないといけない。すると、勝率は五分に近づいてしまう……)
そして神子の方へと顔を向け、穏やかな表情で話し出す。
「あなたの思い通りに動くのは少々嫌なのですが……客観的に見ても降りた方が良いかもしれませんね」
「一回戦で得たアドバンテージを放棄してまで五分の勝負にでるかどうかというだけのこと。このゲームの性質上、不利な側はオールインをした方がうまく立ち回れる。逆に有利な側はオールインを受けるタイミングを見計らわなければならないからな」
「フォールドします」
さとりは、カードを前に出し二回戦を降りた。そして、二回戦までの動きを振り返った。
(今のところミスは犯していない、私がミスをしない限りは負けることはないはず)
(ミスをしなければ……な)