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一回戦

 カードが二人に二枚ずつ配られる。

 ポーカー(NLH)は、手札の二枚と場に開かれる五枚の計七枚のカードから五枚を選んでより強い役を作った方が賭けたチップを獲得できるゲームである。そして、カードを配られたときと、場に三枚のカードが開かれたとき、四枚目が開かれたとき、最後の五枚目が開かれたときの計四回、チップを賭けるやりとりがある。

 神子とさとりは配られたカードを確認した。神子に配られたハンドはK♣︎と10♡。そして、さとりに配られたハンドは8♢とA♣︎であった。

 ポーカーというものは、本来相手のハンドを全て想定した上で自分のハンドの強さを考える。しかし、お互いのハンドが何であるかをわかっている二人にとっては、自分のハンドの強さの考え方はまた変わってくる。

 例えば、自分がAを一枚持っている場合を考える。相手もAを持っていれば、もう一枚のカード次第でハンドの強さは大きく変動する。しかし、相手がAをもっていなければ、ペアでない限りは自分のハンドの方が勝率が高くなる。

 Aを持っているさとりは、Aを持っていない神子のハンドより自分の方が有利であることがわかっていた。

 同様に神子は自分が不利であることをわかっており、その上でどう動くべきかを考えていた。

(私の手がさとりに勝つ確率は43%ほど。私の方が少々不利だ。いつものポーカーならば、あまり戦いたくないハンドだろう……だが、今回は五回戦の短期決戦、しかもお互いにお互いの手が把握できている。ここは攻めるべきだ)

  神子はそう考えると、チップに手を伸ばした。場にある参加料100に加えて、100チップを8枚前に出した。

「ベット800」

(おまえは、このベットを受けるだろう)

 さとりはそのベット額を見て少し微笑んだ。

(よく考えていますね。確かに、そのベット額は私が最も受けたいと思う額です。現段階でこれ以上の額はないと両者の間で一致しています)

 さとりがこのように考えるのには理由があった。この勝負が五回戦と決まっている以上、残りの対戦の参加料を上回るチップを手に入れていれば、戦わずして勝ちが確定、すなわち逃げ切りが発生する。

 神子の800のベットにコールすることは、参加料の100を合わせてお互い900ずつチップを出し合うことを意味する。900というのは、二、三、四回戦の参加料の合計と一致する額である。仮に900負けて相手が残りの対戦を全て降りても、五回戦ではお互いのチップは同数であり、勝敗はまだ決まらない。逆に、900勝てば、後一回勝てばほぼ勝ちとなる有利な状況である。

 さとりは、57%という勝率で有利な状況を築きたいものの、43%を引いて負けが確定するようなことはしたくないと考えていた。そんな考えを満たしてくれるのが神子の800ベットであったのだ。

「では、コールしましょう」

 さとりがコールして、場には1800のチップが出た。

(あなたの望み通り、私がコールして場は一気に動いた。けれども、運はあなたに味方するのかしら?)

 

 そうして、場に3枚のカードが開かれた。場に出たカードは2♢1♡4♣︎。

 神子は少し険しい表情で考えていた。

(現時点で、さとりの手は1のワンペア。そして、私の手はノーペアだ。つまりここからK♣︎と10♡の私が勝つには、Kと10を2枚引くことによるツーペア又はスリーカード、QとJを引くことによる3カードのみ。しかし、それが実現する確率はかなり低い……)

「チェックだ」

「そうですか。では私は、500チップベットしましょう」

 さとりは満足そうな顔で500チップを前に出した。

(500か、なるほど……絶妙なベット数だ。これをコールした場合どうなるか。現在お互い手持ちは4100。500ベットをコールして決着がついた場合、お互いの手持ちは3600と6400になる。つまり、両者の差額は2800。そしてこの2800という差額は、残る2回戦から5回戦のすべてを降りたときにつく差額と一致している。つまりは、2800の差がつく6400以上のチップを手に入れた時点で、引き分けか勝ちが確定する。負けることはないということだ。お互い5000チップを持って始まった勝負だが実のところ1400チップこそが重要であり、残り3600枚はさほど意味がないのだ。よって、この500ベットは1400ぴったりに標準を定めたベットであり、さとりはここで勝負を決めるつもりなのだ)

(ええ、その通りですよ。500ベットからそこまで考えられるとはさすがですね。しかし、そのことに気がついたとしても、あなたはここは降りるしかない。私が1800差のリードを広げることに違いはありません)

 神子はさとりの方をちらりと見た。

(まあ、いいだろう)

「フォールド(降りる)」

 こうして、神子が降りたことにより、一回戦はさとりの勝ちとなり、さとりは場に出たチップを獲得した。さとりは1800分のチップを自分の手元に寄せながら、悦に浸っていた。

(これで、私とあなたの差は1800。引分け以上を確定させるには、のこりの対戦の参加料の合計分勝つことが条件。つまり、私は2回戦で後300だけ勝てばいい。そして、私が判断を誤ることも100%ありません。勝ちはほとんど決定しました)

 さとりがそんな様子であるなか、神子は片方の口角を上げて、少し見下すようにさとりを見ながら思った。

(それはどうかな? お前は心を読めるというだけで勝負に強いわけではない。私の心が読めたとしても、果たして判断を誤らずに済むかな?)

 さとりは、少しキョトンとした表情を見せた後、すぐに悪戯っぽい笑みを浮かべて言い返した。

「そうですか? でも、私に勝つための考えがまだ浮かんでいないようですが」

「私ならば、その場に応じて何百通りと考えることができる。いまわざわざ考えて、お前に答えを教える必要もない」

 神子は微笑を浮かべながらそう答えた。自分が負けるとは微塵も思っていない様子であった。

 一回戦が終わり、神子のチップは4100、さとりのチップは5900となっていた。

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