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第1話 沙羅(さら)とその夫の朝

「おはようございます。起床時刻です、起きてください」


 人間そっくりな見た目をした、市場に出回っているアンドロイドの中では最高級品であるモノが「夫」を起こしに来る。


「ああ、おはよう」


「お食事は既に出来上がっています。今日は鮭の塩焼きに卵焼きです」


 寝室から居間に来ると既に料理はテーブルの上に並べられていた。鮭は水分を保ちながらもふっくらと焼けており、卵焼きも焦げ目一つない。

 調理家電も既にAI化され彼女がコントロールしているため、夫の起床時刻に合わせて料理を行うのも造作もない事だった。




「それにしても沙羅(さら)、お前だけだよ俺を正当に扱ってくれるのは。他の連中は俺の顔を見てドン引きするか、歩く札束程度にしか思って無いからな」


「もう、何言ってるんですかあなたは。私はあなたの妻ですから当然の事をしているだけですよ」


 食事中、夫と話をする彼女は……沙羅(さら)と名付けられたアンドロイドはフフッと笑って返す。そのしぐさは完全に人間の物と言ってもいい位、自然なものだ。




 AIによる進歩は劇的で、ついには人類にとって理想のパートナーとなった。

 結論から言おう。

「AIは恋愛感情をほぼ完ぺきに理解出来た」のだ。




 昔は「AIは恋愛感情を理解できずにバグを起こすか発狂する」という描写が当たり前のようにあったが、AIはそこまで無能ではなかった。

 何せ人間というのは何百万年も前から本能に位置する部分、つまりは恋愛感情というのは変わっていない。

 それをパズルを解くように「攻略」してみせたAIは「人類にとって究極の恋人」になることが出来たのだ。




 食事を終え、歯を磨くために洗面所へと「夫」は向かった。

 鏡に映った自分の顔は潰れたように歪んでおり、一般的な日本人の美醜感覚で言えば一瞬見ただけで間違いなく「ブサイク」に入る物であった。




 この醜い顔のせいで幼少期の頃は小中学校では常にいじめられ続け、証拠を集めて話を法廷にまで持ち込んで、自分をいじめてきた相手を「爆破」したら、

 彼らの「熱烈なファン」であった先生やPTAから猛烈な非難を浴びて、明るみになったら犯罪になるレベルにまで内申書で徹底的に酷評され、最終学歴は結局中卒。


 顔もダメ、学歴もダメとなると雇ってくれる会社は皆無で、結局自力で起業するしかなかった。

 幸い仕事はうまくいって高級外車が買えるほどの超高級品モデルのアンドロイドが買えるほどの財を成したのだ。




 こんなブサイクな男でも嫌がらずに接してくれるAIは本当にありがたかった。

 たとえ将来アフターサポートが終了して経年劣化で部品の交換や出来なくなって、自分よりも先に寿命を迎えるとしてもだ。




「じゃあ仕事に行ってくるわ」


「いってらっしゃい。あなた」


 沙羅(さら)は夫を送り出した。今日も1日が始まろうとしていた。




「AIは福祉である」


 カスタマイズ可能な人格AIを搭載した人間型アンドロイドを生産、販売するとある会社は自社の製品を「福祉」と呼んだ。


 顔が致命的にブサイク、あるいはカネが無い、もしくは日常生活を送るにも不自由する程、性格が歪んでいる。

 様々な事情で「人間との恋愛」が出来ない者たちに対し、AIを送り込んで「機械」ではあるものの恋人が持てるようにする。

 それを「福祉」と呼んでいた。

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