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仕事請負人

作者: 吉田逍児

 俺を乗せた飛行機は、何もない青く晴れ渡った空を、タイのバンコクに向かって飛行している。このタイという王国の名を耳にすると、少年の日、夢中になって読んだ山田長政の漫画を思い出す。象に乗った日本人少年のアユタヤ王朝時代の活躍の物語は、日本の山村に生まれ育った俺にとって、まさに痛快、憧れ、そのものだった。そんなこともあってだろう、これから向かうタイは俺にとって楽園だ。仕事請負人の俺は、一仕事終え、ほっとして、タイに向かいながらの機中で、今回の仕事を振り返った。


         〇

 俺に仕事を依頼したのは、俺の大学時代の友人、船田博行だった。船田は若い時から政治が好きで、学生運動は勿論のこと右翼や左翼の連中とも付き合いがあった。俺と同じ大学を卒業するや、衆議院議員、中川憲造代議士の事務所に出入りし、第一秘書、梅丘次郎の手先となって、東奔西走した。安い給料で、朝から晩まで、時には徹夜をして働いたが、中川代議士たちからは、重要視されることは無かった。それでも船田は不平不満を抱くこと無く、政治活動に邁進した。何時の日にか、きっと自分の出番がやって来ると信じて、懸命に働いた。大企業で働く学生時代の仲間は、そんな船田のことを笑った。

「大学卒業してから10年経つというのに、まだ政治ごっこ遊びをしているのか?」

 新年の同窓会でも、皆からそんな風に冷笑された。しかし船田は、そんな笑いに耳を傾けなかった。ボクサーになる夢を失って、やくざまがいの仕事をしている俺などに危険とも思わず、接近し、相手をして、学生時代の失敗談を思い出させて、大笑いした。船田は己の思想と政治家になる夢を失わず、独楽鼠のように動き回った。その努力と能力が認められたのは、元農林大臣、森山幹夫から声をかけられるようになってからのことだ。或る時、森山幹夫代議士が中川憲造代議士に言った。

「中川君。君の事務所の船田君、明るくて頼もしい男じゃあないか。軽井沢でのゴルフ、彼と一緒に回りたいね」

 中川憲造は、普段、梅丘次郎の陰に隠れて目立たないでいる船田博行のことを、何故、森山代議士が気に入ったのか分からなかった。議員会館内の回覧や表敬訪問をして来た人たちの案内や初めての人を紹介する時のメッセンジャーボーイ的案内役として、船田を使って来たが、多分、彼の礼儀正しさや声の大きさ、明朗活発な態度が気に入られたのであろう。兎に角、中川代議士に何か関係することがあると、森山代議士は船田を指名したり、船田に直接、電話して来た。結果、船田は35才にして、中川憲造代議士の第3秘書に起用されることになった。それからというもの独身でハンサムな船田は代議士秘書という肩書で、急に女にモテる様になった。また議員事務所の女性たちも、船田には一目置くようになった。そんな或る日、船田はある女性から電話を受けた。

「船ちゃん、お元気?洋子よ。今、『赤坂プリンスホテル』にいるの。短大時代の同窓会があって、東京に出て来たの。今夜、時間があるかしら?」

 電話の相手は、長野の高校時代から、大学に入学して上京して数年間、付き合いのあった浅野洋子だった。今は苗字が変わり、『原島建設』の社長夫人、原島洋子だった。彼女の夫、原島征彦の父、原島信雄会長は船田が仕える中川代議士の選挙地盤の地元建設会社組合の会長で、地域ロータリークラブの有力メンバーだった。本人、原島洋子は、去年から同地区婦人会の役員を務めていて、中川憲造講演会の需要人物でもあった。そんなことから船田は、彼女からの突然の電話に慌てた。

「ええ、バタバタしていますが、何とか都合をつけましょう。7時に伺います。部屋にいて下さい。ロビーから電話します」

 原島洋子の状況を第一秘書、梅丘次郎に伝えると、船田は直ぐに『本間組』の富永友和に電話を入れ、今日の打ち合わせ時間を1時間、早めてもらうことにした。富永友和は大手ゼネコン『本間組』の企画管理課の課長で、政界との窓口担当を任されていた。船田の大学時代のゼミナールの先輩でもあり、船田にとっては、良き相談相手だった。その富永課長とは『青山ツインビル』の地下にある喫茶店『エル・グレコ』で待合せし、コーヒーを飲んでから、近くのカラオケ店のカラオケルームに入り、密談した。密談するにはカラオケルームが最適だった。密談内容は高速道路工事や国体誘致に関する話と政治献金依頼の裏話だった。富永課長は船田の提案に快く賛成し、近々、本間栄吉会長と本間英明社長に了解を取り付けると約束した。


         〇

 その後、船田博行は『赤坂プリンスホテル』に向かった。『赤坂プリンスホテル』のロビーに到着したのは、夕刻7時、丁度だった。ロビーから部屋にいる原島洋子に電話を入れた。

「只今、到着しました。ロビーでお待ち申し上げます」

「そう、分かった。直ぐ、下に降りるわ」

 待ってましたと言わんばかりの原島洋子の声に、船田は覚悟を決めた。今夜は彼女に遅い時刻まで付合せさせられそうだ。少し待つと、ロイヤルブルーのスーツを着た社長夫人が1階ロビーに現れた。明るく笑っているが、昔と変わらず、我侭そうだ。胸に飾った紅い薔薇のブローチが印象的だった。手にしているハンドバックはシャネル。

「お久しぶり。船ちゃん、元気そうね」

「奥様こそ、お元気そうなので、何よりです。では外に行って、食事をしましょうか」

「そうね。銀座が良いわね」

「分かりました」

 2人はホテルの玄関からタクシーに乗って、銀座に出た。船田は彼女を銀座の老舗レストラン『ざくろ』に案内した。そこの個室で、しゃぶしゃぶ料理を楽しみながら原島洋子は、いろんなことを喋った。短大時代の同窓会の話、夫、原島征彦社長の悪口、ゴルフの話、『原島建設』の話、息子の教育の話、婦人会の話、次回の選挙運動についてなどなど。実によく喰い、良く喋った。その上、日本酒もいける。そんな彼女は、豊満な女性ではないかと想像されそうだが、どちらかというと、瘦せ型のちょっとした美人で、実にエネルギッシュな女性だった。そこで飲み食いして、1時間程、過ごしただろうか。船田は『ざくろ』の勘定を済ませた。店から外に出ると、銀座の夜のネオンが2人の目に眩しかった。何ともいえぬ妖しい光が、道行く人たちを銀座に留めおこうと、いろんな色を放って煌めいていた。まるで銀河の中に佇んでいるような錯覚に陥る。

「次は何処?」

 船田は、出来る事なら、『ざくろ』で終わりにしたかった。だが、せがまれては仕方ない。銀座のクラブに案内することにした。花椿通りにある行きつけのクラブ『ガラシャ』を選んだ。クラブ『ガラシャ』のママ、細川幸子は、気高く快活で、一見、穏やかだが、芯の強い女だった。お客の性格を見抜くこと抜群だった。生まれは細川ガラシャ夫人の血筋を引く名門出身とのことであるが、嘘か本当か分からない。船田が『ガラシャ』のドアを開け、マスターの渡辺良太に案内され、原島洋子とソフア席に座ると、ママの幸子が直ぐに席にやって来て挨拶した。

「いらっしゃいませ。船ちゃん、女性を御連れするなんて、珍しいわね」

「うん。まあね。ママ。こちら『原島建設』の社長夫人。原島洋子さん」

「まあっ。これはこれは、お越しいただき有難う御座います。私がママをしております」

 ママはそう言うと、細川幸子という名刺を原島洋子に渡し、船田に何時もお世話になっていると話した。女2人は何故か、気が合いそうだった。2人はバーテンダーの水野大介が作ったカクテルを飲みながら、衣装の話から始まり、カバン、靴、アクセサリー、旅行、男に至るまで、いろんな話をして、心を弾ませた。船田は『ガラシャ』の片隅のソフアに沈むように座り、晴美と愛子を相手に、競馬の話に熱中した。ここにいるホステスたちは、金と男と酒とギャンブルに関して、目が無い程、好きだ。そんなことから、船田はこの店を接客に利用した。お客が誘えば彼女たちの誰かが、簡単に応じてくれる。今まで随分、彼女たちを利用したし、利用されもした。これからも、まだまだお世話になるであろう。そんなホステスたちと話していると、突然、幸子ママと原島洋子がカラオケを始めた。演歌からシャンソンまで、唄い放題。他の客たちも、それに合わせ、カラオケを始めた。『ガラシャ』の中は急に騒々しくなった。船田は疲労を感じ、腕時計を見た。夜11時になろうとしていた。帰らなければならない。船田は洋子に言った。

「そろそろ時間です。車を頼みます」

「船ちゃん。あと一曲、あと一曲、唄わせて」

「分かりました。兎に角、車を頼みますよ」

 船田は、そう念押しして、馴染みのマスター、渡辺良太に車の手配を頼んだ。通称、良ちゃんは笑いながら、頷き、タクシー会社に電話した。やがて洋子の最後の歌唱も終了し、タクシーの到着時刻になった。私と洋子は幸子ママの案内で、西銀座通りに出て、予約のタクシーを見つけ、それに乗った。見送る幸子ママが、別れ際、手を振りながら、船田にウインクした。何の意味か。船田は、それを見ぬ振りをして、タクシー運転手に行き先を告げた。

「赤坂の『プリンスホテル』まで」

 タクシーが発進すると、原島洋子は酔いつぶれて、船田の膝の上に横になって眠った。困った。どうしよう。船田は『ガラシャ』のホステス、晴美や愛子と競馬の話をしている時、『ガラシャ』の幸子ママが、隣で洋子に喋っていた言葉を思い出した。

「夫、以外の男とのセックスは最高ですわよ」

 幸子ママは何ということを言うのか。タクシーは『赤坂プリンスホテル』に近づいていた。これからどうなるのか、船田の脳裏は期待と不安でいっぱいになった。


         〇

 船田は議員会館の中川憲造事務所の机に座り、昨夜の事を回想した。選挙準備を急がねばならない。安心などしていられない。原島洋子の言うように、前回の選挙で落選した議員が返り咲き、自分が仕える中川憲造代議士が、落選することだって有り得る。そんな事はあってはならない。昨夜、『原島建設』の社長夫人の欲望に弄ばれたのも、『原島建設』が『憲友会』から脱退せず、洋子が選挙区婦人会で中川憲造代議士をよろしくと呼び掛けてくれるよう期待しての献身なのだ。そのようにして船田が身を犠牲にして尽くしている中川憲造先生から、第一秘書、梅丘次郎に電話が入ったのは正午近くだった。梅丘秘書は中川先生との電話を終えるや、小さな声で中川先生からの指示を船田に伝えた。

「東京で集めた選挙資金を、何時ものルートを使って、『憲友会』事務所に、お届けするようにとの電話だ。準備は出来ているか?」

「はい。第1回分は準備出来ております。代々木の『チェリー貿易』に保管してもらってます」

「なら、申し訳ないが、それを再確認し、それを『憲友会』に送ってくれ」

「分かりました。まず『チェリー貿易』の三好社長に、第2区まで届けてもらいましょう」

 船田は梅丘秘書の命令に従い、何時もの迂回ルートで、選挙資金の送金を実行することになった。それは第1区の『チェリー貿易』から、第2区の『青雲寺』まで、『青雲寺」から第3区の『憲友会』事務所への秘密ルートだった。現金1億円を入れたダンボール箱を2個、計2億円を、三好社長が『青雲寺』の住職、上杉了賢和尚に運び、そのダンボール箱を『憲友会』の会長、速水冴子が『青雲寺』に取りに行くという、全く面倒な送金の仕組みだった。三好社長、上杉和尚、速水会長の3名は、中川憲造代議士のブレーンと聞いているが、船田には3人の経歴と中川代議士との関係について、明確な把握解析が出来ていなかった。ただ速水冴子会長は『憲友会』の婦人会のメンバー、原島洋子と犬猿の仲であると、地元秘書の小林純次から聞いていた。船田は速水冴子会長に何度か会い、何となく彼女の性格が陰湿であり、異常に威張っていると感じていることから、中川先生と何かあると想像出来た。それにしても、2億円という資金は大金である。その半分は森山幹夫代議士の関係先から回って来た資金であるが、あとの1億円は建設会社や運輸会社からの政治献金である。この献金交渉の為に、船田がどれだけ苦労しているか、中川先生は実態を分かっているのだろうか。国の公共事業を請け負っている建設業界からの国政選挙に関しての献金は禁じられている。幸い、『本間組』には大学のゼミの先輩、富永課長がいるので、裏工作はスムーズに行っているが、他の建設会社との折衝では梅丘秘書が苦労していた。運輸会社『勇早運輸』からの政治献金については、『チェリー貿易』の三好社長に協力してもらった。『チェリー貿易』の三好社長と『ガラシャ』のホステスたちを集めて、ゴルフコンペを開催し、『勇早運輸』との関係を深めた。ゴルフコンペの主賓は勿論、『勇早運輸』のメンバー、早川勇雄社長、岩崎国夫専務、塚田洋三経理部長の3人。接待側は三好社長、梅丘秘書と倉田の3人である。まずは箱根のゴルフ場で、『ガラシャ』のホステスたちとのゴルフを楽しみ、その後、温泉旅館に宿泊し、『ガラシャ』のホステスたち、愛子、香織、晴美、奈々、露子、桃香との酒宴でドンチャン騒ぎの接待づけ。お互いにヘトヘトになるまで遊びまくった。そして、その接待費の支払いは『チェリー貿易』の三好社長にお願いした。結果、『勇早運輸』から2千万円の寄付金をいただいた。こうした努力によって集めた資金を、中川先生の一言で、『憲友会』に選挙資金として送るのは、何となく惜しい気がした。しかし選挙資金は中川先生の当落を左右する大事なお金である。東京事務所の梅丘秘書も船田も如何ともし難い。選挙区で活用するのは『憲友会』の速水冴子と地元秘書の小林純次に任せるしかない。船田は梅丘秘書の指示に従い、『チェリー貿易』の三好社長に、『青雲寺』への送金の依頼をした。船田からの電話を受けて、三好社長は了解した。

「船田さん。分かりました。私が今夜のうちに了賢さんに、お届けします」

「気を付けて下さい」

「心配いりませんよ。私に任せて下さい」

 遊び仲間でもある若き社長、三好康男は、電話の向こうで明るく答えた。船田は、これが三好社長との最後の会話になろうとは、この時、知る由もなかった。


         〇

 2日後、梅丘次郎第一秘書と船田は中川憲造代議士事務所の応接セットに向き合って座り、互いに頭をかかえ、苦悩していた。2億円の入ったダンボール箱が、まだ『青雲寺』の上杉和尚の所に届いていないというのだ。梅丘秘書が天井を見て呟いた。

「こいつは只事じゃあないぞ」

「一体、どうしたのでしょう。三好社長、2億円に目が眩んで、持ち逃げしたんじゃあないでしょうね」

「三好は、そんな奴じゃあない」

 梅丘次郎はかっての学友、三好泰男のことを信頼していた。船田には、旧知の友とはいえ、信頼する理由が分からなかった。いぶかしがる船田に梅丘秘書が説明した。

「船田君には話していなかったが、三好は中川先生の甥御さんだ。幼い時に父親を失い、女手一つで育てられた。当時は女手一つで子供を育てるということは不可能に近かったが、幸い父親、三好五郎の残した財産もあったし、母親の実家、中川家も中川憲造先生が学校経営を始めるなどして好調だったので、その助けを得て、彼は私と同じw大学に入学し卒業した。彼は先生に恩義があるし、私とは大学時代の同期生だ。だから先生や私を裏切るようなことなど、決してしない」

 梅丘秘書の説明を聞いて、三好泰男が、どんな男なのか知り、三好の中川先生に対する今までの忠誠心が何なのか船田には理解出来た。ならば彼は、何処へ行ったのか。2億円という大金を持ったまま、何処へ消えたのか。『青雲寺』の上杉了賢和尚は相当、慌てて電話して来た。

「兎に角、梅丘さんか、船田さんのどちらかが、こちらに来て下さいよ。約束の品物が未だに届いていないのですから・・・」

 上杉和尚からの幾度もの要請に、梅丘秘書と船田は、二手に別れて、三好社長を探すことにした。梅丘秘書は時々、出入りしている代々木の『チェリー貿易』に行き、船田は中川先生の地元、長野の『青雲寺』に向かった。季節は早春で、若葉が美しい時期であったが、東京から長野に向かって車を猛スピードで走らせる船田には若葉を愛でる、そんな余裕など無かった。高崎から国道18号に入り、碓氷峠を越えなければならず、九十九折の急勾配の道を、ハンドルをしっかり握り、目にも留まらぬ速さで、車を走らせた。中川憲造代議士の怒った顔と2億円の詰まったダンボール箱が、時々、頭にちらつき、危険な運転だった。幸い事故を起こさずに、午後2時、『青雲寺」に到着した。船田が山門の脇の駐車場に車を乗り入れると、上杉了賢和尚が跳び出して来た。

「船田さん。大変です。梅丘さんから連絡がありました。三好さんが交通事故を起こされて・・・」

「ええっ。何ですつて・・」

「ここへ来る途中、交通事故を起こされて、死んでしまったそうです。先程、群馬県警から連絡が入ったとのことです。船田さんに現場に直行して欲しいとのことです」

 船田は『青雲寺』の奥書院に入り、東京にいる梅丘秘書に連絡を入れた。梅丘秘書は議員会館事務所にはおらず、『チェリー貿易』の事務所にいた。彼は船田に指示した。

「お疲れさん。上杉和尚に聞いたと思うが、大変なことになった。『チェリー貿易』の社員、井口君と秋山君、それに奥さんを現場に向かわせた。君はそちらから、現場に向かってくれ。警察からどんな関係かと聞かれたら、自分の名刺を出せ。そして、三好社長は中川憲造代議士の甥であると説明せよ。そうすれば、たとえヤバイ事があっても、時間を稼げる。松井田警察署に行ってくれ」

「はい、分かりました。では、直ちに現場に向かいます」

「東京では、三好社長の葬儀の準備をしなければならない。警察の調査が終わり次第、連絡をくれ。葬儀の準備はこちらでしておくから、遺体を東京に送る手配をしてくれ。頼んだぞ」

「はい。分かりました」

 船田は梅丘次郎の指示に従い、上杉和尚に『青雲寺』で待機するようお願いして、再びもと来た国道18号を群馬県方面へ向かった。何という事か。あの溌剌とした三好社長が、交通事故で死んでしまうなんて・・・。


         〇

 碓氷峠を下り、船田が松井田警察署を訪ねると、坂本巡査が応対に出た。『チェリー貿易』の社員と奥さんは、まだ到着していなかった。船田は事故の状況を坂本巡査に訊いた。坂本巡査の説明は意外と、あっさりしたものだった。

「あそこは急カーブで事故の多い場所なんです。年に2,3度、車ごと崖から落ちて死人が出るんです。いずれもスピードの出し過ぎです」

「対向車とぶつかって、崖から落ちたとかいうことはないのですか?」

「それは無いですね。破損した車に他の車の塗料など付着していませんでしたから」

「目撃者はいなかったのですか?」

「今日の午後、釣り人が発見したのが、初めてですから、多分、昨日か一昨日の夜に、事故ったのではないでしょうか」

「そうですか」

「何しろ、深夜のことだと思われますので、目撃者がいないんです。仏様にお会いになりますか?」

「いや。奥さんが、お見えになってからに致します」

 船田は何時、坂本巡査がダンボール箱のことを切り出して来るか心配だったが、警察側は、そのことに関して、何も言わなかった。何故だろう。船田は不安になった。ダンボール箱について質問を受けない事の方が不安だった。やがて三好社長の妻、香苗と、娘、理恵と『チェリー貿易』の井口と秋山がやって来た。坂本巡査は三好社長夫人たちに船田に話したと同様の説明をした。それから死者に面会することになった。坂本巡査と一緒にいた女性巡査が香苗夫人に訊いた。

「お嬢さんをお預かりしましょうか」

「大丈夫です。この子も一緒に」

「大丈夫ですか。かなり状態がひどいですよ」

「大丈夫です。この子の父親を見るのですから」

「それなら、こちらへ」

 船田たちは坂本巡査たちに案内され、死体安置場に行き、死者と面会した。間違いなく三好泰男社長だった。三好社長夫人、香苗は変わり果てた夫の死体に縋りついて泣いた。7歳の娘、理恵も、大声を上げて泣いた。母親の腰にしがみつき、大粒の涙を流す少女を見て、船田も泣きそうになった。こんなことになるなんて、考えてもみなかった。

「心配いりませんよ。私に任せて下さい」

 三好社長の最後の言葉が思い出された。あんなに元気に張り切っていた三好社長が、何故、こんな姿に・・。警察署の検視の結果は、交通事故による事故死と判定され、死因に犯罪性はないという。死体確認が終わってから、一同は警察の車で事故現場に案内された。三好社長が事故を起こした場所は左側に妙義山が聳え、右側に信越線が走る国道18号の急カーブだった。長野に向かう左下の谷間には碓氷川の清流が流れていた。坂本巡査たちは、その崖下まで案内してくれた。三好社長が乗っていたメルセデスベンツは国道18号のガードレールを乗り越え、崖下の碓氷川の岩場の上に落下して、ペシャンコになっていた。川岸から車に近づくと、運転座席は血に染まり、ウインドウやバックミラー、ライトカバー、ランプなどが破損し、四方八方にその破片が飛散し、車の天井が曲がり、ドアが外れ、見るも無残な姿だった。船田は半開きになったドアから後部座席やトランクの中に目をやったが、マスコットの子犬が、転がっているだけで、それ以外、荷物らしきものは何も見当たらなかった。となると、三好社長が所持していた物は、死体確認の折に、香苗夫人が受取った自動車免許証、万年筆、財布、キーホルダー、時計といった小物だけなのか?船田には理解出来なかった。あの夜のうちに『青雲寺』に運び届ける筈の2億円入りのダンボール箱は一体、何処へ消えてしまったのか?香苗夫人は警察の質問にこう答えた。

「主人は、父親の墓参りに出かけると言って、家を出ました」

 三好社長は家族にも社員にも、父親の眠る『青雲寺』に墓参りに出かけると言って出かけ、そこへ行き着く手前で運転事故を起こしてしまい、死亡した。何の不思議もない事故死である。しかし、船田には、それを納得することが出来なかった。事故現場を確認してから、一同は再び警察に戻り、三好泰男の亡骸を引取る段取りを済ませ、その日のうちに東京に戻った。


         〇

 数日後、『チェリー貿易』社長、三好泰男の葬儀は中野の『宝仙寺』で行われた。その葬儀には、中川憲造代議士はじめ、森山幹夫代議士など思わぬ大物が顔を出した。『勇早運輸』の早川勇雄社長、『伸栄通商』の時田伸夫社長などなど、如何に秋山社長が多くの人と交流があったか窺い知ることが出来た。船田は『チェリー貿易』の井口課長や秋山係長と一緒に受付を務めた。梅丘秘書は接客係として、『チェリー貿易』の岩井専務、小島常務、下田部長などと、あっちこっちの人に、挨拶をして回った。中川先生の地元選挙区からは、小林純次秘書、新井正彦秘書、『憲友会』の速水冴子、上杉了賢和尚、『原島建設』の社長御夫妻などが、告別式にやって来た。集まった連中は、三好社長の死を哀しむ遺族をよそに、式が始まるまで、勝手気ままに談笑していた。船田は残された三好社長の妻、香苗夫人や7歳になる少女、理恵が気の毒でならなかった。告別式が始まると、三好社長夫人親子の隣りには中川憲造代議士夫妻が神妙な面持ちで座った。三好家の親戚の人数は意外と少なかった。香苗夫人の実家の石川家側の人数の方が多かった。それにしても、『チェリー貿易』関係の弔問客は多かった。そんな弔問客の中に、銀座のクラブ『ガラシャ』のママ、細川幸子たちがいた。マスターの渡辺良太の他、晴美や愛子といったホステスたちもいた。三好社長の贔屓であった奈々の姿が見えないのが、船田には気になった。だが奈々も香織も昼間は会社勤めをしているので、いなくても、何の不思議はない。ゼネコン大手の『山手建設』の武井部長や『本間組』の風間部長、家永課長、『海洋建設』の小松部長、木村課長なども来てくれた。いずれもゴルフや麻雀で遊んだ仲間みたいな人たちだ。『勇早運輸』からは早川勇雄社長の他に、岩崎専務や塚田部長が見えていた。大手商社『三星物産』や『日輪商事』の部長たちの顔も、数人、見受けられた。その他、家電メーカー、セメント会社、不動産会社、私有鉄道会社、自動車販売会社などから弔問客が来ていた。三好泰男社長の社葬。それは彼の事業実績と交友の広さを証明し、予想以上に盛大な葬儀となった。三好泰男社長が中川憲造先生の陰の男として、梅丘次郎秘書と一緒になって、如何に努力奮闘して来たかを、船田はこの葬儀を通じて痛感した。そして、もしかすると、三好社長は、この葬儀に参列している連中のうちの誰かに殺されたのではないかという疑念を抱いた。その疑念は葬儀が終わってから船田の脳裏で急激に拡大増幅した。松井田警察署の坂本巡査は、スピードの出し過ぎによるハンドル操作ミスの転落事故死であると処理したが、船田には信じられぬ三好社長の交通事故死だった。三好社長は2億円を狙った誰かに殺されたのだ。


         〇

 三好社長の葬儀が終わった翌日、中川憲造先生や梅丘秘書と、消えた2億円について追及する打合せを行った。確かに妙だ。中川社長は確かに2億円を車に乗せて、夕方、『チェリー貿易』を出発している。人に気づかれぬように、夕方、出発したのがいけなかったようだ。おそらく2億円を狙った犯人は、暗がりの中での犯行を計画したのであろう。人目を引かない夜の犯行。それは何処で行われたのか。そんな推理をして、今後の対策を打合せして帰路につくと、ドッと疲れが出た。経堂のマンションの部屋に戻り、ネクタイを外し、ベットの上に背広を投げ出すと同時に、電話が鳴った。電話の主は『ガラシャ』のホステス、花井香織だった。

「香織です。先日は三好社長の葬儀に行けなくて申し訳ありませんでした。奈々ちゃんだけ欠席させるのでは奈々ちゃんが可哀想な気がして、私、奈々ちゃんに付合っちゃった」

「そうだったんだ」

「奈々ちゃんたら、三好社長が亡くなった事を訊いて、倒れてしまったの。相当、ショックだったらしいわ」

「それは、そうだろうな。好いていた男が交通事故で亡くなったのだから。しかし、ママたちと一緒に葬式には顔出し出来たんじゃあないの」

「それが、三好社長の奥様や娘さんの顔が見られないって言うの。ママやマスターの誘いを断って、ただ泣くばかり。仕方なく、私、今日まで、彼女の部屋にいたの。そして、今夜、お店、休んじゃったの。これから、そちらへ伺ってよろしいかしら?」

 船田は昼間の秘密会議で疲労していたが、香織の要望に応じた。船田と花井香織の付合いは、かれこれ3年になる。両者とも独身であるが、結婚のことは口にしない。ただの男と女の関係が続いている。相手を束縛しないことを考え、同棲をせず、会いたい時に会い、それ以外の時は他人。さっぱりしたといえば、さっぱりした不思議な関係と言えた。それにしても彼女の方から会いたいとは、珍しい事だった。30分ほどすると、香織はケーキを持ってやって来た。船田はキョトンとして香織に訊いた。

「どうしたの?こんな時にケーキなんて」

 すると香織は眉をひそめて言った。

「何よ、船田さん。奈々ちゃん、同様、相当、滅入っているみたいね。自分の誕生日、お忘れになったの」

 何ということか。船田の頭の中は、消えた2億円のことで、自分の誕生日を完全に忘れていた。頭の中が三好社長が交通事故で亡くなった事と、2億円が何処かへ消えてしまった事などで、満杯になり、精神的にも肉体的にも混乱していて、他の事は一切、受付けないまでに狂わされてしまっていた。船田は少し笑って照れ隠しした。

「ああ、そうだった。全然、忘れていた。三好社長が亡くなったショックで、相当に狂わされている。奈々ちゃんも俺と同様、ショックを受け、狂わされて、部屋から出られない程に落胆しているのか?」

「そうなの。奥様に申し訳ないと、ただ、そればかり。震えていたわ」

「奈々ちゃんが不倫を後悔しているってことか。彼女にもまだ純情さが残っていたんだ。それに較べ俺たちに純情は残っているのだろうか?」

 船田はそう言って、花井香織を抱き寄せた。サラサラとした長い香織の髪の手触りが心地良かった。この髪に顔をうずめて、眠りたかった。香織にキッスをすると、彼女は唇をかすかに開けて、舌を絡ませて来た。船田は香織の下半身が既に濡れているのではないかと想像し、すぐさま彼女をベットの上に押し倒し、スカートを捲り上げた。ストッキングを香織に外させ、パンティを剥ぎ取った。そして股間の谷間を覗くと、想像した通り、彼女の陰毛は既に露に濡れて、その下陰の小さな泉で密液が光っているのが見えた。船田は、その泉に、そっと口づけした。泉の淵を舐めてやると、香織は仰け反って、喜悦の声を上げた。

「いやっ、恥ずかしいから止めて」

「止めてどうする」

 船田は香織の喜悦の声に興奮し、泉の奥に人差し指を挿し入れ、その中を丹念に掻き回した。香織は船田の楽器でも奏でるような琴線の指の弾き方の心地良さに、酔い痴れ、その調べに合わせ身体をくねらせていたが、突然、陶酔の絶頂に達したらしく、船田の勃起した肉根に触れて叫んだ。

「これ以上、虐めないで。早く入れて・・」

 船田は慌てずズボンを脱ぎ棄て、パンツの中から己れの肉根を取り出すと、密液の溢れている愛の泉に、棒状のそれを突入させた。

「ああ、良いわ。香織、仕合せよ」

 たまらない快感が船田を襲った。何という快感であることか。この香織との快感は、他の女とでは喚起することの出来ない快感だった。狂おしい眩暈が2人を没入忘我の境地へと誘った。船田は溜まっていた愛欲の総てを彼女に注ぎ込んだ。香織は船田の愛を受けて満足すると、仰向けになって天井を見詰めて、船田に言った。

「あの日、奈々ちゃんは、三好社長と一緒でなかったのかしら・・・」

「何故?」

「あの日、お店、お休みしたの」

「奈々ちゃんが?」

 船田は三好社長と松本奈々が、今の自分たちと同様、絡み合っている姿を想像した。その想像を、すればする程、その想像は強烈な画像となって部屋の天井に浮遊した。絡み合う2人の傍には2億円のダンボール箱が置いてある。奈々に夢中になっている三好社長の背後に、大きな壺を持った黒い影が迫っている。ああっ、三好社長は誰かに殺されたのかも。いや、誰かに殺されたのだ。船田は、香織から奈々の様子を聞いて、三好社長が、何者かに殺されたと確信した。そんな船田の想像に気づかず、香織は、船田とのセックスに満足すると、しばらくベットで休息してから、バスルームに入り、身体を清め、バスルームから出て来て、衣服を身に着けた。それから、船田とバースディケーキを食べた。それから船田に言った。

「恋って、思うように行かないのね。奈々ちゃん、可哀想。三好社長の奥さんも可哀想・・・」

「奈々ちゃんも苦しんでいるだね」

「そうなの。とても辛いのに、彼女、一人で耐えているの」

「まあ、君が時間をかけて、慰めて、励ましてやるんだね」

「はい」

 香織は、紅茶を飲み、ケーキを食べ終えると、船田のマンションから自分の家に帰って行った。香織が帰ってから、船田はバスルームに入った。身体をすっきりさせ、バスルームから出て、パジャマに着替え、食卓テーブルの椅子に腰かけ、静かに物思いに耽った。それは恋人が立ち去った後の余韻を楽しんでいるかのようでもあり、何か瞑想しているようでもあった。テーブルの脇には、花井香織がプレゼントしてくれた『イブサンローラン』のネクタイケースの包みが置かれたままだ。


         〇

 梅丘次郎秘書と船田博行は、2億円が紛失し、まだその行方が分からないでいることを、中川憲造代議士に、恐る恐る報告した。中川代議士は、眉間に皺を寄せているが、三好社長の死が、選挙資金の2億円とかかわりがあると推量していて、秘書たちを叱責しなかった。中川代議士は2人の説明を聞いた後、ポツリと言った。

「泰男を誰が殺ったのだろう?」

 それを聞いて梅丘秘書が訊いた。

「先生も中川社長が、誰かに殺されたと、お思いですか」

「当り前だ。泰男が運転を誤る筈が無い。誰かが2億円を狙って、泰男を殺ったのだ。犯人を自分たちの手で見つけ出さねば。まさか、お前たちが犯人ということはないだろうな」

「冗談じゃあ無いですよ」

 梅丘秘書が、顔色を蒼白にして怒った。

「済まん、済まん。犯人は近場から探せと、小説か何かで読んだ記憶があるもんだから、つい心にも無いことを言ってしまった」

「でも先生の仰る通りかもしれません。軍資金搬送のことを知っているのは、数人です。我々の周辺にいる誰かに盗聴されたのかもしれません」

「犯人は結構、近くにいるのかもしれませんね」

 船田は中川憲造代議士の読みが当たっていると思った。船田は香織から聞いた三好社長の愛人、松本奈々のことが気になって仕方なかった。彼女は、2億円搬送のことを知つていたのだろうか。香織の奈々に関する言葉が思い出された。

「奥さんに申し訳ないと、ただ、そればかり。震えていたわ」

 香織の表現が真実なら、奈々が2億円強奪の犯人、あるいは、その一味ということも考えられる。しかし、現金輸送ルートを知っているのは、中川憲造先生、三好社長、上杉了賢和尚、速水冴子会長、梅丘秘書、船田の6人だけ。もしかして、上杉了賢和尚が犯人かも・・・。3人が、いろんな角度から犯人を推測している時、銀座のクラブ『ガラシャ』のママ、細川幸子から、突然、梅丘次郎秘書に電話がかかって来た。

「梅丘さん。大変なの。助けて」

「ママ、どうしたの?午前中から・・」

「うちの良ちゃんが殺されて、私、今、警察に呼ばれているの。これから取り調べを受けるの。目黒警察署に来て。お願い」

「分かった。先生に許可を得て、直ぐに行くから安心して待ってろ」

 梅丘秘書は、そう答えて電話を切ると、中川憲造に、渡辺良太が殺され、『ガラシャ』のママが、これから目黒警察で取り調べを受けることになっていると説明した。突然の連絡に、3人は緊張した。これは只事ではない。自分たちの馴染みのクラブ『ガラシャ』のマスター、渡辺良太が殺された。3人の脳裏に、『ガラシャ』のホステスの顔が浮かんだ。彼女の名は松本奈々。亡くなった三好泰男社長の女。渡辺良太の死は、三好社長や奈々と関係があるに違いなかった。否、奈々というより、2億円と関係あるに違いなかった。中川憲造が2人の秘書に向かって叫んだ。

「奈々を捕まえろ!」

 緊張が室内にみなぎった。梅丘秘書が中川先生の指示を仰いだ。

「目黒警察には、どう致しましょう。『ガラシャ』のママが困っております」

「目黒警察には梅丘君、君が行け。保証人が顔を出せば、調べは簡単に終わる。変な方向に話を持って行くなよ」

「分かっております」

「船田君は、奈々を捕まえろ。あくまでも秘密の行動だ。事件は自分たちで解決せねばならぬ」

「はっ、了解しました」

 中川憲造は梅丘秘書と船田に指示を与えると、自分は自宅に保管してある予備の選挙資金を、地元『憲友会』に届ける為、自ら地元に出向くと語った。それが一番、確実なのだ。他人を使って選挙資金を運ばせることは、選挙違反の嫌疑がかかった時、知らぬ存ぜぬで逃れやすいが、大金であるが故に、運び屋たちに悪い気持ちを起こさせやすい。3人は打合せが終わると、各人の目的に向かって散った。船田は直ぐに花井香織に電話を入れ、松本奈々を追跡した。奈々の住む月島のアパートの部屋を訪ねたが、もぬけの殻だった。その日の夜、船田は花井香織と一緒に、渡辺良太が殺された新聞記事を読んだ。

〈23日、午前2時過ぎ、目黒区中目黒のマンションに住む渡辺良太さんの自宅に、2人組の男が押し入り、渡辺さんを射殺し、逃走した。警察の調べによると、2人組は東南アジア系で、渡辺さんの自宅に押し入り、玄関前で、帰って来た渡辺さんともみ合いになり、拳銃を発射。渡辺さんは肩から背中にかけて、銃弾2発を受け、隣の人に助けられ、近くの病院に運ばれたが死亡した。2人組は金品を奪って白い車で逃走した。同警は強盗殺人事件として犯人の行方を追っている。渡辺さんは銀座のクラブに勤め、一人暮らし。現場は中目黒駅から東へ5分の住宅や商店が混在する地域で、人通りの多い場所〉

 その新聞記事にクラブ『ガラシャ』の名前は書かれてなかった。


         〇

 船田は花井香織を使って松本奈々の行方を追跡した。奈々が月島のアパートに戻って来るのではないかと、数日、様子を探ったが、彼女は月島に現れなかった。言うまでも無く銀座の『ガラシャ』にも姿を見せることは無かった。一体、何処へ姿を消したのだろう。奈々が行きそうな東京都内の所を駆け回り、あれやこれや調査したが、彼女の行方は杳として分からなかった。そのうち警察も彼女を追い始めた。警察が介入し、ことが面倒になって来たので、船田は中川代議士や梅丘秘書と相談し、松本奈々の追跡を中断した。そんな時、またもや地元婦人会の役員、原島洋子が東京に出て来ていると電話をかけて来た。

「船ちゃん。お元気。この前は有難う。先月、短大の同窓会に来た時、友人から個展の案内をいただいたの。それで今、東京に出て来ているの」

「そうですか。個展は、もう見られたのですか」

「それがまだなの。付き合って下さらない」

 そう頼まれては船田も断りようが無かった。一応、中川先生と梅丘秘書の了解を得て、彼女に付き合うことにした。東京駅の『銀の鈴』で待合せして、京橋で食事を済ませ、それから銀座線の電車に乗り、青山1丁目で下車し、画廊『松岡ギャラリー』に行った。出展女流画家、高山和子は、原島洋子に気づくと。駆け寄って来て挨拶した。

「まあっ、洋子さん、長野からわざわざ来てくれたのね」

「ええ、そうよ。貴女の作品、見たいから」

 洋子は、そう答えると、船田にウインクした。船田は洋子から預かっていたお菓子と花束を、女流画家に差し出した。

「これを、どうぞ」

「まあっ。有難う。こちら御主人様?」

「いいえ、私のツバメよ」

「ハンサムね。私、高山和子です」

「船田です」

「2人で、ゆっくり御覧になって行って下さい」

 それから原島洋子と高山和子は、あれやこれや昔話や世間話を始めた。船田は画廊に飾られた高山和子の作品を鑑賞して回り、その色彩の美しさに感激した。紅色や黄色、水色を巧みに駆使した光と空間の心象風景は、絵心の無い船田にも魅力的に感じられた。洋子は後から絵を見て回り、気に入った作品『新星』と『蒼穹』を予約した。そして高山和子にさよならすると、船田と、かって一緒に歩いたことのある青山の街を歩きたいと言った。船田は学生時代、恋人だった旧姓、小川洋子にせがまれ、青山の画廊から懐かしい神宮の森を歩くことにした。緑色の葉を付けた銀杏の枝々が、かっての恋人たちを覗き込むように、2人の上に乗り出して、長いトンネルを作っていた。寄り添い歩く原島洋子との散歩は小川洋子との青春時代を蘇らせ、ロマンチックだった。彼女のハイヒールの鳴る音が、急に止まった。青春時代の再現。『聖徳記念絵画館』近くでの黄昏の甘いキッス。2人は、それを味わってから、信濃町駅前でタクシーを拾い、新宿の歌舞伎町に向かった。洋子が今夜は新宿の歌舞伎町の夜を見たいと言い出したからだ。タクシーは信濃町から内藤町を経て、新宿通りを走り、新宿3丁目の『伊勢丹』手前で右折して、靖国通りを突っ切り、歌舞伎町の入口で停車した。タクシーを降りると、先程までいた神宮外苑と打って変わって、ネオンきらめき、人の波。妖しい極彩色のネオンの光の川の中を、歌舞伎町で遊ぶ老若男女が行き交う。なんという夜の雑踏か。そんな人混みの中、船田は洋子の手を引き、洋子を食事処『花ふさ』に連れて行った。ここの店は和服姿の小西英子ママが作ってくれる京都風おでんが美味しい。そのおでんをいただきながら、船田と洋子は日本酒を飲んだ。酒が入ると女性はお喋りになる。彼女は相変わらず、思いつくまま、いろんなことを話した。女流画家、高山和子の離婚した旦那のこと、義父、原島信雄会長の2号のこと、夫、原島征彦の浮気、外国人労働者採用のこと、パラジウムの先物取引のこと、ハワイ旅行のこと、ゴルフ競技の面白さなどなど。その多弁さには流石の英子ママも呆れる程だった。そのゴルフ競技の話の時、船田は洋子から意外な事を聞いた。

「そうそう。そういえば、この間、軽井沢のゴルフ場で、思いがけない人に会ったわ」

「思いがけない人って、誰?」

「貴男に連れて行ってもらった銀座のクラブ『ガラシャ』の女の子よ」

「えっ、『ガラシャ』の誰だろう」

「キュートで可愛いショートカットの女の子よ」

 キュートで可愛いショートカットの女の子。船田は目を丸くした。それは、花井香織と一緒に今も探し回っている松本奈々のことではないか。何で松本奈々が軽井沢のゴルフ場などに?船田は洋子のお猪口に酒を注いで訊いた。

「その女は、軽井沢のゴルフ場で、キャディーをしているのか?」

 船田が真剣な顔で訊くと、洋子は、ちょっと笑った。

「キャディーじゃあ無いわよ。プレィに来ていたのよ。それも驚き。そのパートナーが白井冬樹と鬼高夫妻なの」

「白井冬樹と鬼高夫妻?」

「そうなの。彼らはつるんで、また何か計画しているみたい」

「奥様は、そのパートナーたちと親しいのですか?」

「親しくはないけど、仕事上の顔見知りよ。白井冬樹には会ったことあるでしょう」

「そう言えば、聞いたことのある名前です」

「白井冬樹は『憲友会』の速水会長の実弟。鬼高亮平は興行師、『鬼高組』の社長で、県内のあちこちでレストランや風俗店、パチンコ店、石材造園店、葬儀社、中古車販売店など、いろんな事業を手掛けているわ。いってみれば『鬼高組』の親分よ」

「そうですか。そんな人たちと彼女が・・」

 船田は洋子からの話を聞いて唖然とした。あの『ガラシャ』のホステス、松本奈々が、『憲友会』の速水冴子の弟と繋がっていようとは。何という驚嘆する情報であることか。本当に松本奈々が軽井沢にいたのか。

「人違いじゃあないですか?」

「間違いないわ。今から、あの銀座のクラブに行って本人に確かめてみる?」

「それは無駄です。彼女は店を辞めてしまいました。あの店にはいません」

「そう、残念だわ。私の目に狂いはないわ。ところで、船ちゃん、今度の選挙、大丈夫?」

「大丈夫でなければ困ります。でも油断は出来ません」

 話題は6月末の衆議院議員選挙の件に移った。中川憲造代議士の秘書である船田にとって、これからやって来る選挙戦は、今までになく厳しい状況であることは、充分に理解していた。その為に地元秘書の小林純次が、どれだけ苦労していることか。また自分たちも洋子のように上京して来た地元の名士に、どれだけ気を使っていることか。船田は洋子に中川憲造代議士の応援を頼んだ。

「今度の選挙に、東京の大学教授が野党の推薦で、立候補すると聞いております。相当に弁の立つ人物らしく、安心出来ません。そんな状況ですので、『原島建設』の会長様たちのご協力と、奥様のご協力に期待しております。何卒、よろしくお願いします」

「仕方ないわね。船ちゃんに頼まれては」

「はい。よろしくお願いします」

 そう、お願いすると、原島社長夫人は船田の耳元に、口を寄せて、小さな声で言った。

「その代わり、今夜はエンドレスよ」

「奥様となら、何時間でも・・・」

 船田は彼女の耳元に口を寄せて、そっと囁き返した。選挙の話が終わり、お茶漬けをいただくと、船田は英子ママに声をかけ、『花房』の精算を済ませた。『花ふさ』を出てから、船田が『赤坂プリンスホテル』に洋子夫人を連れて行こうとすると、彼女が我侭を言った。

「私、直ぐに帰りたくない。歌舞伎町で休憩したいわ」

 船田は仕方なく、洋子夫人を連れて、近くのホテル『マリアン』に急行した。


         〇

 船田は『原島建設』の社長夫人、原島洋子の情報から、2億円強奪事件に、『憲友会』の速水冴子の弟、白井冬樹が絡んでいると推測した。何としても東京から消えた松本奈々を捕まえ、事件の真相を確認せねばならないと思った。船田は梅丘秘書に奈々の探索に、数日間、東京を離れる了解を取り、車で長野に向かった。そして上田で暮らす白井冬樹の自宅などを探し当て、数日間、彼を偵察した。彼はサウナの他、ボウリング場、ゴルフ練習場を見て回るのが仕事で、その行動に何も不審に思われるところは無かった。夜には、きちんと自宅に帰り、妻や子供たち家族と、楽しいそうに過ごしていた。『鬼高興業』や『憲友会』との接触もほとんど無く、怪しい動きは何も無かった。そんな風なので、船田はいたずらに白井冬樹の偵察を続ける訳にもいかず、梅丘秘書の了解を得て、一旦、東京の事務所に戻ることにした。その帰り、原島洋子が松本奈々を見かけたという軽井沢のゴルフ場に立寄ってみた。だが、松本奈々の手掛かりになるものは何も無かった。船田は落胆し、軽井沢の喫茶店『白樺茶房』に入った。北原白秋の詩を思い出させるような洋館風の喫茶店だった。船田はマントルピース近くの席に座り、ブルーマウンテンを注文した。小窓から流れ込んで来る高原の風は爽やかだった。船田はウエイトレスの少女が運んで来たブルーマウンテンの香りを楽しみながら、なんとなくはっきりしない、取り留めのない思いに耽った。船田は、そんな自分と同じように、庭側の窓辺の席で煙草をふかしながら物思いに耽る女性を目にした。その吐き出した青い煙草の煙がとても幻想的だった。その幻想の漂う中で、船田は自分の目を疑った。何と、その幻想的な煙草をふかす女性は、自分が、ここ数日間、追い求め、探し続けて来た松本奈々ではないか。船田は直ぐに席を立ち、明るい窓辺に行って、彼女に声をかけた。

「何処かで見たことのある人だと思ったら、奈々ちゃんじゃあないか」

「まあっ、船田さん、どうしてここへ?」

「中川先生の地元からの帰り。そういう奈々ちゃんこそ、何で軽井沢に?」

「私、軽井沢に引っ越したの」

 彼女は平然と答えた。一体、どうなっているのか。月島のアパートから、軽井沢に引っ越したという事か。また、何で軽井沢なのか。船田は、その理由を訊いた。

「奈々ちゃんの出身地、厚木だろう。なのに何故、軽井沢なの?」

「厚木は私の帰る所では無いわ。船田さん、知っているでしょう。私が三好社長の彼女だったこと」

「まあな」

「私、私を可愛がってくれた三好社長の事が忘れられないの。だから、三好社長の亡くなった場所に近い所に住むことにしたの」

「三好社長の亡くなった場所は、群馬県の松井田だぞ。何故、松井田近辺にしなかったの」

「あの辺りはマンションもアパートも無い所よ。それに仕事先も無いわ。だから軽井沢にしたの。今、貸別荘に住んでいるの」

「そうなんだ。なら突然、姿を消したりしないで、梅丘さんか私に相談してくれれば良かったのに。軽井沢には三好社長の別荘だってあるのだから」

「亡くなった人の別荘なんて使えないわ。第一、香苗さんが許す筈が無いでしょう」

「それも、そうだな」

 船田は、そう返事すると、ずうずうしく奈々の座るテーブル席の椅子に座った。その2人の様子を見ていたウエイトレスが、気を利かせて、船田のいたテーブルの飲み物とボストンバックを移動してくれた。船田はウエイトレスに礼を言ってから、奈々に訊いた。

「これから、ここで誰かとデートするの?」

「そんな気分になれないわ。私は天涯孤独。三好社長を失って、悲嘆慟哭の毎日を送っているの。引っ越して直ぐなのに、デートの相手なんて、いる筈、無いなでしょ」

「それは失言。それにしても軽井沢って緑が多く、素敵だね」

「そう。傷ついて落ち込んでいる私の気持ちを、風が運び去ってくれるの」

 奈々は、そう言って窓の外に目をやった。船田も窓の外を眺めた。軽井沢の若葉から青葉に変わり行く森の樹々が、高原の風と語らい太陽の光を受けて、時々、眩しく煌めいた。

「ところで、奈々ちやんの別荘って近いの?」

「愛宕山の手前よ」

「そう。行ってみたいな。どんな所か」

「いいわよ。歓迎するわ。ここのお店のケーキを買って行きましょう」

 奈々は船田の希望をすんなり聞き入れ、立ち上がった。奈々が入口に行って、ケーキを選び、船田がレジカウンターで精算し、喫茶店『白樺茶房』を出た。駐車場に停めてあった奈々の車は、ベンツだった。

「私の車について来て」

「うん。分かった」

 何故、奈々がベンツなどの高級外車を?船田の車は国産車。奈々の車が発信すると船田はクラウンに乗り、奈々の車の後を追った。


         〇

 松本奈々が暮らす貸別荘は喫茶店から、そんなに離れていなかった。愛宕山が間近に見える林の中の小さな異国風の別荘だった。白樺林の中の尖がった赤い屋根が印象的だった。白い柵で囲われた庭の駐車場に車を停め、奈々に案内され、広い玄関に入り、スリッパを履き、玄関の左側にある大きな食卓のある部屋に通された。船田はその部屋の椅子に座り、部屋に飾られた絵やマントルピースの上の飾り物などを、物珍しそうに眺めた。奈々は船田を別荘に案内して、浮き浮きした。船田は紅茶の準備を始めた奈々に質問した。

「私もこんな所に住んでみたいな。家賃、高いんだろう」

「5万円よ。安いでしょう。但し、5月から10月までの半年間は、家賃、2倍になるの」

「ほほう。がっちりしているんだね」

「だって有名な避暑地ですもの」

「でも1人暮らしには広すぎるんじゃあないの」

「そうなの。昔、画家がアトリエとして使っていた別荘だから、ちょっと広いの」

 奈々は『ガラシャ』のお客、船田と会って、元気を取り戻したみたいだ。船田は奈々を三好社長殺害の犯人と疑っている気配など、かけらも見せず、奈々と会話した。

「香織が心配していたぞ。奈々ちゃんが、いなくなってから、良ちゃんが、殺されたりして」

「テレビを観て、びっくりしたわ。良ちゃんを殺した犯人は拳銃を持った外国人ですってね」

「そうらしい。誰が、狙ったのだろう」

「マスター、外国人とも付き合っていたから、ヤバイ仕事、していたんじゃあないの。さあ、紅茶をどうぞ」

 奈々は船田に紅茶を出し『白樺茶房』のケーキを船田と一緒になって食べた。ケーキを食べながら、『ガラシャ』の幸子ママやホステス仲間の話をした。いろんな失敗談を思い出し、2人で笑った。船田は奈々が一緒にゴルフをしていたという白井冬樹について質問しようとしたが、この質問については、次回、会った時に質問することにした。兎に角、東京に戻らなければならない。船田はケーキを食べ終えると、奈々にお礼を言った。

「今日、偶然、出会えて、別荘まで見せてもらって楽しかったよ。奈々ちゃんが、元気なので安心した。香織にも、元気だったと伝えておくよ」

 船田が、そう言って立ち上がると奈々が突然、船田の手を掴んだ。

「船田さん。もう帰っちゃうの。まだまだ、お話ししたいことがあるの。今夜、ここに泊まって行かない?」

「残念だけど、今夜中に東京に戻らねばならんので、この次にさせてもらうよ」

「そう。でも、もう少しいて・・」

 奈々が何か思いつめたような真剣な眼差しで訴えた。船田は、そんな奈々の視線が怖かった。奈々がまだまだ、話したいこととは、何なのか。亡くなった三好社長の事か、殺された『ガラシャ』のマスターのことか、それとも消えた2億円のことか。なら、今少し、いてやろうか。船田は腹を決めた。

「じゃあ、夕方までいるよ」

「有難う。嬉しい。ケーキ、美味しかったわね」

「うん。美味しかった」

「ところで船田さんたち、これから選挙があるから、大変ね」

「うん。忙しくなる。地元の秘書たちと連携をとらなければならんので、ちょくちょく来ることになる」

「その時は、ここに寄ってね」

 奈々は、そう言うと、船田が飲んでいる紅茶のカップに紅茶を注ぐ為、接近した。紅茶が注がれるのを、黙って見詰めている船田に奈々が上から妖しい目をして、囁くように言った。

「船田さん。ケーキより、美味しい物、いただきたくない?」

「嬬恋村のイチゴかな」

「そうで無くて。分かるでしょう。目の前にあるもの」

 奈々は、そう言って紅茶を注ぎ終えると、ポットをテーブルの上に置き、細くて柔らかい手で船田の手を握った。船田は悩んだ。ここで、先日、亡くなった三好社長の愛人を抱くべきか否か。彼女を抱くことによって自分に利が有るのか無いのか。船田は迷った。据え膳食わぬは男の恥というが、どうすれば良いのか。船田は窓ガラスいっぱいに広がる夕景色を、眺めた。これからの事もある。ここは彼女の要求を受け入れて置こう。

「良いのか?」

「訊くまでも無いわ」

 それを聞くと、船田は積極的に行動した。船田は奈々を強く抱きしめ、キッスした。その後、彼女の寝室に行き、彼女の花柄のワンピースを剥ぎ取った。

「そんなに乱暴しないで・・」

 優しい愛撫を欲する奈々に、船田は厳しく対応した。三好社長を裏切ったに違いない三好社長の愛人を、メチャクチャにしてやりたかった。船田は愛のしずくを求める彼女の割れた花弁の奥を散々、弄繰り回し、彼女をのたうち回らせた。彼女の股間に顔を埋め、何かをしゃぶるように陰唇を舐め回した。奈々は蕩けながら甘ったるい声で言った。

「ああ、良いわ。まるで夢みたい」

「喜ぶのは、まだ早いよ。これから、もつと良い物を上げるから」

「ああ、船田さん。ありがとう。私、仕合せ」

 奈々は船田の頭を両脚で挟みながら少し泣いた。船田は奈々にだけ快楽を堪能されてはならないと、奈々の両脚を大きく広げ、ギンギンに勃起した自分の射出棒を彼女の花芯の奥に突入させた。それから、普段、香織としているように、緩やかな前後運動を繰り返し、奈々を切ない程に焦らした。

「ハマリ心地はどうですか?」

「いいわ。とっても、いい」

 船田は奈々に奉仕しながら、奈々の喘ぎ声に興奮した。彼女は船田以上に興奮し、船田の射出棒をこれ以上、入らない所まで納めて締め付けた。船田は、囁いた。

「奈々。愛しているよ」

「私もよ」

「前から君を抱いてみたいと夢見ていたんだ」

 船田は思いもよらぬことを口走った自分を不思議に思った。三好社長を裏切ったと思われる女への憎しみは、何処へ行ってしまったのか。船田に甘い言葉を囁かれた奈々は、どうしようもなく蕩けた。船田という男は明るい中にも鋭いところのある怜悧な男だ。テクニックも抜群。出来る事なら、彼を次の自分の味方にしたい。奈々は、そう希望した。

「ああ、船田さん。奈々、行きそうよ。発射して」

 船田は奈々の求めに興奮したが、絶頂を抑えた。奈々はその為、何度も絶頂に達した。そして仰け反りながら絶叫し、気を失い、ぐんなりとなった。船田は、そんな奈々に容赦なく時間差攻撃を加えて、射精した。船田は事が終わると、奈々から彼自身を抜き取って、恍惚に酔う奈々に言った。

「今日の事は、香織には内緒だぜ」

「分かっているわ」

「もう6時半だ、帰らねば。今日は素晴らしい1日だった。電話番号、教えてくれ。今度来た時、また会おう」

「楽しみにしているわ。船田さんの携帯電話の番号も教えて」

 奈々の要求に対して、船田は国会議員秘書の名刺に、自分の携帯電話番号を書き入れ、奈々に渡した。

「携帯の番号だけでなく、世田谷の住所も書いて」

「分かった。経堂のマンションの住所はここだ」

 船田は奈々に一旦渡した名刺に、経堂のマンションの住所を追記した。奈々は、自分の携帯電話番号と、別荘の住所をメモして船田に渡した。2人は暗くなった別荘の庭先で再会を約束するキッスをして別れた。船田は、別荘の庭に停めて置いたクラウンに乗り、軽井沢を後にした。船田は夜の18号を運転しながら、犯人の目途がつくまで、奈々と出会ったことは、誰にも言わないでおこうと、心に決めた。彼女が犯人であれば、彼女が何時か必ず、自分に告白してくれるに違いないと信じて・・・。


         〇

 船田が東京に戻ると、沢山の事務仕事が待っていた。『海洋建設』や『本間組』とのやりとり。中川代議士の国会での答弁案のまとめ。『チェリー貿易』の新社長との面談。支援企業の地元選挙事務所への応援要請。各省庁との連絡。梅丘秘書との打合せなどなど。次から次へとやらねばならぬ仕事が押し寄せて来た。そんな沢山の仕事を、船田は残業して処理し、今日も地下鉄銀座線の電車に乗って渋谷に出て、下北沢に行き、小田急線の経堂駅で下車した。それから経堂駅前の『千歳食堂』で外食した。そして経堂のマンションに帰り、マンション管理室近くにあるダイヤル式郵便ポストの中を確認した。するとチラシ類の他に珍しく船田宛の封書が入っていた。親展と書かれた厚い封書だった。差出人は何と数日前に会った松本奈々からの手紙ではないか。まさかラブレターかも。一瞬、期待したが、そんな甘い手紙では無かった。

《船田さん。この間は有難う。

優しくしていただいて、とても感謝しております。

船田さんが帰った翌日、東京から刑事さんが、2人、やって来ました。『ガラシャ』の渡辺マスターの事件のことで、訊きたいことがあるからって。

私は渡辺マスターが殺される前に、軽井沢に引っ越して来ているので、渡辺マスター殺人事件とは全く関係ないと話しました。刑事さんたちは、私を訪ねた後、不動産屋さんにも寄ったようです。彼らは私を怪しむ様子も無く帰って行ったそうです。でも彼らは執念深く犯人を追い求めるに違いありません。

船田さんも本当は私の事を調べに来たのでしょう。

なのに船田さんは私に優しく付合ってくれた。愛していると言ってくれた。あの日、船田さんが帰ってから、奈々は1人、泣きました。

私はいけない女です。

あの時、船田さんに三好社長の交通事故の総てを白状すべきでした。しかし、船田さんに愛され、結局、何も言い出せませんでした。

私は悪い女です。

私は『白井産業』の社長、白井冬樹の女です。

彼の東京の女です。

白井には三好社長同様、妻子がありますが、私は彼から抜け出すことが出来ません。女子高校生時代に、年上の彼に誘われ、処女を捧げ、身を任せてから彼に操られるまま、銀座で働いていたのです。

三好社長との交際も、彼の指示によるものです。

白井は中川憲造代議士を、とても恨んでいます。

理由は彼の姉、速水冴子が中川代議士に弄ばれて、姉の家庭が崩壊し、その挙句、姉の旦那、卓也さんが自殺したからです。

白井の姉はかってゴルフ場のキャデイさんで、旦那の卓也さんも同じゴルフ場の送迎バスの運転手でした。ところが不幸なことに彼の姉と中川代議士がゴルフ場で出会ってしまったのです。

中川代議士が地元にやって来て、地元後援会の人たちとゴルフを楽しんだ時、色やかで美人の白井の姉に目を付け、彼女を自分の地元選挙事務所の事務員にしてしまったのです。

彼女は中川代議士の選挙の時は、選挙カーに乗って、ウグイス嬢として、あちこち遊説の御伴をしました。その折、一緒に泊まることなどあって、中川代議士と親密な関係になってしまったのです。

2人の関係に気づいた彼女の旦那、卓也さんは悩み続け、ついにはビルの上から飛び降り自殺。とんでもない事になりました。

しかし中川代議士は知らん顔。

白井は義兄の前途を悲観しての自殺の原因を知り、激怒しました。親しかった義兄の復讐を姉に訴えました。しかし、姉は、現実を直視し、中川代議士に鞍替えしました。

白井の姉、速水冴子は、夫の死をきっかけに中川代議士と増々、固い結びつきになり、やがて『憲友会』の会長に収まりました。

弟の意見など、相手にしませんでした。

そこまでは良かったのです。

ところが中川代議士が、また別の女にちょっかいを出したのです。1人は地元の若き未亡人、鈴木郁代。もう1人は、船田さんも分かっている銀座の幸子ママ。

これには『憲友会』の速水会長も黙っていません。

弟、白井冬樹に命じ、地元の未亡人、鈴木郁代を甲府に追い払い、私を『ガラシャ』に密偵として送り込んだのです。幸子ママが中川代議士以外の男と浮気するのを探知する為です。

でも、幸子ママは浮気などせず、速水会長の期待通りには参りません。

速水会長の嫉妬はつのるばかり。

そんな時、選挙の裏金2億円の話が、中川代議士から速水会長にあったのです。

速水会長は中川代議士を困らせる為、その2億円強奪計画を弟、白井に指示しました。

そして2億円輸送中に狙われたのが三好社長。

私は親しくしていた三好社長を磯部温泉に誘う役目。私は三好社長と東京から出発して、長野に向かう、途中、磯部温泉で休憩。

その私たちが旅館から出て来たところを、『鬼高組』のヤクザ連中が三好社長を襲ったの。

それから国道18号の急カーブでの見せかけの交通事故死を実行。

私は東京に戻り、計画は成功しました。

しかし、悪い事は誰かに気づかれるものです。

渡辺マスターが、三好社長と私が出かけたのを目撃していて、私を脅して来ました。

私が渡辺マスターに脅されていることを、白井に話すと彼は直ぐに『鬼高組』の若い者を使い、マスターを殺害。

私は当分行方不明になる為、軽井沢へ・・。

でも、あの日、船田さんが、突然、私の目の前に。

数日後、刑事さんが2人。

私は刑事さんが帰った後、深く考えました。

もう逃げられない。私は観念しました。

あの日、船田さんは逃げられない私に対し、優しく、親しい友として、お付き合いして下さいました。私は船田さんに優しくされて、自分が悪い女であることを恥ずかしく思いました。

人間として失格だと思いました。

私は、この世にいてはならない存在であると気づきました。これ以上、善良な皆さんに、御迷惑をお掛けする訳には参りません。

私を愛してくれた三好社長の後を追って死にます。

2億円は速水冴子の大学生の息子の暮らしている東京のマンションに保管されています。

さようなら、船田さん。お仕合せに。

              松本奈々   》

 船田は長い手紙を読み終え、愕然とした。とんでもない奈々の別れの手紙だった。こんなに事細かに三好社長殺害の真相を書いて来たからには、彼女は死ぬ気でいるに違いない。何とか止める方法は無いだろうか。自分は、どうすれば良いのか。船田は悩んだ。それにしても、2億円を強奪したのが、『鬼高興業』の鬼高亮平社長と『憲友会』の速水冴子会長とは。また中川社長の愛人だった松本奈々が、速水姉弟の手先であったとは。船田は事件の真相を知つて、人間が信じられなくなった。船田は部屋の天井の一点を見詰めた。


         〇

 船田はしばらく考えてから、軽井沢の別荘にいる松本奈々に電話した。別荘の電話や携帯電話に何度、かけても、電話口に誰も出なかった。今から、あの軽井沢の貸別荘に行ってみようかと考えたりした。しかし、奈々が死んでいたらと考えると、怖くて、軽井沢に行く気になれなかった。船田は、あれやこれや考えた。梅丘秘書に相談すべきか黙考した。中川憲造先生には絶対、報告してはならないと思った。あれやこれや考えた挙句、船田は、秘密裏に事件を処理することを考えた。そこで船田は学生時代に親しかった右翼活動家の俺に相談して来た。2億円を取り戻せたら、俺に半分の1億円をくれるという約束をした。問題は、その2億円が何処に隠してあるかだった。俺は船田に確かめた。

「船田。お前は、その大金の隠し場所、分かっているのか?」

「ああ、分かっている」

「女は大事な物は自分の目の届く所に置いとくというが、そこは何処だ?」

「大学生の息子が暮らす、中野のマンションだ」

「ようし分かった。では、お前は女会長を東京に呼び出してくれ。マンションのオシコミと女会長のバラシを二手に別れて、同じ日の夜に同時決行するから」

「分かった」

 船田は俺の作戦に従い、『憲友会』の会長、速水冴子を東京に呼び出すことを画策した。彼女が中野のマンションから離れている隙に、俺の仲間が彼女の息子のマンションから、2億円を奪い取るという計画だった。ラッキーなことに5月21日、『本間組』の本社ビルの落成記念パーティが都内であり、そこに森山元農林大臣や中川憲造代議士が来賓として招かれており、梅丘秘書や船田も招待されることになっていた。そこで船田は大学時代のゼミの先輩である『本間組』の企画管理課の課長、家永友和に電話し、会場に花を添える為、『憲友会』の速水冴子会長も招待して欲しいと依頼した。家永課長は船田の要請を受け、本間栄吉会長と英明社長の承諾を得て、『憲友会』の速水冴子会長に招待状を送った。速水冴子は地元の選挙準備期間であったが、『剣友会』に支援してくれている大手ゼネコンの本社ビル落成記念パーティの招待状を受け取り、喜んで出席することにした。ここしばらく行っていない東京へ行けると思うと、彼女の心は躍った。この機会に、息子、哲也にも会える。冴子は東京の議員事務所にいる船田に電話した。

「船田君。『本間組』の本社ビル落成記念パーティの招待状をもらったわ。しばらく、そちらへ伺っていないので、そちらの事務所に立ち寄ったりして、パーティに出席しようと思うの。ホテルを予約して頂戴」

「哲也さんの所へ泊るのではないのですか?」

「哲也の所へは翌日、行くわ。だからホテルの予約して」

「かしこまりました。当日の会長のエレガントなファツションを楽しみにしております。ホテルの予約が出来ましたら、FAX致します」

「有難う。よろしくね」

 冴水会長が電話を切ると、船田は女子事務員、宮入安子にホテルを予約させた。そしてホテルが決まると、そのホテル名と住所、電話番号等をFAX用紙に記入し、速水冴子会長宛てに送信した。


         〇

 5月21日の『本間組』本社ビル落成記念パーティは盛大だった。そのビルは地上25階建て、地下2階の高層ビルで、地下2階から地上1階が店舗、2階が受付、3階が大会議室、4階から24階がオフィスフロア、25階が役員室とのことだった。船田は午後1時に梅丘秘書と一緒に『本間組』の新社屋に出かけた。2階の受付で記帳し、3階のパーティ会場に行くと、井上部長と家永課長が挨拶に来た。2人とは国体誘致の件で、何度も会談している間柄だった。『憲友会』の速水冴子会長が現れたのは、その後だった。受付で御祝儀袋を渡し、『憲友会』速水冴子の名前を記帳し、案内係の女性に花のついた名札を胸に付けてもらい、パーティ会場に入って来た。速水冴子の美しい水色のドレス姿は、男たちの目を引いた。沢山の人たちから見られているということ。それは冴子にとって、この上ない喜びだった。かってゴルフを一緒にしたことのある井上部長と家永課長が、冴子を見つけ、船田と一緒に彼女に走り寄った。富永課長が挨拶した。

「速水会長。遠い所をお越しいただき、誠に有難う御座います。中川先生は森山先生、太田先生、西村先生たちと一緒に、奥の席に座っておられます。御案内致しましょう」

「有難う」

 速水冴子会長は家永課長の案内に従い、落成記念パーティ会場の奥へと向かった。美女の前列の席への移動に男たちの視線が集まった。何という快感か。彼女を案内する家永課長も、多くの視線を浴び、照れながら前に案内した。紅白の幕の張られた会場奥の右側の席に座っていた中川憲造代議士が、速水会長を発見し、手を上げた。すると隣の席で中川代議士と話していた老人が立ち上がった。

「ようこそ、おいで下さいました。本間栄吉です。ここにお座り下さい」

 そう言って、彼女を迎えたのは、八十近い白髪の老人で、和服姿がお似合いの『本間組』の会長、本間栄吉だった。相手が本間会長だと知って、冴子は緊張した。

「初めまして。『憲友会』の速水冴子です。本日は誠にお目出とうございます」

「有難う御座います。念願叶い、本社ビルを構えることが出来ました」

「誠に堂々たる御立派な近代的高層ビルで、英明社長様はじめ社員様一同、お喜びのことでしょう」

 冴子が、そう言うと、本間会長は息子の英明社長を呼んだ。父親に呼ばれ、英明社長が席にやって来た。

「あっ、冴水会長。ようこそ、おいで下さいました」

「あっ、英明社長。何時もお世話になっております。その上、本日のお目出度い席にお招きいただき誠に有難う御座います」

 冴子は本間会長と本間社長に挨拶をした後、中川代議士の隣りの席に座らせてもらった。そんな冴子の所へ梅丘秘書も挨拶に行った。冴子は沢山の建設会社などの男社長や女社長たちに声をかけられ満足だった。式典は午後1時半、司会の案内でスタートした。まず本間会長が会社創業の話から、戦後の並々ならぬ苦心の積み重ねによって本社ビル落成に至った経緯と今後も御集りの皆様のお力添え、ご協力をお願いしたいと挨拶した。続いて英明社長が本社ビル建設の設計にあたった立案説明と社員に、一層の奮闘を望むと挨拶した。その後、森山幹夫代議士が『本間組』の本社ビル落成を祝う挨拶をした。それに続き、中川憲造代議士が乾杯の音頭を取った。出席した代議士たちは、あくまでも会長や社長の友人としての出席だった。それから井上部長から新社屋の詳細な説明が行われ、立食パーティとなった。若い美人のコンパニオンたちが、パーティ会場に接待役として加わり、会場は一層、華やかになった。パーティの途中で家永課長が、ビルの中を案内してくれた。4階から20階まではテナントで、自社で使うオフィスは21階から25階とのこと。上層部には会議室、役員室、休憩室、喫茶室などがあり、『本間組』の未来を創るにふさわしい場所だった。富永課長の説明によれば3階のパーティ会場は、明日から、接客フロアと喫茶ルームと食堂に使用されるという。ビル内を見せてもらってパーティ会場に戻ると、森山代議士と中川代議士、太田代議士、西村代議士の4名が帰る所だった。手を上げて立去ろうとする中川先生に速水冴子会長が訊いた。

「お帰りは、何時になりますか?」

「10時半過ぎかな」

「承知しました。では気を付けてお帰り下さい」

 冴子会長は、その後、森山代議士や他の先生方に深く頭を下げ、お見送りしてから、席に戻り、梅丘秘書や船田と少し飲んだ。


         〇

 パーティが終わってから3人は東京事務所に集まり、今後の選挙戦の進め方について討議した。『憲友会』の速水冴子会長は選挙区で敵対する鈴木陣営と塩沢陣営が、タレント歌手やスポーツ選手を使い、活動を始めていると説明した。また予定していた選挙資金が足りず、苦戦している状況を語った。そんな彼女の厚かましく悪びれる様子もない態度を目の当たりにして、船田は何て悪質な女かと思った。梅丘秘書は東京での選挙資金集めに四苦八苦している旨を、彼女に弁解したが、兎に角、足らないものは充足してもらわねば困るとというのが、彼女の申し出だった。それを受けて、梅丘秘書は船田の肩に手を置いて言った。

「船田君。もう一働き頑張ろう」

 船田は梅丘秘書に肩を軽く叩かれ、同意した。速水冴子は、東京事務所での打合せを済ませるや、六本木のブティツク『シュノン』を訪問し、友人の真弓恵子と雑談した。その後、最近流行のスラリとしたフォルムのスーツを試着し、それを購入した。それと同時に、紫色のシャネルスーツを注文した。それから真弓恵子と『瀬里奈』に行って、しゃぶしゃぶを食べながらの男論議。真弓恵子は2年前、通産省に勤める夫と離婚し、娘を引取り、苦労はしているというものの、結構、人生を明るく楽しんでいる。スポンサーが何人かいるようだ。何故か冴子と気が合う。冴子は真弓恵子に長野まで来てもらってゴルフをしたこともある。小諸、上田、軽井沢など、ロマンチックな所を案内したこともある。冴子が東京に来た時は銀座、新宿、赤坂などの有名店を案内してもらったりしている。2人で男を騙したこともあった。2人とも実に性格が似ていて、男と金に目が無かった。速水冴子に関する地元の噂は、国会議員の中川憲造が、ゴルフ場の美人キャディ、速水冴子を誘惑したことになっているが、真実は速水冴子が中川憲造をたぶらかしたのかも知れなかった。重いゴルフバックを担いで働いたキャディの貧乏生活から抜け出し、『憲友会』の会長になった今の贅沢三昧の生活は、速水冴子にとって最高だった。ちょっと寂しいのは夫、速水卓也を数年前に亡くしたことだった。彼女はその寂しさの穴埋めを、久しぶりに今夜、中川憲造にしてもらおうと、ルンルン気分だった。午後9時前、冴子はホストクラブに行こうという真弓恵子の誘いを断り、真弓由美子と別れた。赤坂のホテルにチエックインして、ホテルの部屋で中川憲造が来るのを待った。ところが当の中川憲造は『勇早運輸』の岩崎専務につかまり、まだ向島の料亭にいた。向島芸者との遊びに夢中になり、冴子の事など忘れてしまっていた。世田谷の自宅では奥方が心配して待っているし、もうホテルに立ち寄る時間など無かった。そんな事とは知らず、冴子は、憲造が現れるのを待った。


         〇

 俺は9時に船田から指示のあった赤坂のホテルにタクシーで乗り付けた。黒縁の眼鏡をかけ、黒いグラッドストン・バックを手にしてタクシーから降りると、ホテルのボーイたちにかまうことなくロビーを颯爽と進み、受付カウンターでチエックインした。氏名と住所をチェックインカードに記入し、ルーム・キイを受取り、部屋に向かった。何もすることも無くついて来たボーイが、俺からキイを受け取り、部屋のドアを開けてくれた。俺はそのボーイに千円札を1枚渡した。すると彼は礼儀正しく、頭を下げ、わずかに微笑み、立去って行った。俺は部屋の中から入口ドアをロックして、グラッドストン・バックを荷物机の上に置いた。それから窓辺に近づいてカーテンをめいっぱいに広げ、外を眺めた。東京の夜が流れる車のライトと街のネオンの光に妖しく輝いていた。俺は誰かに俺がこの部屋にいることを覗かれるのではないかと、窓のカーテンを直ぐに閉じた。その後、ネクタイを緩め、応接セットの椅子に深く腰を下ろし、胸のポケットからマールボロを1本取り出し、それに火を点けた。いよいよ仕事の始まりだ。俺は部屋の天井に向かって、煙草の煙を吹き上げた。藍色の煙が部屋の天井に広がった。何とも言えぬ気分だった。この一時が最高である。この時の為に数日間、いろんな想像を巡らせ、実行計画を練りに練って来た。1人で実行出来る仕事では無かった。5人の部下と速水冴子会長の息子、哲也を誘惑し、合鍵を作らせる女子高校生を採用した。失敗は許されない。万一、失敗でもしたら、自分の命が亡くなることを覚悟せねばならない。そう思うと俺の身体は身震いするほど緊張に包まれた。学生時代の親友、船田博行に半月程前に仕事の依頼を受けていたが、俺はとことん納得出来ないと行動に踏み切れない性格だったから、その為に、あらゆる調査を行った。その調査結果を基に、成功率が万全であることを確認して、今日の決行を決断した。兎に角、自分の命が大切。決行時や決行後の自分の命が安全でなければならない。たとえ1億円の仕事でも、自分の命と引き換えにする訳にはいかない。夜の9時半までには、まだ充分、時間があった。長野の速水冴子のマンションと中野の速水哲也のマンションには俺の部下が2組に別れ、押し込む準備をしているに違いない。俺は彼らと同様、必要な道具の準備にかかった。フルーツとワインを注文し、部下からの連絡を待った。部下の一人からの第一報は、速水冴子は、既に六本木から移動し、ホテルにチエックインし、708号にいるという知らせだった。俺は、その連絡を受け、再びマールボロに火を点け落ち着こうと心掛けたが落ち着くことが出来なかった。やがてフルーツとワインが運ばれて来た。部下の第二報告は長野からだった。

「物は1億六千万円しか見当たりませんでした。これから東京へ戻ります」

「よっしゃ」

 俺は報告を受け、ひとまず安心した。部下からの第三報は中野からだった。

「物は予想通り、息子の部屋にありました。そっくり、母親のスーツケースに入れてありました。予想通りのゲットです。羽田のホテルに行って待っています」

「ご苦労さん。羽田で会おう」

 俺は船田と約束した現金以上の3億六千万円の収穫を確認し、満足した。後は標的を消すだけだ。俺は煙草の火をもみ消して立上がり、椅子に掛けて置いた紺色の背広を身に着けると、708号室の偵察に出かけた。7階の辺りの構造を頭に完全に叩き込むと、再び部屋に戻り、黒いグラットストン・バックから、細紐とガムテープを取出し、それをズボンの後ろポケットに入れた。続いて白い手袋を取出し、ボーイのような恰好をして、テーブルの上のフルーツとワインと小皿とナイフとフォークをトレーに乗せ、部屋を出た。いよいよ決行である。


         〇

 中川冴子は赤坂のホテルの708号室でテレビを観ながら、余計な事を考えた。真弓恵子は今頃何をしているのかしらと。多分、彼女は新宿のホストクラブに行って、若い男の子たちと楽しんでいるのに違いない。そんな事を推測をしていると、部屋のドアがノックされた。このホテルで逢引することになっている中川憲造がやって来る時刻10時半には、まだ1時間も早い。銀座の『ガラシャ』、あるいは向島の料亭あたりから、赤坂に来るには30分程度、時間がかかる。どうしたのかしら。

「私のことが気になって、お客との飲み会を早く切り上げて来たのかしら」

 冴子は心を躍らせ、笑顔を作り部屋のドアを開けた。そこにはフルーツとワインを乗せたトレーを持った背の高い男が立っていた。彼は冴子に深く頭を下げて言った。

「中川先生の使いの者です。先生から御都合で、来られないとの伝言が御座いました。お詫びにフルーツとワインをお持ちしました」

「まあっ、何ですって」

「今夜は来られないと伝言するようにと・・」

「なんて失礼な。そんな物で許されると思って」

「重要な会議が出来まして、どうしても抜け出せないとかで・・・」

「分かったは、品物、テーブルの上に置いて行って」

「かしこまりました」

 俺はふくれっ面をした速水冴子の指示に従い、テーブルの上に、中川憲造からの届け物を置くと、一礼して立去る振りをした。すると冴子が部屋から去ろうとする俺に声をかけた。

「ちょっと待って」

「何か御用でしょうか?」

「貴男、誰?」

「中川先生の秘書、見習いの風間と申します」

「そう。なら聞くわ。先生は、こんなことで、私を騙せると思っているのかしら」

「大事な『憲友会』の速水会長を何故、先生が騙したりしましょう。大企業のトップとの内密の話が長引き、来られないのです」

 俺はカッとなっている冴子を宥めるべく、穏やかに優しく弁明した。その誠実な態度が冴子に気に入られたようだ。

「では、私はどうなるの?」

 冴子は不貞腐れ、ソフアからベットに移動し、その上に腰かけて、腕組みし、テーブルの所に突っ立っている俺を見詰めて、妖しく微笑した。

「私、退屈でたまらないの」

「申し訳ありません」

「貴男が悪いのではないわ。私の事、気遣ってくれて有難う。貴男の事、とても気に入ったわ」

「有難う御座います」

「こちらへ来て」

 俺は冴子の命令に従い、テーブルの前から彼女が腰かけるベットの前に行き、直立不動の恰好をした。彼女と真正面に向き合い、俺は緊張した。彼女は再び笑った。

「先生は、本当に大企業のトップたちと密談しているの?」

 冴子は大きく片足を上げ、足組みしながら言った。その為、俺の目に突然、彼女の黒いレースのパンティが飛び込んで来た。俺は唖然とした。俺が目にした黒いパンティの奥で、黒い茂みに覆われたザクロのような亀裂が、何かを求めて口を開けているように思われた。冴子は俺の手を握り、俺の手の上に、自分の手を重ねて訊いた。

「どう。見えた?興奮したかしら?」

「はい。男ですから」

「ねっ。お願い。私を抱いて。良いでしょう。私、貴男に抱かれたいの」

「駄目です。先生に見つかったら大変です」

「大丈夫よ。今夜、来られないのでしょう。私、貴男としたいの」

 彼女は俺が何の為に、この部屋に来たのかも知らず、俺をベットに誘った。俺は彼女の要望に従った。彼女の水色のドレスを脱がせて、クローゼットの中のハンガーに掛け、再びベットに戻り、白い手袋を外し、黒いレースのブラジャーとパンティを脱がせた。彼女はもう完全に、その気になっている。こうなったら仕方ない。俺は、自分のブレザーやズボンや下着を脱ぎ、真っ裸になり、彼女にキッスし、彼女と接吻し合った。そして右手で彼女の股間に手を伸ばした。そこは既にヌルヌルと濡れていた。俺はザクロのような亀裂を想像し、そこに人差し指を挿し込み、濡れてる花芯を愛撫した。彼女は俺の愛撫に仰け反り乱れ、俺の股間をまさぐった。俺は既に首をもたげている砲身を彼女に掴まれ興奮した。彼女の要望により、俺の砲身は伸び、硬直した。その熱気を帯びた硬さを彼女は直感し、更に興奮した。俺は彼女のザクロのように開いてしまっている部分をこねくり回した。彼女は、俺の愛技に歓喜し、その亀裂の奥から堰を切ったように密液を溢れ出させ、よがり声を上げた。

「ああ、いいわ。とっても」

 素直過ぎる。俺の愛技はそんなに上手なのだろうか。冴子は両手でシーツを鷲掴みにして、喜悦した。彼女は、更にそれ以上のものを欲して来た。今か今かと勃起して待機している俺の砲身を夢中で引っ張った。

「たまらないわ。早く入れて。早く!」

「では遠慮なく頂戴致します」

 俺は冴子の両脚を大きく広げ、正常位の形をとって、口を開いたザクロの花芯の奥へ、真正面から己の砲身を突入させた。

「ああ、いいっ・・」

 冴子は俺にしがみつき痙攣して叫んだ。今夜、抱かれる筈であった中川憲造より、ずっと若いエネルギッシュな俺に巡り合えたことは、彼女にとってラッキーだったに違いない。俺は優しく熱心にピストン運動を繰り返して上げた。その間、冴子は何度も絶頂に達した。

「風間君。私、もう駄目。死にそう・・・」

「私も貴女のような美人に巡り合えて最高です。なんて素晴らしい結合でしょう。お望みなら、私に抱かれて死んで下さい」

 俺は隠し持っていたガムテープをベットの上に脱ぎ捨てたズボンから、取り出すと、それで冴子の口と鼻を密封し、射精した。するた冴子は俺の腹の下で足をバタバタさせた。俺はそのまま冴子の上に腹這い、彼女が暴れ回るのを押さえつけた。何と仕合せな女であることか。男に射精されたまま死ねるなんて。本当に仕合せな女だ。彼女は俺に押さえつけられ、しばし抵抗したが、しばらくして息絶え、動かなくなった。彼女の顔色が蒼白になって行くのが心地良かった。総てが終わると、俺は下着を身に着け、ズボンを穿き、ブレザーを着て、身支度を整え、冴子の口からガムテープを剥がした。そして白い手袋をはめ、彼女のハンドバックの中から口紅を取り出すと、その美しい死に顔に口紅を丁寧に塗ってやった。708号室で一仕事終えた俺は、部屋の中の応接セットに腰を下ろし、胸ポケットからマールボロを取り出し、ダンヒルのライターで煙草に火を点けた。死体を眺めながら吸う煙草の味は何とも言えない味だった。藍色の煙が部屋の中に棚引いた。人の命などというものは呆気ないものだ。ほんの数分間で息絶えてしまうものだ。俺はマールボロを吸い終えると、その吸い口を携帯用吸い殻入れにしまい込み、先刻、持参したフルーツとワインとフォークとナイフ、小皿、トレーと自分の靴を布袋に詰め込み、スリッパを履いて、708号室から抜け出した。そして再び自分の部屋に戻り、マールボロに火を点け、瞑想に耽った。藍色の煙が部屋の中に充満した。旧友、船田から依頼された仕事は、明日を残して大方、終わった。そう思うと急に睡魔が襲って来た。俺はバスタブにゆったりと沈み、あれやこれや考え、身を清めると、バスタオルで身を包み、そのままベットへ行って横になった。俺に平和な時間がやって来た。睡眠は安息。睡眠は宝だ。俺は朝まで、ぐっすりと深い眠りに落ちた。


         〇

 その頃、梅丘秘書と船田は銀座のクラブ『ガラシャ』で酒を飲んでいた。2人は愛子と香織と露子を相手に、プロ野球の話に花を咲かせた。露子は新しマスター、小野高志と一緒に入って来たホステスで、『ガラシャ』にも慣れ、ベテランの如く振舞っていた。和服姿の幸子ママが2人の所へ来て済まなそうに喋った。

「良ちゃんの葬儀の時は大変、お世話になりました。三好社長さんの葬儀に続いての葬儀で、本当に御迷惑をお掛けしました。良ちゃんには身寄りが少なかったものですから、皆さんに参列いただいて、良ちゃん、仕合せだったと思います」

「良ちゃんは、お客さんに好かれていたから、あんなに、お客さんが集まってくれたのですよ」

 船田が、そう言うと梅丘秘書もそれに同調した。

「そうだな。先生も私たちも良ちゃんには大変、お世話になったからな」

 梅丘秘書と船田は何時も『ガラシャ』の入口、またはカウンターでニコニコしていた渡辺良太のことを思い出し、懐かしんだ。それから梅丘秘書が、その後の事件の調査状況がどうなっているかを幸子ママに訊いた。

「ところで、警察の調べは、どうなっているの。犯人は見つかったの?」

「それが、まだなのよ。東南アジア系の物取りらしいということだけ。警察も何の手がかりが得られないまま。日本の警察も情け無いわね」

「奈々ちゃんは見つかったの?

「奈々ちゃんも行方不明のまま、見つかっていないわ。警察も良ちゃんの死と奈々ちゃんの失踪が関係あるのではないかと、初め調べていたのだけれど、奈々ちゃん、東京にも横浜にはいないし、諦めたらしいわ。韓国あたりに行ったみたい」

 梅丘秘書の質問に幸子ママはスラスラと答えた。船田は軽井沢で会った松本奈々のことを思い出した。彼女は現在、この世に生息しているのだろうか。手紙に書いてよこした通り、三好泰男社長の後を追って、鬱蒼たる富士の樹海にでも行って死んでしまったのだろうか。それとも東京から、刑事たちが事件の真相を追って、軽井沢に来て調べていることを白井冬樹に話し、2人で外国へ高飛びしてしまったのだろうか。いずれにせよ、松本奈々は彼女本人が言う通り、この世にいてはならない存在なのかもしれなかった。現れない方が良い。船田は、そう思った。そうこうしているうちに11時になった。梅丘次郎秘書は何時ものように高木愛子と一緒に先に帰って行った。船田は少し居残って、11時半過ぎ花井香織と六本木に食事に出かけた。どうなったのだろうか、風間は。何故か今夜は誰かとずっと一緒にいたかった。1人になるのが怖かった。夜が明けるまで、誰かに傍にいて欲しかった。その相手として、香織は最高だった。2人はお似合いのカップルになって、六本木の夜を満喫した。

「マンションに帰らないの?」

「うん。そのうち、明け方になるだろうから」

 2人は六本木の店から店へ、明け方まで飲み歩いた。人生、成るように成れとばかりに・・・。


         〇

 5月22日の朝、俺は6時半に起床した。俺はホテル内が、大騒ぎになっているのではないかと想像していた。だが、ホテル内は全く静かだった。俺はチエックアウトの身繕いを済ませ、7時に2階のレストランで朝食バイキングを楽しんだ。まずオレンジジュースを飲み、スクランブルエッグとクロワッサンとスライスハムを食べ、フルーツをちょっとつまみ、最後にコーヒーを飲み、軽く朝食を済ませた。それから部屋に戻り、マールボロを一服。藍色の煙が部屋の中に広がるのが心地良かった。煙草を吸い終えるといよいよ出発。俺は化粧テーブルで自分の髪形を確認すると、黒縁の眼鏡をかけ、黒いグラットストンバックを手に部屋を出た。エレベーターで1階ロビーへ。チエックアウトカウンターはまだ混んでいなかった。俺はカウンターでルームキーを渡し、精算を済ませ、チエックアウトを終わらせると、ロビーを颯爽と進み、正面玄関でタクシーを拾った。行く先は羽田のエアーターミナル。東京タワーの脇を通り、品川、大森、蒲田、天空橋を経て、部下5人が待つ、空港内ホテルに行った。そこの1室で、俺は部下たちと仕事の成功を喜び合い、先ずは5人の取り分、1人1千万円、合計5千万円を渡した。それから四方に散らばる確認をした。長野のマンションを襲った2人はフィリピン、中野のマンションを襲った2人は香港、女子高校生を使ったり、速水冴子を尾行したりした1人は韓国、俺はタイへ。俺たちは分配会議を済ませると、準備出来た順にバラバラにホテルを出て、羽田空港出発ロビーに向かった。俺が空港ロビーに行くと、船田が眠そうな顔をして俺を待っていた。俺は3億6千万円のうち、部下に5千万円渡したことを説明し、自分の分、5千万円をいただいたと説明し、残りの金の入ったスーツケースを船田に渡した。すると船田が真剣な顔して言った。

「それじゃあ、申し訳ない。約束は1本だったのだから、1本渡すよ」

「良いんだ。良いんだ。部下の分を含めてだから」

「そんな訳にはいかないよ。こっちへ来い」

 船田は俺をトイレの脇に引っ張って、スーツケースを開け、中から雑誌に挟んだ札束5千万円を俺に渡した。律儀な奴だ。昔と変わっていない。

「ありがとう。じゃあ、戴くよ」

「ああ、お陰で、助かったよ」

「ハラハラしたけど、無事、仕事を完了出来た。安心して、旅行に行けるよ」

「本当にありがとう。お疲れ様でした。じゃあ、楽しんで行ってらっしゃい」

「じゃあ、またな」

 俺は船田とそこで別れた。それからJALカウンターに行き、荷物を預け、搭乗券を入手した。それから出国ゲートを潜り、出国手続きを済ませるとホッとした。そして10時半、バンコク行きJAL機に搭乗した。11時過ぎ離陸。やっと1人になり、清々しい気持ちになった。またタイに行けるのだ。俺を乗せた飛行機は、何もない青く晴れ渡った空を、タイのバンコクに向かって飛行を始めた。


         《 完 》



 



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