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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

胡蝶の夢

作者: 鮎喰夢

初めまして。

鮎喰夢あくいゆめと申します。

人生で初めて小説を書きました。

個人的な話にはなりますが、実は映画創作に興味がありその手の業界を目指していました。

調べていくうちに現場の大変さ、1から作る美しさを知り、私は自分の手で作るより私が書いたものが今現在仕事をしてくださっている皆さんのお仕事になればいいなと思い小説を書き始めました。

まだ書き始めたばかりですので、ご指導ご鞭撻のほどよろしくお願い致します。

 10年前から妙な夢を見る。

私の入学祝いをしてくれるお母さんらしき人。

顔は真っ白で、のっぺらぼうのように何もない。

そして、お母さんらしき人はずっと私の名前を呼んでいる。


‶桜、桜…。“


ピピピピピピピピピピピピピ……

 17歳、高校生になって1年と3ヵ月が経った。

ガチャッ 「桜、おはよう」

「お母さんおはよう。部屋まで来なくていいよ~」

いつまでたってもお母さんは勝手に部屋に入ってくる。

隠したいものはないけど、彼氏でも出来て部屋に来てたらどうするのだろう。


「お母さん、行ってくるね」


 私が5歳のころ、お母さんや私に暴力を振るってくる父親と離婚したお母さんは、ずっと片親で大切に育ててきてくれた。

それもあってか少し過保護気味。

「もう高校生なんだし、子離れしてくれてもいいのに…」

お母さんには感謝しかないけど、少し鬱陶しい気持ちもあった。


 「桜、おはよう」

学校の正門をくぐり靴を履き替えていると、少し後ろで声が掛かった。

「恭太おはよう!」

声の主は、クラス替えしてから話すようになった男の子。

気さくに話しかけてくれる恭太に、私は簡単に恋に落ちた。

「あそうだ。今日、ボランティアの日だよ。」

「うわ、それ今日だったか~」

ボランティアとは、学校のバスで近くの海まで行きゴミ拾いをするというもの。

炎天下の中、4時間もゴミを拾うというのは地獄だ。

でも私は好きな人と一緒に同じ時間を共有出来るから、楽しみだった。


 教室に入ると、1年の時から仲の良いザ・女の子という感じの美咲みさくが話しかけてきた。

「あ、来た!桜~聞いてよ!昨日また喧嘩になって、別れるとか言われたの!」

美咲には19歳の大学生彼氏がいる。

度々喧嘩しては別れる詐欺される。

「大丈夫だよ、すぐ仲直り出来るよ。」

そう言いながら自分の席につくと、美咲も前の席に腰を下ろした。

「もう!ちゃんと聞いてよ~。いいよね~桜は!」

「何が?」

「恭太のこと!仲良いから誰かに取られる心配ないし!」

「ちょっと!声大きいよ!」

「大丈夫だって。でもどこが好きなの?運動と勉強は出来るけど、肝心な顔が微妙じゃん!」

「失礼な!」

美咲は重度な面食い、本当に悪気はない。

良くも悪くも素直な子だから、一緒に居るのは楽なのだ。

恭太の良いところは私が知っている。

心の中でそう考えていると、チャイムが鳴り先生が入ってきた。


「今日は先週から話していたボランティア活動をします。各自持ち場から離れないように!」


 バスで20分の所にある海まで来て、1時間程活動した時だった。

「桜、ちょっとあっち行かない?」

「人に見られると恥ずかしいから」といい、看板に遊泳禁止と書かれた傍まで来た。

「どうしたの?先生がここ危ないって…」

「うん、少しだけ話があって」

それってもしかして…

「まだ話し始めて3ヵ月しか経ってないけど、俺ずっと桜が好きだった。だから…付き合って欲しいです。」

予感は当たり、人生で初めてできた好きな人が告白してくれた。

「私も恭太が好き…!よろしくお願いします。」

2人で喜び合い浮かれていた。

だから私たちは気付かなかったのだ。

美咲や先生叫び声、そして波の音に…。



‶桜、桜…。“

 目が覚めるとお母さんが顔を覗き込んでいた。

天井は真っ白で自分の部屋とは違い、周りは騒がしい。

ここはどこなのか、どうしてお母さんや周りの人は焦っているのか。

「…桜!聞こえてる!?あなた、波にのまれて半年も眠っていたのよ…」

そこでようやく、今の状況を理解した。

私たちはあの後、大きな波に足元を掬われ声を上げる暇なく海に引き摺り込まれた。

私が居なくなっていることに気付いた美咲が、先生に伝えて探しに来てくれていた。

そして、たまたま巡回に来ていた海上保安官が私たちを救出してくれたらしい。

「本当に無事で良かった。お母さん、桜が眠ってる間ずっと怖くて…」

「お母さんごめんなさい…。ねぇ…一緒に居た男の子は…?」

お母さんに聞くも、「男の子?」と分かっていない様子だった。

看護師さんに聞いても、誰も恭太の存在を知らなかった。

もしかしたら、別々の病院に運ばれたのかもしれない。


 検査とリハビリを終えて3週間後に退院出来た。

クラスに入ると、美咲が走って迎えに来てくれた。

「桜!大丈夫だった…?気付くの遅くなってごめん…」

「美咲大丈夫だよ、本当にありがとう。あ、ねぇ恭太は…」

「もうすぐ来ると思うよ!」

私は美咲の言葉に安心した。

この1ヵ月誰も恭太のことを知らなかったから。

生きて、ちゃんと学校に来ていることが分かり嬉しかった。

チャイムが鳴る直前に、恭太が教室に入ってきた。

休み時間になり、話しかけようとするも恭太はどこかに消えてしまう。


 放課後、足早に帰ろうとしている恭太に声を掛けた。

「恭太!」

「桜…」

「あの時私たち、付き合った後、波にのまれたって…」

「うん、桜が生きてて良かった。あんな所に呼び出してごめん。」

「ううん、これからちゃんと始めたい」

「そうだね」

恭太の対応に少し違和感を覚えたけど、恭太とまた話せた嬉しさからその違和感に目を瞑ってしまった。





ピピピピピピピピピピ…

 目が覚めてから2年が経った。

私たちは半年分の単位が足りなかったため、もう一度2年生をやり直し3年生になり卒業した。


私は大学生、恭太は社会人として同棲を始めた。


 大学の休み時間にデートの予定を立てて、休日に実行した。

まずは食器、服、家具等足りなかったものを買い足し、その帰りに2人で初めてのプリクラを撮った。

夏には公園でプチ花火をして、買ったスイカに塩をかけるかどうかで喧嘩した。

当たり前で、私たちにはかけがえの無い時間だった。

冬は借りてきたホラー映画を、家でまったり観るのが休日の楽しみだった。


 月日は順調に過ぎ、私は憧れだった広告代理店に就職した。

恭太は、新人の教育係を任される先輩になったらしい。

2人とも帰りが遅くなり、話す機会が減ってきた。


 そんな生活が2年程続き、私たちの記念日の日に話し合いをすることにした。

このまま会話もままならない生活で良いのか、今後私たちはどうするのか。

私たちは26歳、結婚はしてない。

つまり結婚か、別れるかの2択しか残っていない。

沈黙が続いた後、恭太が口を開いた。


「遅くなってごめん。桜、俺と結婚してください」

恭太はいつも、私が言葉に出来ないことを言葉にして伝えてくれる。

そういう所が初めて会った時から好きだった。

「恭太、大好き。よろしくお願いします」

お洒落なレストラン、キラキラ光る婚約指輪、プロポーズ。

今日が人生で一番幸せな日だと思う。


 3か月後、お互いの休日に婚姻届けを出しに行った。

「私たちこれからは夫婦だね!」

「そうだね、幸せになろう」


 更に1か月後、吐き気がして夜も眠れず、ご飯もまともに喉を通らない生活が続いた。

もしかしてと思い病院に受診すると、お腹の中に8週目になる赤ちゃんがいた。


 来月にはプロポーズ前に恭太が予約してくれていて、奇跡的に空きがあった結婚式が控えていた。

「私がプロポーズ断ってたらどうするつもりだったの?」というと、

「俺たちは死ぬときも一緒な気がするから、大丈夫な自信があった」

なんて、真っ直ぐな目で見つめたまま言ってくるものだから何も言えなくなった。


 つわり、定期健診、ギリギリまでの仕事。

あっという間に月日は過ぎ、結婚式前日になった。

それと同時に明日は私の誕生日も控えていた。


 私は1つ、恭太に聞いていないことがある。

「恭太、結婚式の会場はどこなの?」

俺が連れて行くから、と今日まで頑なに教えてくれなかった。

でも今日こそは聞きたい。

少しの沈黙の後、恭太は口を開いた。

「高校の近くにある、あの海だよ」

「え…?」

私たちは目を覚ましてから色々な所に出掛けたが、恭太が1か所だけ絶対に近付けさせてくれない場所があった。

それが、あの海だった。

今となってはあの時のことを、全く思い出せない。

どうして普通の挙式じゃなくて、あの場所を選んだのだろう。

でも、何故か聞いちゃだめだ、と思った。


 赤ちゃんを心配しながら恭太が運転する車に、2時間程揺られていると会場に着いた。

ただ、約束時間を過ぎてもカメラマンさんが来ない。


「ねぇ…遅れてるのかな」

「桜、ごめん。誰も来ないんだ。」

「どういうこと?結婚式じゃないの?」

「桜、もう大丈夫だよ。今まで幸せだった、夢を見させてくれてありがとう」

恭太が何に対してお礼を言っているのか、理解が出来ない。


ピッピッピッピッピッピ…


結婚式と聞かされてここに来たのに、誰もいない。

もう大丈夫の意味も、何1つ理解できない。


ピッピッピッピッピッピ…


この音はさっきから鳴っているけど、何?

聞きたいことがあるのに、音が大きくなっていって何も聞けない。


「桜、愛してる。ずっと桜を愛してる」


頭が痛い。気付かない内に潮の流れは激しくなっていた。


ザーーーーー、ザーーーーー。

ピッピッピッピッピッピ…


2つの音に邪魔されながら、必死に恭太の声に耳を傾けた。

「俺、ずっと待ってるから。桜なら大丈夫」


ザーーーーー、ザーーーーー。

ピッピッピッピッピッピ…


立っているのも限界になり、私はその場に倒れ込んだ。

視界は真っ暗になり、意識が朦朧としてきた。

最後に聞こえた声は…


「桜目を覚まして。生きて…」


恭太……。





‶桜、桜…。“

 目を開けるとお母さんが、泣きながら私のことを呼び続けていた。

お母さん…、声を出そうとしても

ヒュッという声にならない声しか出ない。

「看護師さん!娘が目を覚ましました…!」

「先生呼んで来ます!」

先生やお母さんが、何かを喋っているけど何も耳に入ってこなかった。

唯一聞き取れたのは、

「桜、あなた波にのまれて、10年間も昏睡状態だったのよ…」


10年…?

確か私は半年で目を覚まして、同じような会話をしたはず。

1ヵ月後には学校に行って美咲や恭太と会って…。

全部夢だったってこと?

どこからが現実だったんだっけ…

恭太は?今の私はどうなっているの?…赤ちゃんは?


ピッピッピ…ピーーーーーー

え、なに、


「先生!菅生恭太さん、心肺停止状態です!」


 横に顔を向けると、カーテンの閉まっていない隣のベッドが見えた。

そこにはさっきまで一緒に居た恭太が横になっていて、

ピーーーーという音がひたすら鳴り響いていた。

先生が心臓マッサージをしても止まることはなく、やがて完全に音が止まる。


 少しの沈黙の後、先生はゆっくりと口を開いた。

「菅生恭太さん、7月26日16時13分死亡が確認されました」


「あの子…桜と同じ場所で波にのまれて、桜と一緒に10年間昏睡状態だったの…」

私はお母さんの言葉を聞いて、恭太を見て、涙が止まらなかった。


 この10年間私は夢を見ていた。

いや、恭太が夢を見させてくれた。

波にのまれて、私たちはいつ舞ってもおかしくない状況だった。

目が覚めたら恭太としたいことが沢山あった。

それを恭太は、夢の中で叶えてくれたんだね。

ショッピング、プリクラ、花火、映画、仕事、結婚、妊娠。

全部今はまだ覚えている。

「夢はいつか完全に忘れる」と誰かは言ったけれど、私は永遠に覚えているでしょう。

私たちが2人とも目を覚まさない可能性、片方だけが目を覚ます可能性。

だから私に夢を見せてくれたんだね。

ありがとう、恭太…。





 月日が経ち、私は32歳になった。

恭太が先に舞ってから5年が経った。

美咲は当時付き合っていた彼氏と結婚したらしい。

お腹に赤ちゃんが居ることを伝えられた時はびっくりしたけれど、心の底からお祝いした。

私は1年程のリハビリを乗り越え、ようやく文字を書けるようになった。

恭太とのことをより鮮明に覚えていられるように、私は日記を書いた。

忘れないように、無かったことにならないように。


 リハビリをしている期間に行われた、恭太の葬儀には出られなかった。

最後に見たのは、目を閉じている恭太の横顔。

最後に聞いたのは、愛を伝えてくれた恭太の言葉。

やっと会えた私の前に居るのは、姿の見えない恭太。


 私は恭太のお墓の前で手を合わせながら話しかけた。

「ねぇ、恭太。楽しかったね。長い時間2人で色々なことして過ごしたね。」

「助けてくれてありがとう、ずっと好きでいてくれてありがとう」

「プロポーズも嬉しかった。また会ったら、もう1度してくれる?」

「約束したよね、ずっと待ってるって。会えるの楽しみにしてるね」

「本当に、心の底から恭太のこと愛してます。」


 私は目を開けて、空を見上げた。



「これは胡蝶の夢?」



END


胡蝶の夢をお読みいただきありがとうございます。

私にとって人生で初めての小説とのこともあり、拙い文章ではありますが最後までお読みいただけたこと大変嬉しく思います。

胡蝶のこちょうのゆめというものを簡単にご説明していこうと思います。


中国戦国時代の思想家に荘子という方がいました。

荘子はある日自分が胡蝶になる夢を見たそうです。

夢の中で胡蝶になり、花から花へ飛び回っていましたが、目が覚めると自分はもう胡蝶ではなくなっていました。夢から覚めてみると夢の中で自分が胡蝶になっていたのか、胡蝶が自分になっていたのか区別がつかなくなった。という逸話から「胡蝶の夢」というものが来ています。

また胡蝶の夢には「夢か現実か曖昧、はっきりしないさま」「人生の儚さ」の意味もあります。


そのことを前頭に置きながら私はこの話を書きました。

どうか、1人でも多くの方の目に留まることを願っています。

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― 新着の感想 ―
[一言] 映画の創作を考えられていたとのことですから おそらく物語を紡がれる際にも 情景が映像として浮かばれているのではないか と想像します。 その為だと思われますが 最初の3行から 4行目への場面…
[良い点]  胡蝶の夢、初めて知りました。面白いですね。   [一言]  小段落をあけていただくとさらに読みやすくなると思います。しかし、文書自体は最後まで違和感なく読めたのでとても書く力があるのだと…
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