転生したらラスボスでした~潔く散ろうと覚悟をきめたら男主人公の兄が王太子の婚約者と宮廷魔導士(女主人公の師)をつれて離反してきた はい????~
荒削り、改編するかも
お暇なときにお読みくださればうれしいです
「と、いうわけなんだ」
「そうですかそれはよかってなにひとつわかりませんわお兄様!!!!!!」
目の前の状況がなにひとつわからず錯乱する私を尻目にこの混乱を作り出した元凶は涼やかに微笑み隣に座る深い夜の色の髪と瞳を持つ美女と手を絡める。ほんのりと上気したその芙蓉のごとき乙女は何を隠そうつい先日まで王太子の婚約者であったネーレイス・フォン・ウルハンド公爵令嬢。
そしてそんな天上の美姫をあろうことか掠め取った狼藉者が私の兄、ドリュアス―姓はない。
「これには天より高く冥界より深い事情があるんですよシャナ嬢」
「どんな事情があらせられたらこのような辺境のさらに奥まった秘境に公爵家の姫君が来られるというのですかアーウィン様!!」
にこり、と微笑みながらおそれ多くも私の肩に手を置く薄荷色の髪に銀の瞳の玲瓏なる美丈夫はアーウィン・アルフレッド・ホーフ、先の戦争で英雄と名高い宮廷魔導士、元である。
「…わたくしからお話しさせていただきます」
先程まで兄と見つめあっていたネーレイス様はその鈴のような声を固く強ばらせ眼を伏せながら経緯を話し始めた。
―ことの発端は国王陛下からの勅命。辺境のとある地にて魔王復活の予知あり、故に我が国のもっとも強き者達を集め魔王を討伐せよ、そしてその命により集まったのがかつて魔王を討ち滅ぼした巫女の子孫であり、聖剣の使い手の王太子、聖女として神殿に選ばれたネーレイス様、魔導の父にして英雄【仙海】のアーウィン様、そしてその弟子にして最後の純血の魔女ミーナと若くして剣聖と呼ばれる我が兄、ドリュアス。
短くとも濃密な旅の中、最初は身分や価値観の隔たりに悩む5人であったが少しずつ垣根を乗り越え、結束を固めていたある日、事件は起こった。
「おっ、王太子殿下が、ミーナさんと、恋仲に…??」
「…その通りです、それを責めたわたくしとドリュアスを殿下は…」
曰く、おまえ達もそういう関係だろと逆ギレしたという。当時の二人はそんな関係にはなっておらず、友人、仲間として接していた。流石にまずいとアーウィン様がとめにはいったものの虚しく…
「『魔王を倒すには聖剣があればいい!!文句があるのならばこのパーティーから出ていけ!!』と悪し様に言われてしまいましてねぇ、いくら身分が関係ない旅路の途中とはいえ一国の王太子、旅が終われば戴冠なさる身…我らなど指先ひとつで消せるというもの」
「そんな奴のために命張るなんてやってけない、本人が聖剣さえあればいいっていってるんだから抜けてきた」
「ちょっ勅命は」
「どっちにしろ最期はギロチン、なら自分に正直に生きたい、…簡単には死なないさ、それに、」
はんっと鼻で嗤って兄はネーレイス様を見る。その顔は今までみたことない程に穏やかで、そして甘い。
「お陰で自分の本当の気持ちに気がつけた」
「ドリュアス…」
みてられない、あまりにみてられなくて眼を背ける。…アーウィン様と目が合い、そらした。
「…さて、我らの事情は話しましたよ、シャナ嬢…いえ、」
魔王陛下?
「…まだ、魔王は、父です」
つぅ、と、冷や汗が背中を伝ったのを感じながら微笑む、今、うまく笑えているだろうか。
もう、記憶もおぼろげだが私、シャナには前世の記憶がある。記憶があるといっても前世の名も性別も嗜好も覚えていない、ただひとつを除いて。
そのただひとつとはこの世界が、とあるPCゲームに酷似していることだけ。確か『天と地を繋ぐ時』だったか。
そのゲームはあまりヒットしてはいなかったものの、かなり細かく作り上げられておりRPGマニアの間では高評価を得ていた…と、思う。このゲームの売りは操れるキャラクター同士を性別種族問わず好きなようにくっつけることができ、そしてその結果生まれた子によって歴史が紡がれる。
まさに自分だけの物語。自分だけの世界。神の視点で愛でることができる…のは、いいものの、当然ゲームであるからには終わるときが来る。
そんな中終わらせるためだけに作られたキャラクターが私、シャナ。ラスボスである。
この世界、かつては人と神、そして魔族―【精霊】によってそれぞれがそれぞれの領分を侵さぬよう慎ましやかに暮らしていた。それをなにを思ったのか神が破り、天上から地上へと侵略をはじめる。そして人と精霊が手を組み長い戦いの末、神の一人が人と、精霊と人とが交わることにより争いは終わりを告げた。
いこう平和だったものの今度は精霊の持つ魔法を得ようと人が精霊を襲うようになり、精霊も生きるため人と争うようになった。その結果人は精霊を隷属させ、魔法を使えるようになり…その支配から逃れた精霊は魔族と呼ばれ、殺されるようになった。
その精霊たちの王が魔王であり、私や兄はその魔王の子供であると同時に―神の子供である。
両親の馴れ初めは割愛するとして、ラスボスのシャナはそれはもう強かった。精霊達の怒り、そして絶望を一心に背負い神も人をも全てを焼き付くさんとその身を燃やし…魔神、とまで呼ばれる域に至っていた。
そんな妹を止めようとする兄、ドリュアスとその一行により最期は倒された…というのが結末。
幼少期は死にたくないと泣いたこともあったけどもここまで来たら最後一発輝いてみてみようと覚悟をきめた矢先に、この事態だ。
「正直、おまえに頼るのはちょっと賭けだったんだが…俺が魔族ってばれちゃったからここしか逃げ先がなくてな…」
「お兄様、だからといって父上が魔王だとなんでばらしたんです」
「生き残るためだ」
大きくため息をつく。次期魔王として、ラスボスとして決断せねばならない。兄たちを見捨てるか、否か。でも、
チラリと、目を戻す。緊張しているのか顔の白いネーレイス様と、いつでも剣を抜けるように片手をかける兄。そして、自分の肩を震えながらも押さえ続けるアーウィン様。目を、伏せる。
「…わかりました。次期魔王として、一人の妹として、兄とその恋人、そして友人の庇護をお約束します。」
どちらにせよ新たに編成された魔王討伐隊を迎え撃つのは変わらない。寧ろ戦力が増えたのは喜ばしいことだ。
長き争いでもはや生き残りの魔族は自分と父、そして兄のみ。ならばこそ。
「最後にひとはな、咲かせて見せましょう、皆で。」
きっと、想像してた最期よりはマシなはずだから。
―私は、まだ、しらない。
聖剣の担い手が王太子ではなく兄へと渡ったことを。
そのせいで、王太子は聖剣を扱えないただの人へと戻ったことを。
―私はまだ、しらない。
魔王討伐隊を倒した私たちの前に、多くの路が切り開かれることを。
―私はまだしらない。
アーウィン様が私に求婚してきてくることも、それをうけいれることも。…幸せになれることを。
―私達はまだしらない。