#088 会談? ゼフィルス君とムファサ生産隊長の挨拶!
「失礼する」
ギルド部屋の扉を開き、ムファサ隊長が先頭で入室すると、続いて私、チエ先輩と続きます。
ギルド部屋は、いつものぬいぐるみたちが片付けられ、備え付けのテーブルには白のクロスが敷いてあり、ちょっと見た目が良くなっていました。
〈生徒会〉が訪問するとあって事前に準備していたみたいです。
中にいたのはギルド〈エデン〉のギルドマスターであるゼフィルス君。サブマスターのシエラさん。書記を務めるのでしょうか? リーナさんもいます。
そして〈エデン〉の下部組織である〈アークアルカディア〉のギルドマスター、セレスタンさんもいますね。でもサブマスターのニーコさんはいないみたいです。
合計4人のメンバーが待ち構えていました。
座っていたゼフィルス君が立ち上がり、シエラさんが私たちの案内をしてくれました。
「こちらへどうぞ」
ゼフィルス君の前の席、テーブルを挟んだ向かい側に案内されると、まずはムファサ隊長から挨拶と自己紹介を口にします。
「今日は貴重な時間を取っていただき感謝する。〈生徒会〉生産隊長のムファサという。御見知りおきを願う」
「同じく〈生徒会〉庶務のチエと申します」
ふ、二人共さすが慣れていますね。
私は自分のギルドだというのになんだかとても緊張しています。
ですが、それはどうやら私だけのようです。
ゼフィルス君は軽い笑みを浮かべて返礼します。
「はじめまして、ギルド〈エデン〉のギルドマスターをしているゼフィルスといいます。ハンナがいつもお世話になっています」
「同じく、サブマスターのシエラと申します」
「下部組織〈アークアルカディア〉のギルドマスターを務めさせていただいております、セレスタンと申します。以後お見知りおきくださいませ」
こうして自己紹介が終わります。
リーナさんは記録係だからでしょうか、自己紹介はしないみたいですね。
「立ったままでは何ですので、どうぞご着席ください」
「失礼します。冷えたお茶を用意しました」
ゼフィルス君に促され私たちがテーブル備え付けの椅子に着席すると、すぐにセレスタンさんが来て冷たいお茶の入ったコップを配っていきました。
今は夏休み。外は暑かったですからね。冷たいお茶が染みこみます。
一息ついたところで向かい側に座ったゼフィルス君から話し始めました。
「できれば〈生徒会〉の活動や、ハンナが普段どのように〈生徒会〉で活動しているのか聞きたいのですが、それはまたの機会にしましょう。お互い時間があまりないでしょうから」
ゼフィルス君が普段は見せない別の顔で喋っています!
でも内容はお察しです。時間が無いって、ゼフィルス君は早くダンジョンに行きたいだけだと思います。
「ご理解に感謝する」
基本的に話すのはゼフィルス君とムファサ隊長のようですね。
他の皆さんは控えています。
私も邪魔をしないようにしないと。
「時にハンナ、ハンナの意思を改めて聞いておきたい」
「ひゃ!」
ゼフィルス君、急に話しかけてこないでください。邪魔をしないよう黙っていようとしたところに急に話し掛けられて、思わずビックリした声が出てしまいました!
恥ずかしい。
でもそういえば今回の話の趣旨は私の話でした。
私が喋らないと始まらないのだと気がついてからは脳をフル回転させました。
「大丈夫かハンナ?」
「だ、大丈夫だよゼフィルス君。なんでも聞いて!」
はう、落ち着かないと。やる気が溢れ出してる。落ち着かないと落ち着かないと。
私はシエラさんとセレスタンさんを見ます。普段から落ち着いていて素敵な人たちです。
あ、2人を見ていたらなんだか落ち着いてきました。
「お、おう。こほん。ハンナはギルドを掛け持ちしている。それは並大抵の苦労ではないはずだ。それでも続けたいか?」
ゼフィルス君が問うてきます。
これは確認ですね。もしここで苦労があるとか辛いなんて泣き言を言った日にはゼフィルス君は何が何でも私を〈生徒会〉から連れ戻す未来が見えます。
いえ、それとも〈生徒会〉に私の仕事量を減らすように話を纏める、かな?
ゼフィルス君は多分、私の希望に添う形に纏めてしまう気がするんですよ。
ですが、私は二つのギルドを掛け持ちしていても別に辛くはありません。大変だなぁと思うときはありますけれど、他の〈生徒会〉メンバーさんもフォローしてくれますし、無理はしていません。
ちゃんと〈エデン〉での生産品のノルマはクリアしていますし、ノルマの三倍くらい作っちゃったりもしてたりします。
〈生徒会〉の仕事はやりがいもあって充実感があります。それをゼフィルス君にも伝えていきます。
「〈生徒会〉は忙しいけれど無理はしていないし、やりがいはあるし充実感もあるよ。みんなに喜んでもらえるし。それに大変なときは〈生徒会〉のみんながフォローしてくれるし、私はこのまま続けたいと思っているかな」
「なるほどな。――どうやら〈生徒会〉はハンナによくしてくださっているようだ」
「当然だ。ハンナ嬢の実力は〈生徒会〉でも即戦力レベル。我々としてはさっさと見習いではない、正式な〈生徒会〉メンバーになってほしいと考えている。それほどの人材を不当に扱う訳がない」
「道理ですね」
ゼフィルス君は深く納得したように頷きます。
それを見てムファサ隊長が本題に移ります。
「では、改めて挨拶を。ギルド〈エデン〉のギルドマスターゼフィルス殿、ギルド〈エデン〉の大切なギルドメンバーであるハンナ嬢に〈生徒会〉とギルドを掛け持ちすることを、どうか許してほしいと願う。無論、不当な扱いはせず、〈生徒会〉で仕事をする間は〈生徒会〉が責任を持ってハンナ嬢の身を預かると、学園三大ギルド、〈生徒会〉の名に誓おう」
そう言ってムファサ隊長は立ち上がり、深々と頭を下げました。
すぐにゼフィルス君が返答します。
「〈生徒会〉の誠意ある姿、確かに見させていただきました。安心して〈生徒会〉にハンナを預ける事が出来ます。俺はハンナのやりたいようにさせたいと思っています。もちろん、今後の〈エデン〉の活動に支障が無いようにするのと、〈生徒会〉での活動で無理にハンナを拘束することはしないこと、という条件は付けさせていただきますが、こちらからもハンナのこと、どうかよろしくお願いしたいと思います」
そう言ってゼフィルス君も立ち上がり頭を下げます。
なんだか大事過ぎて目を回してしまいそうになりました。
最後はいくつか摺り合わせをした後、ゼフィルス君とムファサ隊長はお互いをガッチリと握手しあい、ようやくこの挨拶は終わったのでした。




