#082 〈助っ人〉募集の最後の1人。やっと終わった~。
それはサトル君をダンジョンで助けた日の翌日のことです。
〈生徒会室〉にてフラーラ先輩から私に話がありました。
「本当にすまんかったのじゃ。弟が迷惑を掛けたのじゃ」
「え、いえ。迷惑と言うほどでは。サトル君も怪我がなくてよかったです」
「は、ハンナ様は天使だ!」
「やかましいわこのバカタレ弟め!」
「ごっ!?」
土下座に近い格好で両手を地面に突いて顔だけ上げた姿勢のサトル君に、フラーラ先輩の拳が振り下ろされます。
ガツンと後頭部に命中しましたね。
サトル君が痛がっています。女子の拳にはHPは反応しない、不思議な現象です。
確か授業で習いました。
基準値を超える身体への攻撃やダメージは大体HPが肩代わりしてくれますが、STR10の女子の拳は大体基準値を満たせないのでそのままHPバリアを素通りするのだそうです。
つまり弱すぎてHPバリアが発動しない、ということですね。女子は非力なのです。
ちなみにフラーラ先輩の拳にも痛みがあったようで、少しプルプルしているのは見ないことにします。
「こほん、なのじゃ」
フラーラ先輩が弛緩しそうな空気を咳払いで整えました。
「ハンナよ。改めてありがとう。謝罪と礼を言わせてくれなのじゃ」
「はい。謝罪もお礼も受け取りました」
「うむ、さすがはハンナ。弟にはもう少しハンナを見習ってほしいものじゃ」
フラーラ先輩が腕を組んで頷きます。
いえ、別にそこまで大層なことはしていないのですが。
「それでなのじゃが、弟はトレインをやらかした。被害がなかったとはいえ一歩間違えば大事じゃった。さすがにお咎めも無しというのは出来ないため学園は3人にペナルティを与えることに決まったのじゃ。そこで弟の処分なのじゃが」
謝罪とお礼を済ませても未だに正座の体勢から動かないサトル君。
なんでその体勢なのかと思ったら反省させるためみたいです。
やっぱりお咎め無しとはいかなかったみたいですね。
重くないペナルティならいいのですが。
「聞けばハンナはギルドの〈助っ人〉を探しているとか」
「え、はい」
突然の話に、ちょっとキョトンとしてしまいましたが、私はすぐに頷きます。
するとフラーラ先輩は一つ頷いてからサトル君を指さしてこう言いました。
「なら、弟を使ってやってくれなのじゃ。もちろん奉仕活動なのじゃ。数日はタダ働きでも構わんのじゃ」
「ええ!? でもその……」
なんと意外な提案でした。サトル君の事務処理の腕前は皆が知る所です。
確かに来てくださるとありがたいですが。でも、私は言いよどみました。
「言いたいことは分かるのじゃ。奉仕活動のように強制的に働かせて、果たして助けになるのか、心配じゃろうと思う」
「俺がハンナ様やルルちゃんの枷になるようなことはいたしません! 全力で励みます!」
「……まあ、なんじゃ。弟はちょっとキモいがハンナやルルちゃんの助けになるなら手を抜くことはせんじゃろう。気に入ったらそのまま雇い続けてくれてもよいのじゃ。弟はやれば出来るやつじゃからのう。趣味嗜好は改めさせたいのじゃが……」
なんだかサトル君を見るフラーラ先輩の目が……いえ、きっと気のせいでしょう。
少し考えます。
サトル君はルルちゃんみたいなちっちゃい子が好きなのでしょうか?
いえ、違いました。
サトル君を〈エデン〉の〈助っ人〉に選んでも良いのでしょうか?
ちょっと私では判断が難しいです。ここはセレスタンさんに任せようと思います。
とりあえず紹介はしておきましょう。私が判断できる範疇を超えていると思いますし。
「分かりました。まずは相談してみますね。今日中にはお返事が出来ると思います」
「助かるのじゃ」
「ありがとうございます!」
私が返事をするとフラーラ先輩もサトル君も、深々と頭を下げたのでした。
その日のうちにセレスタンさんに相談を持ちかけました。ラウンジで紹介状を提出いたします。
「ハンナ様、この短期間に得がたき人材を紹介していただいた事、ありがとうございました。大変助かりました」
「いえいえ。その、メリーナ先輩については私も戸惑っていると言いますか」
「〈総商会〉でも指折りの実力者ですからね。僕もメリーナ女史が来てくださるとは予想外でした。これもハンナ様の人徳の賜です」
「い、いえそんな! 私は出来ることをしただけですから」
セレスタンさんは何かと人を持ち上げます。いえ仕える人は皆さんこういうことを言うのでしょうか? あまり持ち上げすぎないでください。きょ、恐縮してしまいます!
「メリーナ女史でしたら問題ありません、むしろお支払いする額を見直さなければいけませんね。シエラ様にも相談しておきましょう。そしてもうお一方ですが」
「は、はい。サトル君ですね。その、そこに書かれているとおり学園から奉仕活動一週間を命じられています。ですが一週間を過ぎても継続して働きたいと、腕は良いです」
「やる気は伝わってきますね。なるほどなるほど。〈生徒会見習い〉所属ということは本当に腕がよろしいのでしょう。こちらの彼も検討させていただきますよ」
「はい。ありがとうございました」
「いいえ。お礼を言うのは僕の方です。本当にありがとうございました。助かりましたよハンナ様」
ということでセレスタンさんから頼まれていた2人の紹介は済みました。
その後、審査の結果、メリーナ先輩は問題無く採用。お給金は予定していた金額を超えるとのことですが、ゼフィルス君が妥協しなかったので毎月それなりの金額をお支払いするそうです。有能な秘書さんの年収を聞いたときはおったまげましたよ。秘書さんって結構な高給取りなんですね。
学生なのでさすがにそこまではお支払いしませんが、〈助っ人〉の中でも最も高い額での採用です。
そしてサトル君ですが、こちらも採用となりました。
サトル君はあれで結構有能で、セレスタンさんに近い事務能力を持っているのです。セレスタンさんも驚いていました。
経過観察などもあるため、サトル君はしばらくセレスタンさんと行動を共にするそうです。色々とセレスタンさんがしてきた仕事をサトル君に手伝ってもらうのだとか。
セレスタンさんが心なしか嬉しそうにしていました。
こうして私の〈助っ人〉依頼は無事終了したのでした。




