#081 総商会で〈助っ人〉について聞いてみたら……。
ダンジョンでの素材集めは終了しました。
切り札の〈ディフェリタンD〉の素材はたんまりゲットできたのでダンジョンから帰還します。
「〈採集無双〉さん、今日はありがとうございました」
「ハンナさんにはお世話になってますから。〈助っ人〉のことではお役に立てませんでしたが、また何かあれば言ってください。出来ることなら力になりますよ」
〈初ダン〉に着いたところで〈採集無双〉のみなさんにお礼を言います。
するとモナ君が代表でそう言ってくれます。
嬉しいですね。私も〈採集無双〉が困っていれば出来る限り力になりたいと思います。
〈初ダン〉で〈採集無双〉さんと別れると、私はもう一つの問題に向き直りました。
「サトル君たちはどうしますか?」
「…………」
そこにいたのはサトル君たち〈ダンジョン営業専攻〉の3人です。
〈戦闘課〉のはぐれた2名はまだダンジョンみたいなので、本来なら合流を目指したいところですが、彼らだけだと危ないですし、私の方で護衛をして〈初ダン〉まで連れてきました。
キャリーを依頼した〈戦闘課〉の人は見つからず、トレインのやらかしもあって色々学園からペナルティを貰うみたいです。3人ともうなだれていました。
「と、とりあえずハンナ様、お世話になりました。また後日今回のことも含めて御礼に伺います」
サトル君がそう言って深ぶかと頭を下げると、他の2人も同じようにしてお礼の言葉を口にし、とりあえず今日はここで解散することになりました。
これから学園側と色々やり取りするそうで、私は教員の方から少し事情を聞かれましたがすぐに解放された為、そのまま〈総商会〉へと向かいました。
本日ゲットした素材のうち、納品依頼の素材もあるためこれを納品するのと、ギルドの依頼した〈上魔力草〉の受け取りもかねています。
〈総商会〉の扉の前に立つと、私は少し心を落ち着かせます。
「よし」
覚悟完了です。
なんで覚悟なんてしなくちゃいけないかというと、ですね。
「あ、ハンナ様じゃない」
中に入るとそんな私を呼ぶそんな声が聞こえてきました。
声の主は扉の近くにいたメリーナ先輩からでした。
「も、もうメリーナ先輩、ハンナ様はやめてくださいよ」
「うふふ、そうは言ってもね」
このやり取りも何度目でしょうか。
6月上旬からですからこの2ヶ月、もう数え切れないほどです。
何度言ってもメリーナ先輩は私の事を様呼びすることをまったく諦めてくれません。
もう諦めた方がいいのでしょうか?
「今日はいつものやつ?」
「はい。それと受けていた納品依頼も持って来ました」
「はーい。じゃあいつもの窓口に来て。手続きするわ」
そう言ってメリーナ先輩はすぐに21番窓口、いつも私が使っている窓口へと向かいます。
どういうわけかあの日から私関連のものはメリーナ先輩が対応してくれることになったのです。
メリーナ先輩って〈生徒会〉とやり取りが出来るほど〈総商会〉での地位は高いはずなのですが、私の相手をしていていいのでしょうか? 私はいつも困惑しています。
でも手続きがすごく早いんですよ。
こうしゅばばばって感じですぐ終わってしまいます。
サトル君の処理能力よりも速いです。さすがメリーナ先輩。
あっという間に終わってしまいます。
「お待たせハンナ様~」
「い、いえ。全然待っていません」
本当です。全然待ってないです。
凄まじく速い処理能力だと思います。
と、そこまで考えたとき、思い出しました。
私はセレスタンさんに経理など裏方の処理能力の高い方の紹介を任されていたのだと。
ここは〈総商会〉です。すでにセレスタンさんからお話があったに違いありませんが、進捗状況がどのくらい進んでいるのか、私は軽い気持ちでメリーナ先輩に尋ねてみたのでした。
「メリーナ先輩。そういえば〈エデン〉で募集している〈助っ人〉ってまだ集まらないんですか?」
その言葉を聞いたメリーナ先輩の手が止まります。
「メリーナ先輩?」
「いえ、そういえばその話もあったわね。ハンナ様って〈エデン〉のメンバーだったのよね? うっかりしていたわ」
「?」
メリーナ先輩はなにやら小さく呟くと、どこからか分厚い資料をドンッとデスクに置いてぺらぺらと捲り、該当するものを発見したのか、その項目を読みながらメリーナ先輩が私に聞いてきました。
「ハンナ様、確認したいのだけど」
「え、えっとはい。なんでしょう?」
「〈エデン〉って困ってるのよね? ハンナ様も困ってるのかしら?」
「え? は、はい。私も困っていて。どなたか〈助っ人〉で来てくれる良い方はいらっしゃらないでしょうか?」
突然のストレートな質問でしたが、私は少し考えてメリーナ先輩なら大丈夫かと頷きます。
セレスタンさんも大変みたいなので協力したい気持ちはあるのですが、私も知り合いは全滅ですし、紹介できる方ももういません。困っています。なんとかセレスタンさんの助けになりたいのですが。
それを聞いたメリーナ先輩がニコリと笑顔になりました。
その表情に私は希望を見出します。
「メリーナ先輩、誰か良い方がいらっしゃるんですか?」
「いるわよ~。とっておきに良い方がいるわ。あの〈微笑みのセレスタン〉にも負けない事務処理能力があって、性格もよくって、〈エデン〉へ〈助っ人〉に行ってもいいって人よ。しかも長期で」
「わぁ!」
さすがメリーナ先輩です! すっごく頼りになります!
やっと、やっと良い報告が出来そうです。
「そ、それでその方はどんな方なのですか?」
私は少し前のめりになってメリーナ先輩に聞きました。
メリーナ先輩は得意そうな顔で―――なぜか片手を自分の胸に当てました。
そしてこういいます。
「私よ」
……おかしいです。
〈助っ人〉をお願いしていたら〈総商会〉でも指折りの上級生、メリーナ先輩が立候補して来ました。
いえ、多分私が聞いた幻聴に違いありませ――。
「これからハンナ様のいる〈エデン〉を精一杯支えてあげるから。どうぞよろしくね」
「……ほへ?」
ニコリと微笑みながら軽く首を傾げてそう言うメリーナ先輩。
私はその言葉の意味を飲み込むのにとても、とても時間が掛かったのでした。
こうしてメリーナ先輩が〈エデン〉の〈助っ人〉ということで参加することになったのでした。




