#008 生産職の学友。ダンジョンで使う攻撃アイテム!
「は、ハンナしゃま! 何を作ってらっしゃるのでしゅか? はう……、また噛んじゃいました」
「いえ、あの。私に様付けなんて要りませんよ、シレイアさん。同級生なんですから」
ここは〈錬金術課〉の学生が使う錬金の専用部屋。通称〈錬金工房〉の一年生部屋です。
私が錬金をしていると、横から話しかけてきたのは同じクラスのシレイアさんでした。少しオドオドしていると言いますか緊張しいな印象があります。
こ、こう見えて優秀な方で、私と同じ【錬金術師】の職業に就いているためよく意見交換をする仲ですが、何かと私のことを敬意をもって呼びたがるのが玉に瑕です。
後、よく噛みます。
「い、いえ。そういう訳にはまいりません!」
まいっても別にいいのに……。
うう、いつまで経っても慣れません。
実はシレイアさんは【錬金術師LV15】と、このクラスでは私に続いて2番目の実力者なんです。
本来ゼフィルス君と出会わなかったなら私が見上げるべき存在で、私の方こそ恐縮してしまうのですが。
なんでこんなに腰が低いのでしょうか、信じられません。(ブーメラン)
ちなみにシレイアさんは背が私にとても近いので内心親近感を持っているのは内緒です。
と、そんなとき、別のクラスメイトの方が話しかけてきました。
「はいはい、ハンナさんが困っていますわよ。シレイアさんもお聞きしたい気持ちも分かりますが、それではハンナさんのご迷惑になってしまいますわ。せめて静かに見学するだけにしませんと」
そう言ってとりなしてくれたのは【錬金術師LV14】、このクラスでナンバー3の実力を持つ方で、名前をアルストリアさんと言います。
「はう! そうでした、すみませんハンナしゃま」
「い、いえ。大丈夫ですよ。アルストリアさんもお気遣いありがとうございます」
「礼には及びませんわ。それでその、ハンナさん、わたくしもここで見学させていただいてもよろしいでしょうか?」
あ、アルストリアさんもそちら側なんですね。
ちなみにですが、アルストリアさんは王都に大きな大商会を構える錬金術店のお嬢様です。
私たち庶民とは違い、シエラさんのような高貴な立ち振る舞いをされる方で、私も最初話しかけられたときはとても恐縮を、……いえ、しませんでしたね。多分ギルドの影響だと思います。あそこは高貴な方が多いですから。
そのおかげかは分かりませんが、普通にお話出来てしまった私はアルストリアさんにこうしてよく話しかけてくれるようになりました。
また、アルストリアさんは錬金術に対する情熱が凄くて、よく意見交換をする仲です。
ですが、うう。よく話しかけられるようになったのは嬉しいのですが、このお二人は私の錬金術に興味と関心を寄せすぎている気がします。
私の錬金術を褒めていただけるのはとても嬉しいのでちょっと複雑です。嫌ではないのですが。
仕方ありません、覚悟を決めて、頑張ります。
「いいですよ。ではちゃちゃと仕上げちゃいますね」
見学者がいるのです。情けないところは見せられません。
私は〈錬金セット〉の錬金釜に錬金棒を突き入れてぐるぐる回します。
この回す速度が結構重要です。しっかり馴染ませなければいい品質は生まれません。
混ぜ始めると『錬金』スキルが私にちょうど良い速度を教えてくれます。
私はその通りに混ぜれば良いので慣れればどうということはありません。
そう言ったらアルストリアさんから、「どうということはありますよ」と呆れた目で言われました。
なぜでしょう。なぜかシエラさんのジト目とゼフィルス君の顔が頭を過ぎりました。
それはともかくです。
今は錬金に集中です。
「うん。燃料素材の〈オイルゼリー〉はこんなものかな。ここに砕いた〈ネツ鉱石〉と〈赤き砂〉を入れて、さらにま~ぜ、ま~ぜ~」
砕いた鉱石と砂を投入、またかき混ぜます。
うう、重い。一気に腕にきました。
ですが、一定の流速を得なければしっかりとした品質にはなりません。
根性です!
「……ふぅ。良い感じ。最後にこの錬金材を込めるための〈台座の指輪〉を投入して――『錬金』!」
しっかり馴染んだと判断した私は事前に作っておいた指輪を入れます。
この指輪は宝石が埋め込まれておらず、台座しか無い指輪です。
これを投入した瞬間『錬金LV10』を発動して一気に指輪に錬金材を封じ込めます。
そして、
「ふう。出来ました! 〈爆指輪〉の完成です!」
錬金釜にはさっきまであったオイルなどの材料が全て無くなり一つの指輪だけがそこにありました。
指輪の台座の部分には先ほどまで無かったはずの、赤い宝石のようなものが輝いています。見た目は完璧に成功です。
「頼むよ〈解るクン〉、――『鑑定』!」
学園付属品の〈解るクン〉で確認するとそこには高品質と出ました。
や、やりました! 初めて高品質の〈爆指輪〉が出来ました!
「やったー!」
「みゅみゅ、そ、それはどういったものなのですか!?」
「落ち着きなさいシレイアさん。これは〈爆指輪〉ですね。しかも高品質。回数は7回! これはうちの店に置いたら30万ミールでも購入者がいるかもしれません」
「ふみゅ! どういった効果なのでしゅか!?」
興奮しているのかさっきからシレイアさんの言葉が噛み噛みです。
しかし、アルストリアさんはそれを気にしせず冷静にルーペで完成したばかりの〈爆指輪〉を見つめ、シレイアさんの疑問に答えています。
「回数アイテムで〈爆弾〉系統。爆発ダメージで敵を攻撃するアイテムですね。しかも中級下位でも通用します。そして7回も使えます。これは凄いことで普通は3回~4回。使い切れば壊れますので回数的にも実用性には乏しいです。しかし、7回ともなれば話は変わります。6回使っても壊れないのですから十分に実用性がありますわ。それにこういう回数制限のついたアイテムは回復できます。壊れなければ何回でも利用できます。しかも高品質は固定されているのでダメージは普通のものよりも高いですわ。それは回数を回復しても変わりません。これはわたくしも欲しいですわね」
「ふえ、なるほど~」
アルストリアさんも興奮しているのかとても饒舌です。
シレイアさんも驚きつつもとても感心したように指輪を見つめます。
へ? これ30万ミールで売れるの?
え、ど、どうしようかな……。
ってだめだめ、これは私が使わないと!
私は出来上がったばかりのそれを指に嵌めました。
前に作っていた物より断然良い出来です。威力も範囲も高そうです。
前に作った物は〈戦闘課〉の練習場でゼフィルス君たちを待っている間に全部試し撃ちに使ってしまいましたし、高品質でも回数が2回しか使えなかったりと、出来はあまり良くありませんでした。
でもこの〈爆指輪〉はかなり使えそうです。
ゼフィルス君たち、喜んでくれるかなぁ。
「素晴らしい出来ですわね。しかし、どうしてハンナさんはそんな物を作ってらしたのですか?」
「私はダンジョンに行きますから。戦闘能力が低い私ですとこのような攻撃系アイテムの方が火力が高いのです」
「な、なるほどです。ハンナ様はダンジョンで活躍されるためにこのアイテムをつくったんでしゅね! はう……また噛んじゃった」
「確かに、これはかなり良いものですわね」
「品質の高い素材を厳選して使いましたから~」
でもこれだけでは足りません。
爆弾アイテムはゼフィルス君が〈私と一緒に爆師しよう〉ギルドからレシピをたくさん買ってきてくれたので、作ってみたい物はまだまだたくさんあるのです。
こういうアイテムをたくさん作って私もダンジョンで活躍しなくっちゃね!