#076 夏休みは自由! そして、遊ぶのだ! by勇者
夏休みです。
学園の授業が無くなり、学生が長期休暇をいただける夏休み。
帰省するも自由。ダンジョンに行くのも自由。生産に励むのも自由です。
私は家が遠いので帰省はせず、学園に残って色々と生産に励みました。
この時期は自分の腕を高める時期だそうで、勉強はそこそこに、とにかく数を作り、経験を積み、腕前を向上させることを念頭に置くべき、とミーア先輩から教えていただきました。
確かにそうです。この時期は好きなことが出来る分、実力を上げるチャンスですね。
そのため私もミーア先輩に教えてもらったとおり生産漬けの毎日を送ろうとしていたのですが、ゼフィルス君から待ったが掛かりました。
「そんなに根を詰めすぎてたら勿体な―――もとい、勿体無いぞ。もっと遊ぶべきだ」
「ゼフィルス君、言いなおそうとして言いなせてないよ?」
まったくもう、です。
ゼフィルス君はいつもこうな人なので仕方ないですね。
……なんだか私も順調にゼフィルス君に染まってきていると感じます。
冗談は置いといて真面目な話です。
「いいかハンナ。夏休みとは、なんだ?」
「えっと?」
哲学でしょうか?
「ハンナ、夏休みとは、――自由だ!」
「自由? ……そうだね、自由だね。分かるよ?」
溜めた割には普通の答えでキョトンと首を傾げます。
しかしゼフィルス君は気にしません。
大げさにリアクションしながら告げます。
「故に、遊ぶのだ!」
「えっと?」
「つまり遊びながら適度に努力しろってことだな」
「逆じゃない? 普通適度に遊ぶものでしょ?」
ゼフィルス君はいつもこんな感じです。
なので私も気にしません。
ゼフィルス君の中では遊ぶこと、楽しむことがまず第一で、成長は二の次、いえ、ついで?
それも少し違いますね。あ、両立、が正しいかもしれません。
ゼフィルス君は楽しみながら成長も一緒にしちゃう人なのです。
「ということでハンナも遊ぼうぜ?」
「うーん。いいよ」
少し考えましたが、ゼフィルス君がすることに、大変さはあっても間違いはないので付いていきます。
多分ビックリするのでしょうけど、私はそれも少し楽しいと思えるようになって来ました。さらに何か自分の成長も出来る気がするのです。
「今から行くのは中級中位ダンジョンの一つ、〈岩鳥の巣窟ダンジョン〉だ! ハンナはアタッカーで入ってくれ」
ゼフィルス君が容易に私の限界を踏み越えていきます。
ゲストではなく、アタッカー、ですか?
私の職業、【錬金術師】は生産職です。
そのためステータスはMP、RES、DEXにしか振っていません。
装備適正がある武器は杖かメイス、本の3種類だけ、攻撃スキルも一つも取っていないので、大きな戦力にはなれません。
ですが、ゼフィルス君はその理屈を跳ね返し、装備やアイテムを充実させることで私を中級下位ダンジョンまで連れて行ってくれました。
ギルド〈エデン〉はとある理由で装備の充実度が他のギルドとは比べ物になりません。
パーティメンバーについても以下同文です。
そのおかげで私は中級下位ダンジョンまで、みんなに守られながら付いていくことができました。
でも、それもそこまで。
〈エデン〉はまだまだ伸びます。
中級下位ダンジョンを超え、とうとう中級中位ダンジョンへと到達したのです。
ですが、そこに私が戦闘メンバーとして参加することはありませんでした。何しろモンスターが強すぎたのです。私は生産職として〈エデン〉の攻略に同行するしかありませんでした。
つまり、私の最高攻略階層は中級下位ダンジョンまでなんです。なんでゼフィルス君は中級中位ダンジョンに連れて行こうとしているの?
「あ、あとシエラにはないしょな」
しかもなんか秘密の遊びっぽいです。ゼフィルス君が口先に人差し指を立ててしーしました。シエラさんは〈エデン〉のサブマスターです。そのシエラさんに内緒とは……。
後でシエラさんから怒られなければよいのですが、ゼフィルス君はその程度ではへこたれないのでいつものことなのです。
準備を整えるのもあっという間です。慣れたものです。
これは〈エデン〉では「ダンジョン、神速を尊ぶ」的な考えがあるからです。故にダンジョンに入るためには時間をかけません。
全部ゼフィルス君の影響です。
普通ダンジョンに入るためには入念な準備と覚悟がいるはずなのですが、ゼフィルス君はとにかく入ってから考える、といいますか、装備もダンジョンに入ってから整えることも多いくらいで、〈馬車〉とか。とりあえずダンジョンに入るのです。ちなみにそれで準備不足に嘆いたことはありません。〈エデン〉七不思議の一つです。
私も一度部屋に戻って装備を変更します。
例のマリー先輩に注文していた新装備です!
中級ダンジョンでは初めて使うので、ちょっとドキドキしています。
新しくなった私のダンジョン用装備が、こちらです!
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・武器 〈マナライトの杖〉
〈攻撃力7、魔法力28〉
〈『空きスロット:フレムロッド魔能玉』〉
〈『ファイヤーボールLV5』『フレアランスLV3』『アイスランスLV1』〉
・頭装備 〈戦進狼の折れ帽子〉
〈防御力22、魔防力15〉
〈『HP+100』〉
・体装備①〈戦希少四狼の黒衣〉(女性用)
〈防御力45、魔防力35〉
〈『物理耐性LV5』『HP+60』〉
・体装備②〈希少進狼のローブ〉
〈防御力28、魔防力40〉
〈氷属性耐性15%上昇、闇属性耐性15%上昇〉
〈『HP+50』『MP+50』〉
・腕装備 〈戦進狼の手袋〉
〈防御力21、魔防力18〉
〈『HP+50』『DEX+20』〉
・足装備 〈猫球の足袋〉
〈防御力27、魔防力16〉
〈雷属性耐性10%上昇、炎属性耐性10%上昇〉
〈『猫の足LV4』『HP+40』〉
・アクセサリー① 〈風壁の指輪〉
〈防御力20、魔防力0〉
〈『防御風LV5』『風域LV5』〉
・アクセサリー② 〈安全の子守り〉
〈防御力25、魔防力0〉
〈『HP+200』〉
〈装備条件――『基本HPが100未満』〉
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武器は〈マナライトの杖〉に〈フレムロッド魔能玉〉を入れておきます。火力が足りないと思うのですが、ゼフィルス君が言うにはこれでいいらしいです。
アクセサリーは〈錬金上手の腕輪〉〈錬金術師の心得書〉を外して〈風壁の指輪〉と〈安全の子守り〉を装備します。
HP特化装備なので、私のHPが見たこともない数値になります。
えっと装備補正はHP+500? 私のHPは初期値ですが、これでHPは530になりました!? す、すごいです! 圧倒的です! これなら1発や2発当たっても耐えられるかもしれません!
改めてマリー先輩のすごさを思い知りました。
マリー先輩、ありがとうございます。あとで何か美味しい物を持参しましょう。いつもゼフィルス君が迷惑、ではなくお世話になっているお礼も兼ねて。
そう、私は心に決めました。
新しい装備も着て、姿見でチェック。問題ありません。
〈空間収納鞄〉の中身はいつも通り。ほとんど手は加えません。
これでいつでも行く準備が整いました。
集合場所の〈中中ダン〉前に到着すると、すでにメンバーは揃っているようでした。
「よし、じゃあ、今日のメンバーを発表するな。【セージ】のミサト、【ロリータヒーロー】のルル、【精霊術師】のシェリア、【錬金術師】のハンナ、そして【勇者】の俺だ。今日は楽しくなるぜぇ」
メンバーを見たところで察しました。
このメンバーは、ちょっと特殊すぎます。タンクがいませんもの。
何かたくらんでいますよね、絶対。




