#075 〈生徒会〉へ正式勧誘。
「ハンナさん。アルストリアさん。シレイアさん。正式に〈生徒会〉へ入りませんか?」
テスト期間が明けてから数日。夏休みに突入して少し経った頃、学生も少なくなり〈生徒会〉の仕事もかなり少なくなって落ち着いたところで、チエ先輩から改めてという形でそう言われました。
現在、ラウンジの個室の一室で、テーブル席を挟み、向かいにチエ先輩とミーア先輩。
こちら側に私、アルストリアさん、シレイアさんが座っています。
「返事はいつでもかまいません。正式に配属となると例年10月からとなります。前向きに考えてくれると嬉しいです」
チエ先輩の言葉に私たちは顔を見合わせました。
今は8月手前なので後二ヶ月あります。
私たちは現在〈生徒会見習い〉という形で〈生徒会〉に参加していますが、正式に参加ということになれば、何かしらの役職に就くことになるのでしょうか?
「質問いいでしょうか?」
「はい、ハンナさんどうぞ」
「はい。私は今Dランクギルド〈エデン〉で活動していますが、役職を持つのは少し活動に差しさわりがあるかなと思うのです」
「そうですね。その辺も詰めていきましょう。もちろん〈エデン〉が優先で構わないですし、役職ではなく、誰かの補佐という形でもいいと思います。2つのギルドを掛け持ちするのは大変ですからね」
「今掛け持ちしているのって私とヤークス君くらいだもんね~」
チエ先輩の言葉にミーア先輩も頷きます。
ちなみにヤークスさんは二年生の先輩で生徒会書記の方です。
今は〈キングアブソリュート〉についていき上級ダンジョンに挑んでいるはずです。夏休みなので泊まり込みでダンジョンにいるみたいですね。
他の方は、特に三年生の方々はみなさん〈生徒会〉一筋みたいです。
ローダ先輩やフラーラ先輩も、今はギルドには所属していないみたいですね。
というのも、生産職というのは戦闘職とは違って少し特殊で、パーティを組む必要がありません。それに横の繋がりが太いです。そのためにギルドを組む利便性も減っていき、個人で活動するという人も少なくありません。特に、職人気質の人はあまりギルドに参加しませんね。
一年生、二年生ではギルドに参加し、先輩からあれこれ吸収するのですが、最上級生で夏休みが近くなると脱退する生産職さんは少なくない、とのことです。
生産ギルドとは、助けたり助けられたり、つまりは協力して何か一つのことを成し遂げようとする集団です。たとえばマリー先輩のところは全員で協力して良い装備品を作り上げるギルドですね。その分お値段はお高いです。
そしてフラーラ先輩たちみたいに、1から10まで自分1人で出来る人はギルドには在籍しない傾向が強いみたいです。
さらにはここ〈生徒会〉にいる方々は生産職の中でも選りすぐりのメンバー。今言った1人で出来てしまう方々なので、ギルドに参加していないんですよね。昔は入っていたとは以前聞きましたが。
ミーア先輩はギルドにこそ参加していますが、それは〈調理課〉が少し特殊で、仕入れが学生ではなく業者が納品に来る関係上、ギルドに参加していないと食材が手に入りにくいからです。
食材が手に入るのはエクストラダンジョンがメイン。学生はあまり行きませんからね。
私たちみたいに、どこかの〈採集課〉に専属を持つということができないので、どこかしらの組織に所属しなければいけないのが〈調理課〉です。多分、食材が自力で手に入るのであればミーア先輩はギルドから脱退していたかもしれません。
アルストリアさんもシレイアさんも、他の生産ギルドに所属する意義は薄いです。一年生なので資金面的な助け合いを始め、色々と学ぶことも多いはずですが、それだったら〈生徒会〉の方が学ぶことは多いはずです。
多分お二人はそのまま〈生徒会〉に参加すると思います。〈生徒会〉に参加して得るものはとても大きいですから。
私はどうしましょうか?
「別に今すぐ決めなくてもいいですよ。でも、前向きに検討してもらえると助かります。私たちは是非みなさんに〈生徒会〉へ入ってもらいたいと思っているの」
「みんながいないと私、耐えられないよ~」
チエ先輩の柔らかな視線が私を見ます。ミーア先輩は、身体をクネクネさせていました。
でもミーア先輩の場合、私たちがいないと仕事が増えるからではないでしょうか?
「私も、いえでも……。少し時間をください。〈エデン〉でも相談してみます」
「ええ。大丈夫よ。いつでも相談は受け付けるからね」
いつもの帰り道、ミーア先輩を抜いた私たち3人は先ほどの話を相談していました。
私はお二人に聞きます。
「やっぱり二人とも〈生徒会〉に入るんですか?」
「はいです! ちょうどギルドに入るか否か、迷っていたところだったので、渡りに船です。決めました!」
「わたくしも前向きに考えていますわ。そもそも錬金系のギルドはどこもいまいちでしたし、ハンナさんのように戦闘職のギルドに行くのもいいかもと思ったのですが、将来的に自分のためになるのはやはり〈生徒会〉ですから」
やはり二人はすでに入ることを決めているようです。
「ハンナ様は、やっぱり難しいのですか?」
「そうではないのですが……。うーんと。私が所属する〈エデン〉は、とても忙しいギルドなんです」
「存じていますわ。一年生ですでにDランクにいるギルドなんて〈エデン〉だけですもの。どれほど急ぎ足で駆けてきたのかがわかりますわ」
「はい。だからこれからも止まらないと思うのですよ。私も、〈エデン〉が止まらずに走れるように頑張ると決めていますし。ですから、〈生徒会〉で活動できる時間もあまりないと思うんです」
これは間違いないと思います。
今までも〈エデン〉の活動を優先して〈生徒会〉の仕事が出来ない日も多くありました。
これからもそうだと思います。
アルストリアさんとシレイアさんは頷きながら静かに聞いてくれました。
「ですが、私も〈生徒会〉で学ぶことは多いと思いますし、将来を考えると活動してみたいと思っています。なのでゼフィルス君に聞いてみるつもりです。多分悪いようにはならないと思います」
ゼフィルス君は仲間想いというか、少し過保護ってくらい甘いことがありますから、多分反対はしないと思います。むしろ背中を押されるかも? ですが、それでは私の気が治まらないので、出来る限り2つのギルドを両立して頑張りたいと思います。
「はあ。よかったです! これでまたハンナ様と一緒に活動できますね!」
「ハンナさんが〈生徒会〉を手伝ってくださるなら心強いですわ」
私は頷きます。
とりあえず話は終わりです。後はなるようになるだけですね。
と思ったところでシレイアさんがふと思い出したように〈空間収納鞄〉から紙の束を取り出しました。
「あ、そうでした。ハンナ様。頼まれていたやつ。手に入りました。これをどうぞ、です!」
「え? 手に入ったのですか?」
シレイアさんから渡された紙を受け取ります。それは、レシピでした。
私が欲しくて、もし見つけたら教えてくださいと、お願いしていたもの。
中級中位ダンジョン以上に上れないと言われてしまい、さらに中級下位ダンジョンすら満足に行けない私がとても欲しかったアイテムが書かれたレシピです。
シレイアさんはなんとそれを手に入れてきてくれました。
以前からゼフィルス君が方々を探して、でも見つからなかったレシピ群。
これは私の、光明の兆しです。




