#074 テストが終わり、弛緩した空気が流れる生徒会。
「ミーア先輩は何位だったのですか?」
「私? へへん。私はハンナちゃんの助けもあって今までで一番成績良かったわ。なんと7位よ!」
「わぁ!」
ミーア先輩は2年生で7位だったみたいです。さすがです。
「これもハンナちゃんが勇者君を紹介してくれたおかげね。もうこの装備ったらすごいんだから! 〈調理課〉は実技の審査が本当に厳しくて190点を超える人ってまずいないのよ。なのにね。私はなんと196点だったのよ! 最高点だわ!」
「おお~」
ミーア先輩が胸を張って自慢するので私たちは思わず拍手で祝います。
「とんでもない値段だけあってあの装備は最高よ! もう誰にも渡さないわ」
どうやらミーア先輩は〈コック帽子〉と〈純白エプロン〉をとても気に入ったみたいです。
気持ちはよく分かります。私だってゼフィルス君からおすすめと言われてもらったこの〈錬金上手の腕輪〉と〈錬金術師の心得書〉はもう手放せません。手放す気もありません。一生の宝物です。
あ、見ればシレイアさんも〈調合上手の腕輪〉を見てニヨニヨしていますね。
一通りテストの結果で盛り上がると、もうホームルームが始まる時間です。
予鈴が鳴り、私たちも教室に向かいました。
ちょっと教室までいくのは気が重いですが、仕方ありません。
今日も頑張りましょう。
「それでは本日の授業はここまでとします。みなさん、テストの結果を踏まえ、自分に何が足りないのか、自分は何が得意であるかを知り、精進を忘れないようにしましょう。それがきっと将来、みなさんのためになります」
アイス先生が教壇に立ち、教えをくださいます。
今日はテストの一部が返ってきました。
私はとても高い点数を取る事が出来ましたが、数学がちょっぴり苦手です。
頑張らないといけません。
「それではみなさん。ごきげんよう」
アイス先生が立ち去った後、教室内が弛緩した空気に包まれました。
みなさんもアイス先生の前ではきちっとしていますが、やはりテストの結果という緊張感があったために一気に気が抜け、机に突っ伏す人もいます。
「ハンナさん、行きましょうか。今日は〈生徒会〉ですわ」
「行きましょう、です」
「はい!」
私の帰りの仕度が済んだところにアルストリアさんとシレイアさんがやってきたので、一緒に〈生徒会室〉へと向かいます。
3人ともランキング一桁という話はすでに教室中に広まっていて、教室を出るとき多くの視線に注目されました。
なんとか気にしないよう心がけて教室を脱出します。
「今週終われば夏休みですわ。頑張ってくださいまし」
アルストリアさんの励ましの言葉が胸にきます。
テスト返却期間でもある今週が終わればいよいよ夏休みがやってきます。
そうなればこの羨望の的からもおさらばです。きっと。
アルストリアさんの言うとおり、がんばりましょう。
そのまま〈生徒会室〉に到着すると、すでに上級生の皆さんが来て作業を始めるところでした。
「あ、ハンナちゃん、いらっしゃーい!」
「みなさん、お疲れ様です」
「ほんとう、すっごく疲れたよー」
ミーア先輩の出迎えの言葉に返すと机の上にミーア先輩が身を突っ伏します。
「ミーア。情けない姿を後輩に見せないの。それにテストの結果なんていつもの事でしょ?」
「チエちゃんはいつも一桁だからわかんないだよこの気持ちは~。一桁順位ってかなり視線を食らうのね、これは疲れるわ~」
「チエちゃんではありません、先輩と呼びなさい。そういえばミーアは今回点数良かったのね」
「そうなの! ハンナちゃんと勇者君のおかげでね!」
「その話は何度も自慢されたわよ。それで、ちゃんと支払いは済んでるの?」
その言葉を投げられた瞬間、ピキーンと凍り付いたみたいにミーア先輩は固まります。
その態度を見たチエ先輩の目が鋭くなりました。
「ミーア?」
「だ、大丈夫。分割払いにしてもらったし。なんとか払ってみせるというか――」
「……少し、向こうの部屋でお話しましょうか? 相談に乗るわよ」
「へ!? いや、大丈夫だってチエちゃん。すこーし無理をすれば何とかなるから」
「チエちゃんではありません。いいからこっちに来なさい」
「あー!? チエちゃん首根っこ掴んじゃダメー、自分で歩くからー」
そのままチエ先輩に掴まったミーア先輩は連れて行かれてしまいました。多分ラウンジに行ったのだと思います。
「はっはっは、相変わらず騒がしいね、ここは」
「チエは相変わらずなのじゃ。テスト明けだというのにあのパワフルさは、ちょっと分けてほしいのじゃ」
チエ先輩たちを見送ると、〈生徒会室〉から陽気な声が聞こえました。
「ローダ先輩、フラーラ先輩もお疲れ様ですわ」
「やあ、後輩君たち。早速で悪いが仕事を頼まれてくれるかい?」
「テスト期間は〈生徒会〉はお休み。しかし少ないが仕事は貯まるのじゃ。一気に捌いてしまいたいのじゃ」
「はい、大丈夫です」
「頑張るのです」
「助かるのじゃ。さすがに弟ばかり仕事を任せるのも忍びなくなっていた所だったのじゃ」
見れば〈生徒会室〉の奥、前にムファサ生産隊長が座っていた生徒会長席にローダ先輩が座り、副隊長の席にフラーラ先輩が、そして端っこに教室で使われる机が置いてあってサトルさんが必死に山積みの書類と格闘していました。
私たちもすぐに準備し、いつも通り〈生徒会〉活動の手伝いをします。
これが夏休み前最後の仕事ですね。




