#073 人波が分かれた道を歩くハンナ様。なぜ?
「い、いよいよ結果発表、でしゅ……」
「そんなに緊張しなくても大丈夫ですよシレイアさん。あんなに勉強頑張ったじゃないですか」
「ハンナさんの言うとおりですわ。できる限りをやり終えたではありませんの。もっと胸を張るのですわ」
アルストリアさんがとても豊かな胸を張ります。
シレイアさんはそれを見て自分の胸をペタペタ触るだけです。
さらに気分が沈んでいるように見えるのは気のせいでしょうか?
ぎゃ、逆効果です。
さて、期末テスト期間も終わり、結果発表です。少しドキドキしますね。
この〈ダンジョン生産専攻〉では上位100位までの名前が学園掲示板に張り出されます。
あと、赤点者も載っています。そちらは無視していいでしょう。無視できず嘆き膝を突いている方もいらっしゃるようですが気にしてはいけません。
私は、結構手応えがあったので多分上位100名に載っているのではないかと思うのです。
ここに載っていなければランキング外で、点数はテストが返ってくるまで分かりません。
3人で学園掲示板に張り出された大きな紙に近づきます。
すると、同じく集まって居た人たちからこんな声が聞こえてきました。
「お、おい。ハンナ様だ。ハンナ様のお通りだぞ!」
「な、何!?」
「ああ。神々しい。いつ見ても美し……、可愛らしい」
「なぜ言い直した。いや、可愛らしい以外該当するものが無いのは分かるが」
「こんなに可愛くて強くて成績優秀とか、天は二物を与えたのですね」
「なんか信者が増えてないか?」
「おいおい、言っている場合かよ。早く道を空けよ! ハンナ様が通るのだぞ!」
「そういえば横の2人は誰だ?」
「知らないのか? ハンナ様と同じパーティに所属する【錬金術師】の方々だぞ? しかも〈錬金術課〉では3人がトップスリーを独占しているとの話だ」
「マジかよ!? 〈錬金術課〉の精鋭か!?」
「俺は最初から雰囲気がどこか違うと思ってた」
「嘘をつけ。お前がハンナ様しか見てなかったことは知っているぞ」
「そういえば、たまに〈マート〉で見かけるなあの子たち。品質がとても良くて使いやすい物を多く売っているからすぐ売り切れちまうんだ」
「ハンナ様の商品だと!? お、おい。その話詳しく」
「え、やだ」
ざわざわと、なぜか注目を集めています。
うう、いつもならゼフィルス君の後ろに隠れるのですが、ここにはゼフィルス君は居ません。恥ずかしいです。
思わず足が止まりそうになりますが、瞬間ズザァァっという音がなりそうな勢いで集まって居た学生さんたちが左右に割れ、学園掲示板への道が現れました。
な、なぜ……これでは逃げられません!?
後ろのシレイアさんなんかぷるぷる震えて、私の裾を掴んでいます。私も誰かに掴まりたいです。
アルストリアさんは堂々とした歩みです。うう、かっこいい。
隣のアルストリアさんを見習い、私も覚悟を決めました。ドキドキが加速します。
止まりそうな足を気合いを入れて動かして先へと進みます。ちょっとアルストリアさんの側に近いのは許してください。心細いのです。
そして、なんだかやたら長く感じた学園掲示板への道を歩ききり、ようやく文字が見える位置まで来られました。
なぜか「もっと前へどうぞ」みたいな催促の視線を感じますが、私はここでいいです。見たらすぐに戻りますから!
ドキドキが最高潮です。
もう左右の視線は気にしません。さっさと見てさっさと戻りましょう。
私は下の方、100位から順に視線を辿っていきます。
あれ? なかなかありませんね。すでに800点越えという超優秀生徒しかいない領域までたどり着いてしまったのですが、私もアルストリアさんもシレイアさんも名前がありません。
「あ」
そのままランキング20位まで視線を追ったところに〈錬金術課〉で第4位の人の名前がありました。
私たちの名前はまだありません。もしかしたらランキング外なのではないかと不安に駆られます。
そのまま10位を過ぎ、9位、8位と名前を見ていくと、ようやく発見しました。
第1位・ハンナ 座学・点数620点 実技・点数200点
第2位・アルストリア 座学・点数698点 実技・点数190点
第8位・シレイア 座学・点数457点 実技・点数197点
「……ふえ?」
首が疲れるほど上にその名前はありました。
私はしばらく呆然とそれを眺めます。
周りからまた話し声が聞こえてきました。
「さすがはハンナ様だぜ。実技満点とか……」
「ああ。生産職は腕が命。座学も重要だが、それより実技の点が優先される。1位も納得だな」
「〈ダンジョン生産専攻〉数千人の中でトップとか、さすがですわハンナ様」
「座学の点も凄いな。実力のある者はやはり勉強も出来るのか……」
「俺は?」
「下がってろ。ハンナ様の目が汚れてしまう」
「酷くね!?」
ざわざわとした話し声に、私は上手く反応できませんでした。
そのままゆっくり振り返ってその場を立ち去ります。
「おお。去り際も可憐だ」
「1位だったのにまったく動じていないぞ。俺もあんな風になりたい」
「右手と右足が一緒に出ているような……?」
「何言ってんだ。気のせいだろ?」
「俺、【錬金術師】に〈転職〉しようかな」
そんなざわめきを背後に私たちは〈生徒会室〉へと逃げ込みました。
「はぁ~。至福だわ~」
「ミーア先輩! おじゃまします!」
「うひゃわぁ!?」
そこでは優雅にまったりとお茶していたミーア先輩がいました。椅子から飛び上がる勢いで驚いています。
急に飛び込んでしまってごめんなさい。
「ど、どうしたのハンナちゃん!? アーちゃんにシレイアちゃんも!?」
「す、少しでいいのでここで落ち着かせてください」
「??」
私たちは勝手知ったるで中に入ると、そのままお茶を入れてまったりしました。
深呼吸すると、茶葉の香りがとてもリラックス効果を生みます。
「すー……ふゃー……」
「落ち着きましたか? ハンナさん」
「――はい。急に〈生徒会室〉に来てすみませんでしたアルストリアさん」
「気にしなくてもいいですわ。あの雰囲気はわたくしも驚きましたもの」
アルストリアさんも何も動じていないというわけでは無かったらしく、困った顔をしていました。
「なになに? ハンナちゃんたちどうしたのさ?」
ミーア先輩が興味深そうに聞いてくるので先ほどの話をすると、クスクスと笑い始めました。
「それは、相変わらずハンナちゃんの人気は凄いわねぇ」
「ですが、そこまで注目されるのは困りますよー」
「でもテストで1位だったんでしょ? すごいじゃない!」
「……自分でもびっくりしています。というより、なんで私が1位なんですか!? アルストリアさんの方が総合点数は高いのに!」
私の座学の点数は620点。アルストリアさんは698点です。
なのにどうして私が1位なのでしょうか? その理由はミーア先輩が教えてくれました。
「あ、ハンナちゃんは知らないのね。ほら、生産職って腕が命じゃない? だから座学より実技の点の方が成績に優先されているのよ。もちろん座学の点も重要だけど、実技で満点なんて出したら座学満点より扱いは上になるわ。ハンナちゃんとアルストリアさんだと実技は10点分差があったみたいだし。座学の80点ぐらい簡単にひっくり返るわね」
ミーア先輩の説明に私は驚きを隠せませんでした。
とはいえ80点差がひっくり返るなんて言うのは本当に希らしいです。私が満点を出したからこその処置ではないかとミーア先輩は言います。
「あとシレイアちゃんなんて座学が低かったのに8位でしょ? これは実技が197点だったからね。実技で190点以上なんて滅多に付かないんだから」
どういうルールで順位が決まっているかなど、大まかにはそんな感じらしいです。
細かな感じだと教員しか分からないらしいですが、とにかく私は実技が大変よろしかったため1位になった事は分かりました。
「アーちゃんも2位おめでとう。シレイアちゃんも8位おめでとう~」
「ありがとうございます。ミーア先輩。ですが、実技で190点しか出せなかったのが悔やまれますわ。次はもっと上を目指せるよう頑張りますわ」
「あ、ありがとうございます! ですが、本当に私がこの順位でいいのですか?」
アルストリアさんは座学でほぼ満点を取っていたというのに早速自分を見つめ直していました。
シレイアさんは私とナカーマです。
私も、1位はとても嬉しいですが、なぜか素直に喜べませんでした。




