#070 新しい装備にウキウキ。でも勉強もしようね?
無事商談(?)が終わりました。
ミーア先輩はやはりといいますか、お金の手持ちが足りないらしく、でも二つとも欲しいので分割払いということになりました。
普通は分割払いなんてものは無いのですが、ゼフィルス君いわく。
「俺も昔お金が足りないとき、三年生の先輩から素材の後払いで仮購入した事があったんだ。持ちつ持たれつってやつだよ」
とのことで、ミーア先輩が困っていたためお金は後日支払いOKということになりました。
「うう。ゼフィルスさんがすごく男前……」
「……ミーア先輩、ダメですわよ?」
「わ、わかってるわ。ハンナちゃんを泣かせることなんてしないから」
受け取った〈コック帽子〉と〈純白エプロン〉を抱えながらミーア先輩がうるっとした目でゼフィルス君を見つめていました。
そこにアルストリアさんが釘を刺します。
私も後で刺しておきましょう。ちょっと大きめのを。
「それとミーア先輩、わかっているとは思いますが。これはゼフィルスさんが、わたくしたちがハンナさんのお友達だから恵んでくださったというのを忘れてはいけませんわ。間違ってもギルドの共通財産などにはしないようにしてくださいね」
「そ、そのくらいわかっているわ」
「ギルドからお金を借りるのも無しですわよ? 弱みとして、そちらを貸してと言われたときに断れませんからね?」
「う、え、だめ?」
「ダメですわ。そういうことなら私が力になりますから、なんとか工面しましょう」
「ううう、アーちゃんありがとうー!」
「わっぷ。も、もう、仕方ありませんわね」
なんだかミーア先輩がアルストリアさんに飛び掛ってじゃれています。仲良さそうで羨ましいです。
「んじゃ、俺はこれから〈大図書館〉行ってくるから、ここでお別れな。またな~」
「あ、そっか。ゼフィルス君も勉強頑張ってね~」
そういえばゼフィルス君は勉強会の真っ最中でした。
カルアさんに教えるのも終わったみたいなので、次は自分の分を勉強するのでしょう。多分。
ゼフィルス君に勉強がいるのかは置いておきます。
4人で見送ると、ゼフィルス君は後ろ向きに手を振り、そのまま歩いていきました。
「去り際もいいわね」
「それには同意いたしますわ」
「さすが勇者さんでしゅ。さすゆう、でしゅ!」
「さすゆう……」
ゼフィルス君の人気は留まることを知らないです。
でも〈さすゆう〉とはなんでしょう?
「ふう。それはともかくとしてですわ。無事装備が確保できてよかったですわね」
「本当ね。ゼフィルスさんには感謝感謝ね」
「です! これで実技テストはばっちりなのです!」
「シレイアさんのその装備なら、生産専攻の上位100位に掲示されるかもしれませんね」
アルストリアさんの言葉にみなさんにこやかに頷きました。
ちなみに上位100位とはテストの順位です。この〈ダンジョン生産専攻〉では学年で高順位、100位までの学生は学園掲示板に載るそうなのです。
これはすごいことです。ちなみに、〈戦闘課〉の方は課目ごとに分かれて順位付けされ、さらに〈戦闘課〉では人数が多すぎるために上位300位までが掲示されるそうですね。規模が全然違います。私たちのところは生産職全体での順位ですから。
「ええ。この装備なら間違いなく高順位間違い無しだわ。早速練習しないと!」
「え? でも当日までなにがお題で出るのかわからないのではなかったでしたっけ?」
「何言ってるのハンナちゃん。新しいスキルに慣れておかないと、料理はバフだけじゃなく味だって変わっちゃうんだから!」
そう言ってミーア先輩は抱いていた新装備に頬ずりしました。
ミーア先輩は新しい装備を手に入れたことでちょっとはしゃいでいるみたいです。
ゼフィルス君みたいです。
「みなさん、この後はどうするおつもりですの?」
「え? 部屋に戻って勉強する予定ですけど」
「「…………」」
アルストリアさんの言葉にこれからの予定を普通に返しましたが、それを聞いたミーア先輩とシレイアさんが無言でした。なぜでしょうか?
「それでしたら、みなさんで集まって勉強会など行ないませんか? ゼフィルスさんもギルドで勉強会をしていらっしゃると言っていらっしゃいましたわ」
「それはいい考えです!」
私はそう答えながら視線をミーア先輩とシレイアさんに向けます。
ちょっと装備をぎゅっと抱きしめながら震えるミーア先輩とシレイアさん。
「新しい装備を試したくて仕方ないのは理解できますが、もうテストまで時間がありませんわ。ミーア先輩は2年生で課目も違いますが、1人にするより身が引き締まると思いますわ」
「う、うん。そう、だね……」
同意したミーア先輩の声は震え声でした。
新しい装備を試したらいつの間にか朝だった。なんて話は生産職では珍しくありません。
ミーア先輩の静かな浮かれ具合が心配なアルストリアさんは、ミーア先輩を勉強会に巻き込むことに決めたようです。
ミーア先輩はガクリと肩を落としていました。
その後、みんなで福女子寮のラウンジの一室をお借りできたため、そこで勉強会を行なったのでした。
今後、テストが開けるまでは毎日行なうかも、とのことです。




