#007 ハンナの勘違い。錬金術課の授業風景?
――キーンコーンカーンコーン――。
授業が終わる鐘の音が学園中に響きます。
私が〈ダンジョン生産専攻・錬金術課1年1組〉へと入学してから10日が経ちました。
この10日で改めて思いましたが。
皆さん、私の事買いかぶり過ぎていると思います。それもすごく……。
今日は授業でこんなことがありました。
ちなみに私のクラスは学年主任なはずのアイス先生が担任です。なんで? とは聞けませんでした。きっと私が考えていることは気のせいなはずです。
「ハンナさん。少しこちらの中級〈MPハイポーション〉を作製してもらえますか」
「あ、はい! 分かりました」
実地授業中に突然の指名がありました。
ちょっと声が裏返りそうになるのを慌てて押さえて教壇に立つアイス先生の下へ向かったのです。
「お、おい。MPハイポだぞ、あれ」
「ええ!? 中級ダンジョンの素材じゃん。あれできちゃうの!?」
「さ、さすがハンナさんだ」
えっと、なんだか〈錬金〉したら大変なことが起きそうな気配がするのですが、本当にやるのでしょうか?
ちなみに私、つい先日初めて中級下位の〈丘陵の恐竜ダンジョン〉に行って〈上魔力草〉をゲットしました。おかげで〈MPハイポーション〉は作ったことがあります。
なのでやり方はわかるのですが……。
アイス先生も「作製してください」と材料を渡すだけでレシピは教えてくれません。
これ、私が知っている、もしくはやった事がある前提で話をしていますね?
実はこのレシピは〈大図書館〉に行けば普通に知ることができます。全部学園側が公開しています。
そのため、知らなかったでは恥をかいてしまうかもしれません。
で、でも、やったらやったでなんかとんでもないことが起きるような気がします。
固まる私にアイス先生が声をかけてきます。
「大丈夫ですかハンナさん?」
「あ、はい! 大丈夫です。出来ます!」
あ。――つい出来ると言ってしまいました。
なぜだかアイス先生を見ると、なんでも正しく応えなくちゃいけない気がするんです。
なぜか教室内がざわめいた気がします。
ええい、ままよ!
私は壇上に置かれた〈初級錬金セット〉を見て、それから素材を見て、覚悟を決めました。
でもなんだかとってもいっぱい素材がある。これ30本くらい作れちゃう量あるんじゃないかな?
よし、昨日やったとおりやってみよう。
「――錬金起動。調薬開始」
私は自分に暗示をかけます。
ゼフィルス君が声に出したほうが成功しやすいよ、って教えてくれたので実践中です。
実際は毎回上手くいくので良く分からないのですが。
でも成功しているのですから効果はあると思います。多分。
「まずは葉をすり潰して――15枚いけますね」
まず〈MPハイポーション〉の大本の素材となる〈上魔力草〉をすり潰していきます。
これは『調合LV10』『大量生産LV10』の私であれば10枚以上いっぺんに出来ます。
ゼフィルス君が言っていたDEX値と見比べても余裕そうなので、今回は15枚の〈上魔力草〉をすり潰します。2回に分ければ30枚いけます。
「『大量生産』!」
私の『大量生産』の能力はこういうとき便利です。一気に数をこなせますからね。
『迅速調合』や『簡略生産』のおかげでササッと30葉分のすり潰しを完了させます。
次にこれを〈水素材〉と混ぜるのですが、ただの水よりも〈中間素材〉と一緒に混ぜると品質が上がったり、効果が高くなります。
ですが、アイス先生が用意してくださったのは品質の高いだけのただの〈水〉でした。
これでは普通の物しか出来ません。
勿体無い、実に勿体無いです。
ほんの少し手間を加えるだけでアイテムの効力が1.5倍になるのです。
ゼフィルス君も出来るだけ高品質で揃えたいんだって言っていました。
利用者だってできるだけ良い薬を使いたいのです。
ということで私は素早く先生が用意した水にある物を落としました。
トポンッという音を立てて水のそこに沈んでいく、石。
見た目はただの石ですが、これは〈浄石〉と言って、調合用の使い捨てアイテムの一種です。
「『調合』!」
スキルを使うと〈浄石〉が粉々に砕けて水に溶けていき、ピカッと水が光りました。
これでこの水は中間水素材の〈純化水〉に変わりました。
これを使うだけで〈MPハイポーション〉が高品質になりやすくなるんです。
使わない手はありません。
私は教室内がシーンと固唾を呑んで見守っている状況になっていることにも気がつかず、手を動かし続けました。
今度は、出来上がった〈上魔力草〉30葉分のペーストに〈純化水〉を流し込み、『調合』を掛けて成分を抽出します。
〈錬金セット〉の1つの〈抽出フラスコ〉という金魚鉢型のシャボン玉みたいな物にこれらを入れます。
どう見ても突いただけで割れてしまいそうな〈抽出フラスコ〉ですが、なぜかこの表面張力は割れません。むしろぶよんぶよん形を変えるため衝撃に強いくらいです。
「――薬効抽出開始、『調合』!」
とーっても不思議なことに〈抽出フラスコ〉から下のフラスコに薬液が絞られるように落ちていきます。
この〈抽出フラスコ〉はろ過機でもあるのです。穴は空いていないのですが。
これで薬液の抽出ができました。
〈抽出フラスコ〉には残りカスがあまるのでこれは後で捨てるとします。
さて、最後の仕上げ、錬金です。
しかし、なぜか〈魔石(中)〉が10個しかありません。
後20個必要なはずですが……。
アイス先生のど忘れでしょうか?
仕方ありません。私のポケット魔石から20個出しましょう。
いつも持ち歩いている〈空間収納鞄〉からジャラリと魔石を取り出すとなんだか周りが騒がしくなった気がしましたが、今は錬金に集中です。
ここが腕の見せ所です。
フラスコの薬液と魔石30個を〈錬金釜〉へ投入し、〈錬金棒〉でかき回します。
「――濃厚、凝縮、薬効高く。う~ん流速はこんなものかな~、よーく馴染ませて。よし、いい感じ! 『薬回復量上昇付与』! 『錬金』!」
頃合と見た私は『錬金』を発動します。
本来なら30本いっぺんになんて無茶です。半分成功すれば良い方でしょう。
でもそこはゼフィルス君の教育の賜物です。
私のスキルは量産に特化しているとの事で、これくらいなら余裕なのです。
『大量生産LV10』、『迅速錬金LV5』、『簡略生産LV3』、『錬金LV10』をフルに使います。
釜の水が輝き、それが収まったとき、大量の小瓶がそこに現れていました。
「10……20……30! やった、30本成功しました!」
よかった、無事に30本全てできました!
錬金釜の中には、そこにあったはずの薬液と魔石がキレイに無くなり、〈MPハイポーション〉の小瓶が30本出来上がっていました。一先ず成功です!
後は性能ですね。
この〈錬金術課〉の教室には簡易的にアイテムの〈鑑定〉が出来るアイテムがあります。
それを使い見てみると、30本中23本が高品質ということがわかりました。
やりましたよ! これは大成功と言ってもいいのではないでしょうか!
半分以上が高品質なら言う事無しです!
私の『薬品質上昇LV1』『薬回復量上昇付与LV1』も少なからず役に立ったのだと思います。
これほどたくさんの高品質なんてなかなか無いですから、今回とても上手くいきました。
私はクラスがいつの間にか静まりかえっているのにも気が付かず、アイス先生に元気いっぱいに報告しました。
このときは〈MPハイポーション〉の完成度が高くて……、舞い上がっていたのです。
「アイス先生、出来ました! とても上手く作れたと思います!」
「ここまで出来が良すぎると、逆に困ってしまいますね。ハンナさんとても良いできです。期待以上でしたよ」
「え、えへへ?」
なんだか困った顔をされた気がしますが、褒められているということですよね?
満足して席に戻ろうと振り返り、私はそこで今が授業中ということを思い出しました。
後日聞いた話で知りました。あれはそもそも30本全てを〈MPハイポーション〉に加工できるなんて想定していませんでしたし、それを一遍に、まとめて、一気に、加工できるなんて思っていませんでしたし、何より作製のスピードが速すぎて、さらに自分の私物からアイテムまで使って〈MPハイポーション〉を高品質に仕上げるなんて予想外だったらしいです。
最初ですし、練習の意味もあったからこそ魔石は10個しか持ってこなかったですし、高価な中間素材も持ってこなかったらしいです。はい。
完全に私専用に用意した練習みたいでした。勘違いでした。
それを私が難なく、しかも想定以上に上手くやってしまったということで、アイス先生はあんな微妙な表情をされていた、ようでした。
そ、そうならそうと言ってくれればよかったのに!
なんかあれ以来、クラスの子たちの私を見る目に尊敬が宿りすぎているように感じるんだよ!
ううん、実際そう! 一部からハンナ様って呼ばれていて、様って何!?
わ、私普通の女の子なのに~。
そ、そんなに尊敬した目で見つめないで! キラキラした目もダメだよ!?
うう、今日はまだ月曜日なのに、明日からまたどうなっちゃうんだろう。
ちなみに、高品質にした〈MPハイポーション〉ですが、ギルドで〈上魔力草〉代をミールで、〈魔石(中)〉10個を現物で返却したら作製した30本全てをいただけました。
ゼフィルス君が喜んでくれて頭をなでなでしてくれました。それだけはとても嬉しかったです。