#067 装備品がインフレ中。助けてハンナちゃん!
「ハンナちゃん! 実技で使う装備が無いの! 助けて!」
「なんだかデジャブを感じます!?」
「はう。ミーア先輩もでしゅか!?」
授業も終わり、シレイアさんのお願いを叶えにギルドへ行こうかと思ったところ、いつか見たような光景と同じくミーア先輩が教室にやって来たのです。
でも今はちゃんとロングホームルームも終わっています。
「も、ってことはシレイアちゃんもなの?」
「はいです。ハンナ様にお願いして、なんとか用意できないか、これから探しに行くところだったのです」
「そ、それ私も参加させてハンナちゃん! 〈生徒会〉の手伝いしていたら実技で使う予定のあれやこれやが間に合わなかったの!」
な、なぜ私!?
私なんかよりチエ先輩とか頼りになる先輩はたくさんいると思うのですけど。
「ハンナちゃんだけが頼りなの。チエちゃんったらひどいのよ。あれだけ〈生徒会〉の業務を手伝ってあげたのに、料理に使う素材各種しか用意してくれなかったんだから。うう、次のテストまでに新しい装備を整えるつもりだったのにー」
「大変でしたわね……」
アルストリアさんが話を聞いて困ったように呟きました。
シレイアさんとは別の理由で準備の機会を逃したらしかったミーア先輩。ミーア先輩が忙しかったのは私たち全員が知るところです。
ミーア先輩は〈調理課2年1組〉に在籍し、高位職にあたる【高位料理人】の職業に就いている成績優秀者さんです。その実力は〈生徒会〉の正規実行委員の1人に選ばれているところを見れば分かります。
〈生徒会〉は、忙しかったことへの償いとしてかなりの高級食材の山を用意したみたいでした。正直それも憧れるところです。
ちなみに私たちも錬金素材や〈中級錬金〉の道具などをいただいています。
私は〈巨大錬金釜〉をいただきました。2つ目です。えへへ。
しかし、ミーア先輩の調理道具は最高の物がすでに取り付けられているとのことですし、欲しいのは装備だったみたいです。
ですが、装備は今なかなか手に入りません。売っている所はありますが、作っているところは無いのです。だってテスト期間ですから。
そのため今売られているのは所謂売れ残りです。そして装備のお値段はお高いのです。買うのなら妥協はありえません。
「でもミーア先輩は、どうして私を頼ったのですか? 私ではお力になれないかもしれませんよ?」
「そんなことないわよハンナちゃん。私が掴んだ情報によると、勇者君が最近大量に装備を売り払っているって話を聞いたんだから」
どこでそんな情報を?
う、うーん。確かにゼフィルス君はこの前まで中級下位で出た〈銀箱〉産以上の装備を売り払っていました。
なんだかゼフィルス君がすごい値段で売れると言っていましたが、原因が分かったかもしれません。
とりあえず私たちは移動することにしました。
なんだかクラスで注目を集めていたので。
道中アルストリアさんが不思議そうにミーア先輩へ尋ねます。
「でも一年生の装備は分かりますが、二年生の装備まで品薄なんですのね」
そう言われてみれば変ですね。一年生は初のテストなので色々準備があるのは分かります。
ですが、二年生は装備が結構整っていたかに思うのですけど。
その答えはミーア先輩の口から告げられました。
「そうなのよ……。今年は二年生が装備を更新しまくっているみたいなの。最初は〈戦闘課〉だけの話だったのだけど、それに触発されたのか、伝播したのか、焦ったのかは知らないけれど、各生産ギルドや支援ギルドまで影響されちゃって。今では中級装備が平均倍くらい値段が違うのよ! インフレ起こしすぎよ!」
ミーア先輩が両手を挙げてうがーと唸りました。
その動作は、年上ながら可愛いと思いました。
ミーア先輩は納まりつかないようでさらに訴えるように言いました。
「高いやつならいつもの三倍くらいの値段がついちゃってね。それならまだ店に残ってはいるのだけど、性能よくってただでさえ値段が高い装備がさらに三倍の値段。とても手が出せないわ。でも他の装備はみんな二流だし……」
良い装備が、値段三倍……。私がマリー先輩に装備を頼んだとき、例の報酬の3分の2が吹き飛びました。下手をすれば全部吹き飛んでさらにそれ以上掛かったかもと思うと震えがきます。ちなみにマリー先輩は通常のお値段で請け負ってくれました。常連で顔なじみで本当によかったと思います。紹介してくれたゼフィルス君には本当に感謝してもしきれません。
あと、ゼフィルス君がなんでこの機会に大量の装備を売りまくっていたのかが分かりましたね。さぞ大量に儲けたことでしょう。すべてはギルドの共通資産となったはずなので、私も何か欲しい物を頼んでもいいのでしょうか?
「でも、そういうことならゼフィルス君が少しは持っているかもしれません」
「本当ハンナちゃん!?」
「でしゅ!?」
「うん。でもこの機会にたくさん装備売ったって言っていたので確実とは言えないかもですけど」
ゼフィルス君のことですから良い装備は手元に残してあるに違いありません。
その辺いろいろ知っていますからゼフィルス君は。
後々使える物とか、価値が高い物とか、本当に良い物はゼフィルス君が溜め込んでいるのを私は知っています。
でも今なら高値で売れる物を安く通常のお値段で売ってほしいというのは、やっぱり難しいでしょうか?
そんなことを考えながらギルド〈エデン〉のある校舎に入ると、そこでバッタリゼフィルス君に会いました。
「あれ? ハンナか。今からギルドか?」
「あ、ゼフィルス君」
玄関口で出会ったゼフィルス君は、なぜか同じギルド〈エデン〉のメンバーであり「猫人」でもあるカルアちゃんを小脇に抱えていました。
「えっと。どこかに行くの?」
「ちょっと貴族舎まで、な。リカにデリバリーするところなんだ。寄り道せずに最短で、時間を節約のために俺がひとっ走りしようと思ってな」
私はぷらんと両手足を投げ出しているカルアちゃんをもう一度見ます。
その表情はどんよりしていました。
そういえばカルアちゃんは勉強が苦手でしたね。今〈エデン〉は勉強会の真っ最中。
確かリカさんがカルアちゃんの夜勉強を見る担当でしたっけ。
ゼフィルス君はカルアちゃんが寄り道しないよう送り届ける運び屋さんのようすです。
「ん。世の中、絶望に満ちてる」
「カルアちゃん、頑張ってください」
カルアちゃんが光を失った目で呟きました。
私には励ますことしかできません。
「―――あの、ハンナちゃん。用件、用件」
「あ。そうでした」
ミーア先輩が肘でコンコンしながらこっそり告げてきたことで私はハッとします。
「ねえゼフィルス君この後少し時間あるかな? 少しお願いがあるの」
「ん? いいぞ。ハンナのお願いだしな。じゃ、ちょっとカルアをデリバリーしてくるから少しだけ待っててくれ」
「わかったよ。この辺で待ってるから」
「おう。ちょっぱやで行ってくるぜ!」
「ゼフィルス、私が走ったほうが、速い。降ろして」
「俺がカルアに追いつけないからダメ」
びゅーんと音がする勢いでゼフィルス君は貴族舎へ向かってしまいました。
「さて、約束は取り付けられましたし、私たちはこの辺で待っていることにしましょう。あの様子ならすぐに戻ってくると思いますから」
「ふーん……」
「あ、あれ?」
振り向くと3人の様子が変でした。
なぜか疑いの眼差しや面白いもの発見といった好奇心に満ちた目を向けられています。
「ハンナちゃんってさ、勇者君と仲良すぎないかなって、思うんだよねぇ。言葉遣いも砕けてたし」
「わ、わたくしも前々から気になっていましたの。その、ハンナさんとゼフィルスさんってどんな関係なのですの?」
「とっても気になるの、でしゅ!」
「え、えええっ!?」
どうやら乙女の興味心という地雷を踏み抜いてしまったようです。
どうしましょう。
私はゼフィルス君が戻ってくるまでの間、根掘り葉掘り聞かれ、その全てをなんとかかわしきったのでした。




