#063 ハンナちゃん、装備を更新する。
ギルドで生産担当になってしまった私ですが、未だに中級下位ダンジョンには回復系魔法が付与された杖を使い、回復役として同行することもあります。
でも、私は防御力に難有りで、シエラさんに守ってもらうことが前提となっています。
これは望ましくありません。
ということで防具を更新しようかと思います。
幸いにも、手元にはあの時の報酬がたんまりとありますから、良い物を揃えられると思います。
まずはゼフィルス君にアドバイスを貰わなくちゃですね。
こういうことはゼフィルス君に任せておけば間違いないのです。
そんなわけである日の夜、夕食を一緒に食べるという名目でゼフィルス君の部屋にやってきました。
朝はほぼ毎食ゼフィルス君と食べていますが、夕食は週に2度3度くらいです。え、多いですか? いえいえ私はもう少し増やしたいと思います。とはいえお互い忙しい身なのでなかなか時間が合わないのが辛いところです。
「ゼフィルス君、ちょっといいかな? 少し相談したいことがあるんだけど」
「お、なんだ? なんでも言ってみろ。ハンナのためならいつだって相談にのるぜ」
ゼフィルス君がかっこいいことを言いました。しかもこれ、冗談ではなくゼフィルス君なら本当に時間を作り、有言実行してしまうからすごいのです。
私は少し気恥ずかしくなって髪をイジります。
「えへへ。あのねゼフィルス君、防具を更新したいと思っているんだけど、何かいい物がないかなって相談したかったんだ」
「おお、やっとハンナも防具の更新か。例の事もあって俺もいくつか案を練ってたんだ」
例のこととは私が中級中位ダンジョンに付いていけなくなったあの件ですね。
でも、それで色々考えてくれていたなんてやっぱりゼフィルス君は優しいです。
私の髪をイジる手は当分帰って来れそうにありません。イジイジです。
ゼフィルス君は席を立つと、自分が持つ個人用の〈空間収納鞄〉を持って戻ってきました。そして中から四つの装備品を取り出しました。
「ハンナに渡そうと思って用意してたんだ。全てアクセサリーなんだが、錬金用に二つとダンジョン用に二つ用意してある」
装備品は全部で9箇所に装備が可能です。
それぞれ、右手、左手、頭、腕、体①、体②、足、アクセ①、アクセ②に装備します。
ゼフィルス君が取り出したのはアクセ①とアクセ②に装備する、所謂アクセサリー装備と呼ばれている装備品です。
それが四つ、二つずつに分けて錬金に使う用と戦闘を行なうダンジョン用で使い分けるみたいです。
でも、これ、結構お高そうですよ?
私はゼフィルス君が差し出してくる『鑑定』の付いたルーペの〈解るクン〉を通して装備品を見ます。
まずは錬金用の二つから。
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・アクセサリー①〈錬金上手の腕輪〉
〈防御力0、魔防力0〉
〈『錬金品質上昇LV10』『錬金作業速度上昇LV10』〉
・アクセサリー②〈錬金術師の心得書〉
〈防御力0、魔防力0〉
〈『錬金効率上昇LV10』『錬金の大失敗を恐れるなLV10』〉
―――――――――――
私はそれを見てびっくりしました。
二つともステータス値は上がりませんが、スキルが二つ付いてしかもスキルLV10、カンストしています!
私は思わずゼフィルス君の方に顔を向けました。〈解るクン〉を翳しながら。
「俺は鑑定出来ないぞ?」
「知ってるよ! ビックリしちゃったの!」
何コレ、スキルLV10が二つも付いてるよ!?
これは大変なことです。
スキルLVというのは本来ステータスについているもので、SPを消費してLVを上げます。
つまりです。このSPはLVが1上がる毎に1SPずつ貯まるので、この二つのアクセサリーだけでLV40分の能力が使えるのです。
これがどういうことか分かるでしょうか? とんでもない事です。
「どうしてこんなLV高いの!? もしかして〈金箱〉産?」
「いいや、〈スキル強化球〉を使った」
「あれ貴重な物なのに!?」
「必要経費さ」
装備やアイテムのスキルLVを底上げする〈スキル強化球〉はとても貴重です。
ボスの宝箱で取れることしか確認されておらず生産は不可。
しかも〈銀箱〉以上からしかドロップせず、しかもドロップ率はあまり高くありません。
そして〈銀箱〉のドロップ率自体20%を下回るというのだから、その希少度はとんでもありません。
「まあ気にすんなって。在庫はまだあるし、今後はもっと取れる予定だから」
ゼフィルス君がなんでもないように言います。事実〈エデン〉にとってはなんでもないことなのです。
〈エデン〉にいるとたまに常識が崩壊されそうになります。
私も〈生産専攻〉で常識を学んでいなかったらゼフィルス君のような軽い解釈で「そっかー」って受け入れていたと思います。
全ては〈幸猫様〉とゼフィルス君の知識が非常識だから起きていることで、これが普通だと思ってはいけません。
しかし、受け入れなければ〈エデン〉ではやっていけません。私は驚いた心を落ち着けてそのままその辺に流し、そう言うものだと思うことにしました。
「う、うん。それでこのスキルの効果だけど」
「ああ、まず一つは腕輪。名称は〈錬金上手の腕輪〉。スキルは『錬金品質上昇LV10』『錬金作業速度上昇LV10』、これらは単純に大量生産のアシストと品質の上昇だ。そのまんまだな」
この〈錬金上手の腕輪〉、そんなにあっさりとした説明で納得できるほど易しい効果じゃない気がしますよ? 大量生産のアシストと品質の上昇ってすごい効果ですよ? LV10ですし。
「続いては変わり種、〈錬金術師の心得書〉。スキルは〈『錬金効率上昇LV10』『錬金の大失敗を恐れるなLV10』〉。前者は、ハンナなら大量生産に向いた性能だな。効率の良い作業をスキルが教えてくれ、生産に掛かる時間を短縮してくれる。そして『錬金の大失敗を恐れるなLV10』は、大失敗を起こしたとき、その効果を上昇させる効果を持つ」
「えっと、最後のだけよく分からなかったんだけど?」
「最後のはな、例えば俺らがいつもやっている大失敗あるだろ? スライム4匹生み出すやつ。あれが倍に増えたり、たまに〈ブルースライム〉っていう上位種が生まれたりする」
「〈ブルースライム〉……」
聞いたことがあります。確か初級下位に該当するダンジョンで見かけるスライムの一種で、学園とは別のダンジョンで発見されていたはずです。ちなみに学園では出てきません。
「そして〈ブルースライム〉のドロップは〈スライムこんにゃく〉か〈魔石(小)〉なんだ」
「!!」
すごい! 〈魔石(小)〉はすごいです。
あれ? よく考えてみたらあまり凄くありませんね、〈魔石(極小)〉二つあれば作れますし。
でも、作業時間が少し短縮すると考えれば良い物であるのに違いありません。
「んで、これはハンナのために作ったのでギルドからハンナに貸与する。その変わり、これからも大量生産頼むな」
「うん! こんな良い物、ありがとう! もっと生産頑張るね!」
私はありがたくゼフィルス君が用意してくれたアクセサリーを身につけます。
あれ? でも腕輪はともかく本は少し持ちにくいですよ? 片手が塞がってしまいます。
「ポケットにしまっていても装備していることになるから今後はそうするといいぞ。後は帽子の中もOKだ。ただし〈空間収納鞄〉の中に入れると装備は外れるから注意な」
「うん。ありがとうゼフィルス君」
私は少し照れながら二つの装備を身につけました。どうでしょう?
「うんうん。いい感じだぞハンナ」
「え、えへへ」
ゼフィルス君に褒められるとつい頬が緩んでしまいます。ユルユルです。
しばらくゼフィルス君と錬金装備で盛り上がりました。
一息吐いたところで続いて残り二つの装備品も〈解るクン〉で確認します。




