#062 〈猫ダン〉道中、切り札〈マタタビの楠玉〉!
私たちは、その後も定期的に〈マート〉を利用するようになりました。
毎日はさすがに、私もギルドの活動があるので難しいですが、時々なら参加可能です。
それに商品作りは任せてください。ガンガン生産しますよ!
そうしていると、だんだんと役割分担が出来るようになって来ました。
私が商品生産担当。シレイアさんが商品生産&売り子担当、アルストリアさんとミーア先輩が売り子&商品補充担当です。
なお、ミーア先輩の呼び込みは一日でやめさせました。売り子さんが少ないのでそっちを手伝ってもらいます。
また私は、売り子はいいから商品を作るのに集中してくださいと頼まれました。
私が売り子をすると、とんでもない数のお客さんが来るからというのが理由です。
私の商品もかなり売れ行きがいいのですが、私が売り子をしたとき、売り上げがさらに倍になります。
なんだか私が売り子をするとどんどんお客さんがやってくるのです。しかも話しかけてくる方も多くて、ただでさえお客さんが多いのに回転が悪くなってしまうので私はアルストリアさんから裏方を命じられました。
しかし、これで何とか〈旅の道連れの錬金店〉は軌道に乗りました。
売り上げもだいぶ多く稼げてカツカツだったシレイアさんもほっこりしています。
シレイアさん、福女子寮に住んでいるくらい家が裕福なのに、お小遣いは生活費以外あまり貰っていないのだそうです。生産職たるもの自分で稼ぐべしという家訓らしく、苦労しているみたいでした。今はもう平気そうですね。
〈採集無双〉の方々の依頼も順調です。
現在は初級中位ダンジョン全体で活動しているみたいで、私たちだけではなく、他の一年生からも依頼が来るようなったと笑顔で話していました。
基本的に〈旅の道連れの錬金店〉の依頼が最優先されますが、それ以外は他のところとも取引は自由なので、〈採集無双〉さんの活動も応援したいです。
そんな色々と上手くいっている中、私事ですが少し、いえ結構重要なアクシデントと変化が起きました。
少し時間は遡り、それは私が〈エデン〉での活動をし、〈猫ダン〉を攻略する間際のことです。
ゼフィルス君から悲しそうな顔でハンナのステータスでは中級中位ダンジョンに付いてくるのは難しいと言われたのです。
うすうす分かっていたのです。
私の職業は【錬金術師】でステータスはMPとDEX特化、そしてRESへ大きく振り、他のステータスは初期値というガッチガチの生産職です。
ゼフィルス君の話では、普通の生産職は中級ダンジョンどころか、初級上位ダンジョンすら付いてくるのが難しいらしいです。
それでも私はゼフィルス君と一緒に活動したくて、無理に付いていっていたのですが、残念ながらここまでのようです。
ですが、さすがゼフィルス君です。今後は〈『ゲスト』の腕輪〉を装備し、現地生産要員として共に行くことを提案してくれたのです。
ゼフィルス君に付いていけるならそれでもいいので、願ったり叶ったりです。
私のために色々動いてくれたみたいで、だからゼフィルス君は大好きなんです。
これからは戦闘要員ではなく、生産要員として皆さんに付いていき、頑張りたいと思います!
ということで私は〈エデン〉が所有する〈からくり馬車〉、〈サンダージャベリン号〉に乗車し、ギルドメンバーと中級中位ダンジョンの一つ〈孤高の小猫ダンジョン〉、通称〈猫ダン〉を攻略しに行ったのでした。
私の役目は採集と、ポーションなどの作製です。ゼフィルス君に頼まれた物を現地生産したりします。
その活動はこんな感じです。
「ハンナ、次はこれを作ってくれるか? 猫モンスたちにガツンと効く〈マタタビの楠玉〉だ」
「うん! 任せて、そんなに数は作れないけど、大丈夫かな?」
ゼフィルス君から先日隠し扉を開けてゲットした〈マタタビの楠玉〉のレシピを預かります。
使う素材を見ると全てこのダンジョンで手に入る物ばかりなので作ること自体は可能です。ただ、あまりゲットできていない素材もあるので数は少なくなると思われます。
「あんまり使いすぎても練習にならないからな。これはピンチの時用の切り札だ。一応効果を確認するために一度は試すが、後は基本切り札用だな。実際使うかは分からないが」
「うん、わかったよ。まっかせて!」
「ありがとうハンナ。じゃあ頼むなー」
胸に手を当ててその仕事を請け負い、お礼を言ったゼフィルス君が探索に戻って行くのを見送ります。
切り札の作製なんて、ちょっとどころじゃなく重要なことです。
私は一部を錬金工房に改造した〈サンダージャベリン号〉内で気合を入れました。
その間、他のメンバーさんは外でダンジョン探索中です。たまに戦闘音と「にゃー」という猫の声が聞こえてきます。
少し外を見ると、森との林縁部、その先にはたくさんの猫さんたちが見えます。
〈猫ダン〉って不思議なところです。1匹くらい持ち帰ってはダメでしょうか?
しかしそれをしようとすれば猫集団に囲まれてフルボッコにされた挙句、道にポイされるらしいです。
やめておきましょう。
私は錬金に集中します。依頼品を作りましょう。
「錬金起動。調薬開始」
私はいつもの自己暗示から次々と素材を調合、錬金していきました。
「―――『錬金』! かんせーい!」
錬金釜の蓋を開ければ、黄色の薬玉がそこにありました。
これを投げると、そのエリアいったいに薬物の煙が広がります。そして、猫型モンスター限定ですが、なぜか〈魅了〉や〈睡眠〉などの状態異常とに掛かります。そうなればもうこっちの勝ちですね。
ゼフィルス君が切り札といった理由も分かります。
とりあえず12個は作れましたのでゼフィルス君に報告します。
「ゼフィルス君できたよ~」
「もう出来たのか! 早かったなぁ」
「えへへ、任せてよ」
私は完成した12個をゼフィルス君に渡しました。
ですがゼフィルス君はその内5つを私の手に戻します。
「ハンナは万が一があるからな。持っておくといい」
「もう、そんなに心配しなくても大丈夫なのに」
そうは言いつつも私は内心、少しニヤけます。
私、ゼフィルス君に心配されています。しかも切り札を5つも持たせるなんて、大事にされてるなぁ、大切にされているんだなぁと感じてしまうのです。ニヤニヤです。
「よし、早速効力を見ておくか、ハンナもどのくらいの範囲に影響があってどのくらい効果があるのか、見ておくといい」
「うん、分かったよ!」
私は照れを表に出さないよう少しテンション高めに返事をしました。
ゼフィルス君と〈サンダージャベリン号〉を出ます。
そこにはゼフィルス君以外に探索している〈エデン〉メンバーが9人いました。
「おーいみんなー、次の戦闘ではこのハンナ特製〈マタタビの楠玉〉を使うからな、当たっても人には影響は無いが、猫たちは状態異常が入ると思うから、そのつもりで心構えしてくれ」
ゼフィルス君が言い終わるとほぼ同時に猫モンスターが森から現れました2体です。
「おおう早速か。行け、〈マタタビの楠玉〉!」
少しビックリしたゼフィルス君でしたが、そのまま〈マタタビの楠玉〉を投げました。
「にゃっ!?」
「にゃー、にゃにゃ、にゃふん……Zzz」
直撃した2体の猫モンスター〈チャミセン〉は、どうやら〈睡眠〉の状態異常になったようです。丸くなってそのまま寝てしまいました。
どうしましょう。寝ている間に攻撃するなんて認めてもいいのでしょうか?
なんだかダメな気がします。
結局私たちは、寝てしまいとても可愛い感じの猫さんたちを攻撃することは出来ず。
代わりにとても鑑賞して、目の保養にしました。
みなさん満足そうでした。




