#061 マートで初めての販売。ちょ、売れすぎですよ!?
6月も終わりに近づき、ローダ先輩やフラーラ先輩、そしてサトルさんのおかげで〈生徒会〉の仕事もようやくひと段落しました。
そして今日、私たちが前々からやりたかった、けど色々あって先送りにしていた〈旅の道連れの錬金店〉を活動開始したのです。
「いらっしゃい! いらっしゃい! ここがハンナちゃんを始めとする未来の有望な錬金術師たちが集まる〈旅の道連れの錬金店〉だよー。会計お待ちの方はこちらの列にお並びくださーい!」
ミーア先輩の元気な声が市場に響きます。
呼び込みです。気合を入れて呼び込んでいます。
でももう呼び込みは要らないと思います。
「あ、この麻痺消しと毒消し、20個ずつくださーい」
「この〈レ・ファウム〉お手軽だな。この値段で良いのか? よし30個くれ」
「ハンナ様特製のポーション100個ください!!」
「は、はいーただいまー! ――うう、忙しさで目が回りそうでしゅ」
「頑張ってくださいシレイアさん。嬉しい悲鳴なら後でいくらでも聞いて差し上げますわ」
「ど、どんどん売れていくよー!? 在庫を補充する手が追いつかないです!?」
そこは戦場でした。
ここは学生が自由に売り物を広げられる市場の一つ、〈マート〉。
その一角を借りてお店を臨時開店したところ、どこから来たのかすごいお客さんが殺到したのです。
「いいやぁ~、いい立地貸してもらえてよかったわね~」
ミーア先輩がのんきなことを言っているのが聞こえた気がしました。
売り子をしている私、シレイアさん、アルストリアさんが激しい人ごみに目を回している中、うんうん頷きさらに呼び込もうとするミーア先輩。
止めたいのですが、人が多すぎてミーア先輩に声が届きません。ミーア先輩、そっちは良いからこっちを手伝ってー。
結局、忙しい中ちょくちょく貯めこんでいた在庫が60%も捌けてしまい、日が暮れかけてお客さんが少なくなったところでようやくお店は閉店しました。
「つ、疲れましたー」
「疲れたよー」
食堂の一席でシレイアさんと一緒にぐでぇーっと伸びをします。
「二人とも、はしたないですわよ」
「だって……、アルストリアさんはよく平気だね」
「わたくしだって疲れていますわ。ですが実家で仕事の手伝いもしていましたし、慣れているだけですわよ」
とても疲れているようには見えませんが、アルストリアさんは立派です。
「みんなお疲れ様、初の開店ですごい売り上げだったね! 管理人さんもいい位置を選んでくれたよ」
「……あれは罠でしたわ」
アルストリアさんがボソっと呟きます。
そういえば、今回開店した場所は管理人さんが手をこすりながら直接案内してくれた場所でした。
普通は番号札を渡されて該当する位置で露店を開くのですが、もしかしなくても特別扱いを受けたみたいです。
理由は多分、〈総商会〉でのあの騒動だと思います。この〈マート〉もかなり混乱したみたいですから。その恩返しにいい位置を選んでくれたみたいです。
ですが、完全に逆効果です。
アルストリアさんが罠と言うのも納得です。
「でも、売り上げはすごいのです」
「確かに、売り上げがすごいよね……」
シレイアさんが見つめるのは今日の売り上げです。私もその売り上げを見て息を呑みました。
何しろ在庫の60%が捌けたのです。
私が作った物は、ギルドの協力があって作れた物であればギルドに帰属。
それ以外で収集したものを使っているのなら私が自由にしてもいいことになっています。
そのため在庫は決して多くは無かったのですが、少なくも無かったはずです。
何しろ〈採集無双〉さんに採集を依頼しています。その大きな部分は私とシレイアさんで加工し、今回出品したのです。
〈採集無双〉さんは5月にの終わりまでにちょくちょく私たちのサポートを受けて初級下位ダンジョンの3つの証を全て集め終わり、現在は初級中位ダンジョンで活動しています。
今は〈魔力草〉を始め、多くの素材採集を行なって〈旅の道連れの錬金店〉へ卸してくれています。
「どれどれ~。うはっ。こりゃすごい売り上げだね~」
「本当ですわね。これなら店舗を構えてもいいかもと思えてしまいますわ」
ミーア先輩とアルストリアさんもこっちにきてシレイアさんの持つメモを覗き込み、感心した声を出しました。
売り上げは、約150万ミールでした。すごい金額です。一応今日って放課後の数時間しかマートを開いてないのですが、それでこの金額。どうりで忙しいはずです。
ここから様々な経費を引いてたとしても1日で1年生が稼いだ金額としてはかなり高額になります。
これを毎日稼ぐのでしたらアルストリアさんの言うように学生店舗を借りてもいいかもしれません。ですが、
「問題は商品の生産が追いつかないというところですよね」
「ま、今回売ったのは初級下位から初級中位までの商品だったし、単価も安かったからね~」
「量を売るのは基本ですが、生産体制が追いつかないのであれば縮小するのもしかたありませんわ」
「私も、早くハンナ様みたいに生産できるよう頑張らなくちゃ、です!」
つまり今は店舗を持っても肝心な商品が無いので売ることが出来ないので、店舗は諦めましょうということです。
「もう少し実力が付けば中級品も作れますし、パーティ店舗はそれからでもいいですね」
「ですわね。今のターゲットは一年生ですし。一年生は主に安い〈マート〉を利用していますわ。危うくミールに目がくらむところでしたわ……」
「です。話が纏まったところで、今日の売れたものから売れ筋商品を考察して、量産に入るのです!」
「その前に夕食だよ。今日は初の出店祝いなんだから乾杯して豪華なものを食べましょう! そしてデザートもたくさん食べるのよ。制限なんて無いわ、みんなで満足するまで甘い物を食べるのよ!」
ミーア先輩の言葉に私たちの目がキランと光りました。
そうですね女の子には栄養が必要なのです。ミーア先輩の言うことは最もでした。
「賛成です!」
「異論の余地なんてどこにもありませんわね」
「疲れた女の子には糖分が必要不可欠、なのです!」
みなさんも賛成し、今日は軽めの夕食と、デザートてんこもりが決定しました!




